オーディオ市場において、「価格破壊」という言葉がこれほど似合う製品は稀です。
昨今の円安や原材料費の高騰により、かつてのエントリーモデルの価格帯は徐々に上昇傾向にあります。
しかし、そんな逆風をものともせず、通常8,000円前後、セール時には6,000円台という驚異的なプライシングで登場し、瞬く間に世界中のオーディオファンの心を鷲掴みにしたイヤホンがあります。
それが、今回ご紹介する 「TRUTHEAR x Crinacle ZERO:RED」 (以下、ZERO:RED)です。
この製品がなぜこれほどまでに注目されているのか。
それは単に「安いから」ではありません。
「1万円以下で買える音」の常識を、あまりにも高いレベルで書き換えