昨今のポータブルオーディオ市場、特に「1万円〜1万5千円」という価格帯は、世界中のメーカーが技術の粋を競い合う、まさに「群雄割拠」の戦国時代です。
かつてこの価格帯は「エントリーモデルからのステップアップ」という位置付けでしたが、現在は状況が一変しています。
ハイエンドモデルの開発で培われた技術が惜しげもなく投入され、「安くて良いもの」は当たり前。
「安くて、美しくて、個性的で、さらに音が良い」という、極めて高いハードルを越えなければ生き残れない過酷な市場となっています。
そんな激戦区に、DAP(デジタルオーディオプレーヤー)の名門Shanling(シャンリン)が満を持して投入したのが、今回レビューする「Tino」です。
Shanlingといえば、創業30年を超えるオーディオ界の老舗ブランドです。
しっとりと艶のある、いわゆる「Shanlingサウンド」は多くのオーディオファンを魅了してきましたが、今回のTinoは単なる音質の追求だけに留まりません。
- 珍しい「10mm + 8mm」の異径デュアルダイナミックドライバー構成
- 伝統技法「箔焼き」を用いた、まるで宝石のようなフェイスプレート
- この価格帯では異例中の異例と言える「プラグ交換式」純正ケーブル
これだけのハイエンド級の要素を詰め込みながら、エントリー〜ミドルクラスの価格帯に抑え込んでいる点は、驚異的としか言いようがありません。
しかし、カタログスペック上の魅力と、実際の「音」や「使い勝手」は必ずしもイコールではありません。
オーディオファンとして気になるのは以下のような点でしょう。
- 「2つのドライバーの繋がり(クロスオーバー)は自然なのか?」
- 「美しい見た目に反して、実際の装着感や遮音性はどうなのか?」
- 「リケーブルやバランス接続で、音質はどこまで向上するのか?」
- 「話題のqdc SUPERIORなど、強力なライバル機と比べて何が優れているのか?」
この記事では、Shanling Tinoを自腹で購入し(あるいは提供を受け)、数十時間にわたるエージングと実使用を経た上で、そのデザインの質感から音質の微細なニュアンスまでを徹底的にレビューしていきます。
忖度なしの検証を通じて、このイヤホンがあなたの「新しい相棒」になり得るか、詳細にジャッジしていきましょう。
- Shanling 「TINO」の基本スペックとデザインの魅力
- Shanling 「TINO」のクラスを超えた付属品と純正ケーブルの拡張性
- Shanling 「TINO」の音質完全レビュー
- Shanling 「TINO」を使用した私の体験談・レビュー
- Shanling 「TINO」に関するQ&A
- FPSゲームや映画鑑賞にも使えますか?
- スマホ直挿し(アンプなし)でも十分な音量が出ますか?
- リケーブルのコネクタ規格は何ですか?
- 箱出し直後とエージング後で音は変わりますか?
- 「寝ホン」として使えますか?
- プラグの交換に工具は必要ですか?難しいですか?
- 電車やバスでの使用時、音漏れは気になりますか?
- 人気機種「qdc SUPERIOR」と迷っています。どちらがおすすめですか?
- フェイスプレートの模様(個体差)を選んで購入できますか?
- ASMRやボイスドラマの視聴には向いていますか?
- おすすめの社外製イヤーピースはありますか?
- 3万円クラスの高級ワイヤレスイヤホンと比べて音質はどうですか?
- 防水機能はありますか?ジムでの運動に使えますか?
- Shanling 「TINO」レビューのまとめ
Shanling 「TINO」の基本スペックとデザインの魅力

まずは、Tinoがどのような技術哲学に基づいて設計されたイヤホンなのか、その基本スペックと、所有欲を刺激するデザイン面から深く紐解いていきます。
10mm+8mmの「デュアルDD構成」がもたらす音響設計
Tinoの心臓部には、異なる素材とサイズを持つ2つのダイナミックドライバー(DD)を搭載した「2DD構成」が採用されています。
近年のイヤホン市場では「1DD」や「DD + BA(ハイブリッド)」が主流ですが、Tinoはあえて「DD + DD」という構成を選びました。
しかも、同径のドライバーを並べるのではなく、「低域用」と「中高域用」で明確に役割とサイズを分けているのが最大の特徴です。
■ 各ドライバーの詳細スペックと役割
| ドライバー | サイズ | 振動板素材 | 磁気回路・コイル | 役割・特徴 |
| 低域用 | 10mm | PUサスペンション + LCP(液晶ポリマー) | 高効率N52マグネット 大黒製ボイスコイル | 深みのある沈み込みと、ウォームで厚みのある低音を担当。LCP特有のレスポンスの良さも兼備し、ボワつきを抑えています。 |
| 中高域用 | 8mm | DLC(ダイヤモンドライクカーボン) | 高効率N52マグネット 大黒製ボイスコイル | 非常に硬度の高いDLCにより、分割振動を抑制。歪みの少ないクリアなボーカルと、刺さりのない滑らかな高音を実現します。 |
■ なぜ「6mm」ではなく「8mm」なのか?
多くのデュアルDDイヤホンでは、高域用ツイーターとして小型の「6mm」ドライバーを採用することが一般的です。
小型の方が高音域の立ち上がりが鋭くなる傾向があるためです。
しかし、Tinoはあえて少し大きめの8mmを採用しています。
これがTinoの音作りを決定づけています。
6mmよりも振動板面積が広い8mmを採用することで、高音域の線が細くなりすぎず、中音域(ボーカル帯域)に肉厚な実在感を持たせることに成功しています。
「解像度は高いが音が痩せて聴こえる」という失敗を避け、「解像度とリスニングの心地よさを両立する音」を目指したShanlingのこだわりが見て取れます。
さらに、両ドライバーには日本の大黒電線製ボイスコイルと、強力なN52ネオジム磁気回路が搭載されており、入力信号に対するレスポンス(過渡特性)を高めています。
これにより、音の立ち上がりと立下りが正確になり、スピード感のある楽曲にも対応できる基礎体力を確保しています。
唯一無二の美しさ:伝統技法「箔焼き」フェイスプレート
Shanling Tinoを開封して最初に息を呑むのが、その圧倒的な美しさです。
1万円台の製品とは思えない、工芸品のようなオーラを放っています。
その秘密は、フェイスプレートに採用された中国の伝統技法「箔焼き」にあります。
- 唯一無二のデザイン:
特殊な高温処理と顔料加工により、鉱石や宝石のような複雑な光の反射を生み出します。
この模様は製造工程での偶然性を含んで形成されるため、一つとして同じ模様の個体は存在しません。
まさに「自分だけの1台」という所有欲を強烈に満たしてくれます。 - 立体的なレイヤリング:
単に表面にプリントされた柄ではありません。
透明な樹脂層の奥深くに模様が閉じ込められているため、光の当たる角度によって、まるで水面下にある宝石のように奥行きが変化します。 - ゴールドのアクセントバンパー:
フェイスプレートを縁取るように配置されたゴールドのバンパーパーツが、高級感をさらに引き立てています。
これは安価なメッキパーツのようなチープさがなく、マットで上品な輝きを放ち、ジュエリーのような品格を漂わせています。
最近のイヤホンはデザイン重視の傾向がありますが、Tinoの質感は頭一つ抜けています。
カフェや電車内で装着していても、アクセサリーとして成立するレベルの仕上がりです。
快適な装着感を実現する3Dプリントシェルと筐体設計
どれほど音が良くても、見た目が美しくても、装着感が悪ければ長時間音楽を楽しむことはできません。
Tinoのシェルは、数千人の耳型データを元に人間工学に基づいて設計され、高精度DLP-3Dプリント技術で成形されています。
- スモークブラックの半透明シェル:
筐体内部がほんのりと透けて見えるスモーク仕様のレジンを採用。
光にかざすと、内部の配線やデュアルドライバーの配置、ネットワーク基板などが確認でき、ガジェット好きにはたまらないメカニカルな魅力も兼ね備えています。 - 軽量かつコンパクトな設計:
10mmと8mmという、比較的大きなドライバーを2基搭載しているにもかかわらず、筐体は驚くほどコンパクトにまとめられています。
耳の小さな女性や、長時間使用するユーザーでも耳孔への負担が少ない形状です。 - ベント(通気孔)の最適配置:
ダイナミックドライバーの弱点である「音のこもり」や「ドライバフレックス(装着時のペコっという音)」を防ぐためのベントは、後方側面に配置されています。
これにより、遮音性を損なうことなく、ダイナミックドライバーのピストンモーションをスムーズにし、抜けの良い低音を実現しています。
私自身、様々なイヤホンを試してきましたが、Tinoの装着感は「ユニバーサルIEM(万人の耳に合う形状)」の完成形に近く、耳への吸着感と圧迫感のなさが絶妙なバランスで共存しています。
Shanling 「TINO」のクラスを超えた付属品と純正ケーブルの拡張性

Shanling Tinoがオーディオ愛好家の間で「コスパ崩壊」「価格設定ミス」と囁かれる最大の理由の一つが、付属品とケーブルの仕様です。
ここには、競合製品を突き放す明確なアドバンテージが存在します。
同価格帯では異例の高品質・高純度ケーブル
通常、1万円前後のイヤホンに付属するケーブルは、「とりあえず音が鳴ればいい」程度の細い黒ケーブルであることが大半です。
しかし、Tinoのケーブルは完全に別格です。
- 線材の豪華スペック:
高純度OFC(無酸素銅)をベースに、銀メッキ銅線を組み合わせたハイブリッド仕様です。さらに、182本もの芯線を束ねた「同軸リッツ構造」を採用しています。
リッツ線構造により、表皮効果(高周波が導体の表面ばかり流れて抵抗が増える現象)を抑制し、高音域の伝送ロスを最小限に抑えています。 - 物理的な取り回しの良さ:
見た目は太く頼もしいですが、被膜素材には柔軟性の高いPVCを採用しているため、非常にしなやかです。タッチノイズ(衣擦れ音)も少なく、移動中の使用でもストレスを感じません。 - デザインとの調和:
シルバーホワイトに輝くケーブルは、箔焼きフェイスプレートのTino本体と完璧にマッチし、セットアップ全体としての美しさを高めています。
このケーブル単体で販売されていても数千円はするであろうクオリティであり、「リケーブル前提」ではなく、「純正ケーブルこそが最適解」と言えるほどの完成度です。
用途で選べるプラグ交換システム(3.5mm/4.4mm/Type-C)
Tinoのケーブルには、Shanlingが上位モデルで採用してきた「交換可能プラグシステム(モジュラープラグ)」が惜しげもなく採用されています。
【プラグ交換の仕組み】
ケーブルの先端(プレイヤーに挿す部分)が脱着可能なモジュール構造になっており、ここを交換するだけで様々な接続方式に対応できます。
接続部は「4ピン構造」で、外側から「ねじ込み式ロック」で固定するため、接触不良や脱落の心配が極めて少ない堅牢な設計です。
- 3.5mm シングルエンド(標準付属):
一般的なスマートフォン、PC、ゲーム機(Switch/PS5のコントローラー等)ですぐに使用可能です。 - 4.4mm バランスプラグ(別売オプション):
高級DAPやポータブルアンプを使用する際に威力を発揮します。
グラウンド(GND)を分離し、左右の信号の混信(クロストーク)をなくすことで、音の分離感、出力、S/N比が劇的に向上します。 - USB Type-C プラグ(別売オプション):
なんと、プラグの中に小型のDACチップ(最大32bit/384kHz対応)を内蔵したモジュールです。
これを装着すれば、イヤホンジャックのない最新のiPhone 15/16やAndroidスマホに直接接続し、デジタルロスレス再生が可能になります。
ここが重要!
他社製品の場合、接続方式を変えるには「ケーブルごと買い換える」必要があり、それだけで数千円〜数万円の出費となります。
しかしTinoなら、別売りのプラグ(約2,000円前後)を買い足すだけで済みます。
将来的にDAPを購入して「バランス接続デビュー」したいと思った時、ケーブルを無駄にすることなくスムーズに移行できるのは、ユーザーにとって計り知れないメリットです。
充実したイヤーピースとメタルケースの使い勝手
開封時の満足度を高める要素は、本体とケーブルだけではありません。
- 2種類のイヤーピース(計9ペア): Tinoには、音質の傾向を変えられる2タイプのイヤーピースが大量に同梱されています。
- バランス型(グレー軸): 開口部が標準的で、音をストレートに伝えます。ボーカルの自然さと音場の広がりを重視するならこちら。
- 低音重視型(ブラック): 傘の素材が少し厚く、密閉度を高めます。低音のアタック感を強化し、より迫力のあるサウンドを楽しみたい場合に最適です。 サイズ展開も豊富(SS/S/M/L/LL等)なので、自分の耳にジャストフィットするものが必ず見つかるはずです。
- メタルキャリングケース:
安価なポーチではありません。
剛性の高い金属製のラウンドケースが付属します。
蓋にはShanlingのロゴが刻印され、内部はゴムとフェルトで保護されています。
イヤホンをカバンの中で圧迫や衝撃から守るだけでなく、このケース自体の質感が非常に高い点も評価できます。
Shanling 「TINO」の音質完全レビュー

それでは、いよいよ本題である「音質」について詳細にレビューしていきます。
検証環境には、DAPとして「Shanling M3 Ultra」および「Sony NW-WM1AM2」を使用し、エージング(慣らし運転)を約50時間行った状態での評価です。
【音質傾向の概要】
- バランス:弱ドンシャリ 〜 マイルドなU字特性
- 音色:ウォーム、艶やか、リスニング寄り
- 解像度:価格帯標準以上だが、カリカリの分析的サウンドではない
- 特徴:「空気感」の表現が巧みな、雰囲気重視の美音系
深みと沈み込みを感じさせる低音域の表現力
Tinoのサウンドキャラクターを決定づけている最大の武器は、低音域の質感です。
10mm PU+LCPドライバーが優秀な仕事をしており、単に「量が多い」だけのブーミーな低音とは一線を画します。
- サブベースの深さ:
EDMや映画のサウンドトラックなどで聴かれる、地を這うような重低音(サブベース)が、しっかりと「沈み込む」感覚があります。
軽く「ポンポン」と鳴るのではなく、地面から「ズーン」と響いてくるような重厚感です。 - 質感の良さ:
ミッドベース(中低域)のアタック感は、鋭く硬い音ではなく、適度な柔らかさと弾力を持っています。
ベースラインの輪郭は丸みを帯びており、「空気の振動」そのものを感じさせるリッチな鳴り方をします。
ウッドベースやチェロのような、箱鳴りを伴う楽器との相性は抜群です。 - 中高域への干渉制御:
ここがデュアルドライバーの真骨頂ですが、低音がこれだけ豊かでありながら、中域(ボーカル)をマスク(邪魔)しません。
低域用ドライバーと中高域用ドライバーの帯域分割(クロスオーバー)が巧みに行われており、低音はあくまで土台として存在し、その上にボーカルが浮かび上がるような立体的な構成になっています。
刺さらず滑らかに伸びるボーカルと中高音域
中高域は、8mm DLC(ダイヤモンドライクカーボン)ドライバーが担当しています。
DLC特有の「硬さ」と「軽さ」が活かされています。
- ボーカルの艶(ここがShanlingらしい!):
Shanling製品に共通する特長ですが、ボーカル(特に女性ボーカル)に独特の「艶」と「湿り気」があります。
ドライで乾いた音ではなく、生々しく感情豊かに聴かせるタイプです。
サ行(さしすせそ)の刺さりは丁寧に研磨されており、長時間聴いても耳が痛くなりません。 - 高音域のコントロール:
高音域は綺麗に伸びますが、シンバルの金属音や電子音の「キラキラ感」は、あくまで上品です。
刺激的な音を求める人には少し大人しく感じるかもしれませんが、「解像度は欲しいけど、聴き疲れするのは嫌だ」「寝る前にも聴けるような心地よい音が欲しい」という方には、まさに最適解となるチューニングです。 - 楽器の質感:
ピアノのアタック音やバイオリンの倍音成分もクリアに再生されます。
DLC振動板の効果で立ち上がりは速いものの、金属的な鋭さよりは、木質の響きやホールの残響を感じさせるナチュラルな傾向です。
音場感と分離感:リスニングに最適なチューニング
- 音場:
横方向への広がりは標準的〜やや広めといった印象ですが、特筆すべきは「奥行き感」の表現です。
ボーカルが一歩前に出て、ドラムやベースが奥に配置され、さらにその周りをストリングスが囲む……といった、前後のレイヤー感が明確に感じ取れます。 - 分離感:
モニターイヤホンのように「全ての音をバラバラに分解して提示する」タイプではありません。
むしろ、各楽器の音を音楽的に調和させる(まとめる)能力に長けています。
顕微鏡で音の粗探しをするような聴き方よりも、リクライニングチェアに座って音楽全体を雰囲気たっぷりに楽しむ聴き方に適しています。
この「まとめ上げる力」こそが、Shanling Tinoの真価と言えるでしょう。
Shanling 「TINO」を使用した私の体験談・レビュー

ここからは、スペックや一般的な音質評価を超えて、実際に私がShanling Tinoを日常生活や様々なシチュエーションで使い倒して感じた、より具体的で生々しい体験談をお伝えします。
開封から装着まで:所有欲を満たすビルドクオリティ
商品が届き、パッケージを開けた瞬間の高揚感は忘れられません。
メタルケースの重厚感、そして何より本体フェイスプレートの輝きに目を奪われました。
Web上の画像で見るよりも実物は遥かに深みがあり、部屋の照明にかざすとキラキラと表情を変えます。
「これが1万円ちょっとで買えるのか…」と、中華イヤホンの進化の速度に改めて畏怖の念を抱きました。
装着感に関しては、私の耳には付属の「低音重視型(ブラック・Mサイズ)」がベストマッチでした。
シェルのカーブが耳甲介(耳のくぼみ)に吸い付くようにピタリとハマり、首を振っても、軽いジョギング程度ならズレる気配がありません。
遮音性も非常に高く、カフェでの作業中に装着して音楽を流すと、周囲の話し声や食器の音がスッと消え、自分だけの空間に没入できました。
実際の楽曲で検証:ポップスからロックまで相性チェック
私のプレイリストにあるいくつかのジャンルで、具体的な相性をチェックしてみました。
- J-POP(宇多田ヒカル / King Gnu):◎
ベストマッチ宇多田ヒカルの『One Last Kiss』を聴いた際、冒頭のベース音の沈み込みの深さに驚きました。
そして、彼女のハスキーな歌声が、DLCドライバーのおかげで息遣いまで生々しく再現されます。
ボーカルが埋もれず、かつバックトラックのグルーヴ感も損なわれません。 - ロック・メタル(Bring Me The Horizon):○
良好重厚なギターリフやバスドラムのキック感に迫力があります。
低域の量感がたっぷりあるため、音圧を楽しむことができます。
ただ、BPM200を超えるような超高速なデスメタル等の場合、低域の余韻がわずかに残り、スピード感やキレ味がほんの少しマイルドに感じるかもしれません。
攻撃的な音よりも、壮大なスケールのロックに向いています。 - ジャズ・アコースティック(Norah Jones):◎
非常に良いウッドベースの弦が弾かれる指の感触や、サックスの温かみのある音色が素晴らしいです。
Tinoの持つ「ウォームな響き」が、アコースティック楽器の魅力を最大限に引き出してくれます。
夜、ウイスキーを片手に聴きたくなるサウンドです。 - クラシック(フルオーケストラ):△〜○
小編成の室内楽は美しいですが、大編成の交響曲となると、広大な音場の広がりや、数十の楽器が一斉に鳴った時の微細な分離感において、より上位の機種(数万円クラス)に分があると感じました。
それでも、価格を考えれば十分に健闘しています。
4.4mmバランス接続への変更で音質はどう化けるか
私は別途所有しているShanling純正の4.4mmプラグを使用して、バランス接続での変化も試してみました。
結論から言うと、「DAPやアンプを持っているなら、絶対にバランス接続すべき」です。
- 駆動力の向上による「激変」:
Tinoはインピーダンス16Ω、感度113dBと鳴らしやすいスペックに見えますが、実はパワーを入れると元気になるタイプです。
バランス接続で駆動力を上げることで、低音の締まり(制動)が劇的に良くなり、少し緩やかだった輪郭がビシッと定まります。 - 分離感とS/N比の向上:
クロストークがなくなることで、音場が横に広がり、各楽器の配置がより明確になりました。
特に、背景の静けさ(黒い背景)が増し、微細なリバーブ(残響音)が消え入る瞬間まで聞き取れるようになります。
純正ケーブルのままで、プラグ交換だけでこの「激変」を楽しめるのは、Tinoの持つあまりにも大きな強みです。
ゲーミング・動画視聴での使用感と定位感のチェック
オーディオ用ですが、ゲーミング用途(FPSなど)でも試してみました。
- 定位感:
左右の方向感覚は掴みやすいですが、競技性の高いFPS(VALORANTやApex Legends)での「足音の距離感」や「上下の定位」に関しては、ゲーミング特化のデバイスや、高域成分の多いモニターイヤホンに軍配が上がります。
足音などの高音域情報よりも、爆発音などの低域が目立つためです。 - 迫力と没入感(RPG・映画):
一方で、RPG(FFやドラクエ)、アクションゲーム(モンハン等)、そして映画鑑賞には最高です。爆発音の重低音や、環境音(風の音、雨の音)の包み込まれるような感覚は、Tinoの得意分野。
世界観に没頭したいソロプレイのゲームや、Netflixでの映画鑑賞には強くおすすめできます。
同価格帯の競合モデル(1万円クラス)との比較
読者の方が最も迷うであろう、同価格帯の強力なライバル機と本気で比較してみます。
| 比較項目 | Shanling Tino | qdc SUPERIOR | SIVGA Que |
| 音質傾向 | 艶やか、ウォーム、重低音 | 元気、クリア、アタック感強め | ナチュラル、木質、中域重視 |
| 低音 | 深く沈み込む、量感多め | タイトでキレがある | 必要十分、柔らかい |
| 高音 | 滑らかで刺さらない | 鮮明で少し刺激的 | 自然な伸び |
| デザイン | 箔焼きの高級感、宝石風 | カスタムIEM風、プロっぽい | 木製プレートの温かみ |
| ケーブル | プラグ交換式 (拡張性◎) | 標準2pin (交換不可) | 標準2pin (交換不可) |
| おすすめ | リスニング、雰囲気重視 | ポップス、アニソン、ロック | アコースティック、弾き語り |
- vs qdc SUPERIOR(スーペリア):
SUPERIORは、より音が近く、パキッとした元気なサウンドで、ポップスやアニソンを楽しく聴かせるエンターテイナーです。
対してTinoは、より「艶」と「余韻」を重視した大人のサウンド。Tinoの方が聴き疲れしにくく、ゆったり音楽を楽しめます。 - vs SIVGA Que:
SIVGA Queもウッドハウジングで自然な音が魅力ですが、Tinoの方がサブベース(重低音)の量感があり、EDMや映画鑑賞への対応力が高いです。
体験談の総括:長時間リスニングでも疲れにくい相棒
一週間使い続けて感じたのは、「ついつい手を伸ばしてしまうイヤホン」だということです。
私は他にも数万円〜十数万円のイヤホンを所有していますが、それらは「さあ、聴くぞ」と気合を入れて使うものが多いです。
対してTinoは、どんな体調の時でも優しく、かつ楽しく音楽を奏でてくれます。
「箔焼き」の美しい見た目を眺めながら、お気に入りのコーヒーを飲み、リラックスして好きな音楽に浸る時間は、何にも代えがたい贅沢な体験でした。
Tinoは、生活に彩りを添えるライフスタイルグッズとしても優秀です。
Shanling 「TINO」に関するQ&A

Shanling 「TINO」に関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
FPSゲームや映画鑑賞にも使えますか?
映画やRPGには最高ですが、競技性の高いFPSには向き不向きがあります。
映画やアクションゲーム、RPGなど「世界観への没入感」を重視するコンテンツには、Tinoの深い低音と広がりが非常にマッチし、映画館のような迫力を楽しめます。 一方で、Apex LegendsやVALORANTなどの競技系FPSで「足音の正確な位置」や「上下の定位」をシビアに求める場合、Tinoのウォームな低音が足音(高音域成分)を少しマスクしてしまう可能性があります。ガチゲーマーの方は、より高音が鋭いモニターイヤホンの方が聞き取りやすいかもしれません。
スマホ直挿し(アンプなし)でも十分な音量が出ますか?
音量は取れますが、本領発揮にはDACやType-Cプラグの併用がおすすめです。
Tinoは感度が高いため、スマホのイヤホンジャックに直接挿しても十分な音量は確保できます。しかし、スマホ直挿しではTinoの持ち味である「低音の締まり」や「音場の広がり」が6〜7割程度しか発揮できない印象です。 もしスマホメインで使う場合は、別売りの「Type-Cプラグ」を購入するか、数千円クラスのスティック型DACを挟むだけで、音が劇的にクリアになります。
リケーブルのコネクタ規格は何ですか?
一般的な「0.78mm 2pin」規格です。
Tinoは、カスタムIEMなどで広く採用されている「0.78mm 2pin」規格を採用しています。そのため、他社製のケーブルにリケーブルして楽しむことも可能です。ただし、端子周辺がフラットな形状なので、埋め込み式の2pinケーブルだと奥まで刺さらない場合があります。購入時は「フラット2pin」または「中華2pin」と呼ばれるタイプを選ぶと安心です。
箱出し直後とエージング後で音は変わりますか?
はい、特に低音の質感が変わります。
ダイナミックドライバーを2基搭載している構造上、開封直後は低音が少しボワついたり、高音が硬く感じたりすることがあります。個人差はありますが、30〜50時間ほど鳴らし込む(エージングする)ことで、振動板が馴染み、低音の輪郭がクッキリとし、ボーカルの艶が増してきます。最初の印象だけで判断せず、しばらく使ってみることをおすすめします。
「寝ホン」として使えますか?
使えますが、完全に横向きになると耳が痛くなる可能性があります。
Tinoの筐体は非常にコンパクトで耳への収まりが良いですが、耳の穴全体を覆うIEM形状(耳掛け式)であるため、枕に耳を押し付けるように横向きで寝ると、ハウジングが圧迫されて痛みを感じることがあります。仰向けでリラックスして聴く分には非常に快適で、突き刺さるような高音もないため、就寝前のリスニングには最適です。
プラグの交換に工具は必要ですか?難しいですか?
工具は不要です。指だけで簡単に交換できます。
Tinoのプラグ交換システムは「ねじ込み式」です。プラグのカバー部分を指で回して緩め、コネクタを真っ直ぐ引き抜くだけで交換できます。 ネジでロックする構造なので、使用中に勝手に抜けたり接触不良を起こしたりする心配が少なく、機械いじりが苦手な方でも数秒で交換可能です。
電車やバスでの使用時、音漏れは気になりますか?
一般的な常識的な音量であれば問題ありません。
Tinoはダイナミックドライバー搭載機のため、空気圧調整用の小さなベント(通気孔)が空いていますが、内側に配置されており音漏れは最小限です。 遮音性(パッシブノイズキャンセリング効果)も高いため、周囲の騒音をカットしつつ、過度にボリュームを上げなくても十分に音楽を楽しめます。ただし、図書館のような静寂な場所で大音量で流すと、わずかにシャカシャカ音が漏れる可能性はあります。
人気機種「qdc SUPERIOR」と迷っています。どちらがおすすめですか?
「キレと元気さ」ならSUPERIOR、「艶と癒やし」ならTinoです。
SUPERIORは音が近く、パキッとした解像感でアニソンやポップスを楽しく聴かせる「元気なサウンド」が魅力です。 一方、Tinoは角の取れた滑らかな音で、ボーカルの艶や低音の深みをじっくり味わう「大人なサウンド」です。長時間聴いても疲れないのはTino、短時間でテンションを上げたいならSUPERIOR、という選び方がおすすめです。
フェイスプレートの模様(個体差)を選んで購入できますか?
残念ながら選べません。
「箔焼き」デザインは製造工程で自然発生する模様のため、一つとして同じものがありません。通販で購入する場合、どのような模様が届くかは「開けてからのお楽しみ」となります。 ただ、どの個体も宝石のような美しさは共通しており、SNS上でも「自分だけの模様」として愛着を持っているユーザーが多い印象です。
ASMRやボイスドラマの視聴には向いていますか?
実はかなり向いています。
Tinoの特徴である「艶のある中域」と「刺さらない高音」、「豊かな低域」は、ASMRやシチュエーションCDなどの音声作品と非常に相性が良いです。 特に、耳元で囁かれるようなバイノーラル録音では、Tinoのウォームな音色が声の生々しさを引き立て、ゾクゾクするような臨場感を味わえます。長時間の視聴でも聴き疲れしにくい点もメリットです。
おすすめの社外製イヤーピースはありますか?
音の出口(ノズル)が標準的なサイズなので、多くの市販品が使えます。
さらにフィット感や音質を追求したい場合、以下のようなイヤーピースがおすすめです。
- 低音をもっとリッチにしたいなら: 「AZLA SednaEarfit MAX」や「final Eタイプ」。密閉度が高まり、低音が逃げません。
- 高音の抜けを良くしたいなら: 「SpinFit W1」や「JVC スパイラルドット」。開口部が広く、音がクリアになります。 Tinoのノズル径は太すぎず細すぎず(約5.8mm〜6mm前後)なので、これら定番のイヤーピースは問題なく装着可能です。
3万円クラスの高級ワイヤレスイヤホンと比べて音質はどうですか?
純粋な「音の情報量」や「空気感」では、Tinoの方が上の場合が多いです。
例えば、SONYのWF-1000XM5やAirPods Pro 2などの高級ワイヤレスイヤホンは非常に優秀ですが、Bluetooth伝送によるデータの圧縮が避けられません。 Tinoは有線接続によるロスレス伝送に加え、大型ドライバーを物理的に余裕を持って鳴らせるため、音の厚み、背景の静けさ、楽器のリアルな質感においては、1万円台ながら高級ワイヤレスを凌駕する瞬間が多々あります。「有線の壁」を感じられる良いきっかけになるはずです。
防水機能はありますか?ジムでの運動に使えますか?
防水機能(IPX等級)はありません。汗には注意が必要です。
Tinoは完全な密閉構造ではなく、音質調整用のベント(通気孔)や、ケーブル接続部の隙間があります。 スポーツジムでの軽い運動程度なら耐えられることもありますが、大量の汗が内部やコネクタ部に侵入すると、腐食や音が出なくなる原因になります。ランニングや激しいワークアウトでの使用は、防水対応のワイヤレスイヤホンに任せるのが無難です。
Shanling 「TINO」レビューのまとめ

Shanling Tinoは、1万円台という激戦区において、音質・デザイン・機能性のすべてを高次元でバランスさせた意欲作であり、Shanlingの「本気」が詰まった傑作です。
Shanling Tinoのメリット・デメリット整理
最後に、要点を整理します。
【メリット】
- 美しすぎるデザイン: 世界に一つだけの箔焼きフェイスプレートの所有満足度が極めて高い。
- リッチな低音と艶のあるボーカル: 2DD(LCP+DLC)構成による、深みと滑らかさを両立したサウンド。
- 純正ケーブルが超優秀: プラグ交換式(3.5/4.4/Type-C)で、高品質な線材を採用。リケーブル不要の完成度。
- 装着感が良い: 軽量な3Dプリントシェルで長時間使用も快適。
- 付属品が豪華: 実用的なメタルケースや豊富なイヤーピースが最初から揃っている。
【デメリット】
- 本来の性能を出すには駆動力が必要: スマホ直挿しでも鳴るが、アンプやDAP(バランス接続)を通した時のような「化け方(ポテンシャル発揮)」までは味わいにくい。
- モニター用途には不向き: 音を分析的に聴くよりも、音楽を楽しむ味付け(リスニング寄り)がされているため、DTMなどのモニターには不向き。
このイヤホンが特におすすめなユーザー層
- 「見た目」にもこだわりたい方: イヤホンをファッションアイテムやアクセサリーの一部として捉える方。プレゼントとしても最適です。
- ウォームで聴き疲れしない音が好きな方: 最近のイヤホンの「高解像度すぎて疲れる音」が苦手で、低音の余韻やボーカルの艶を楽しみたい方。
- オーディオ環境のステップアップを考えている方: 将来的にDAPを買ったり、バランス接続を試してみたいと考えている初心者〜中級者。ケーブルを買い足さなくて良いのは大きな魅力です。
購入前に知っておくべき注意点
非常に完成度の高い製品ですが、一点だけ注意が必要です。
別売りの「4.4mmプラグ」や「Type-Cプラグ」は便利ですが、標準パッケージには「3.5mmプラグ」しか同梱されていません。
もし、最初からバランス接続やスマホ直結(Type-C)を行いたい場合は、購入時にオプションプラグも合わせてカートに入れることを忘れないでください。
セット購入できるショップもあるので要チェックです。
Shanling 「TINO」レビューの総括
「1万円台で買える、最も美しいリスニングイヤホン」
Shanling Tinoを一言で表すならこれに尽きます。
スペック競争に陥りがちなこの価格帯で、あえて「美しさ」と「心地よさ」、そして「将来性(プラグ交換)」に振り切ったShanlingの美学。
それは、音楽を単なるデータとしてではなく、「心を豊かにする体験」として楽しみたいと願う人への、最良の回答と言えるでしょう。
初めての「ちょっと良いイヤホン」としても、マニアのサブ機としての運用としても、間違いなく価格以上の価値と感動を提供してくれる一台です。


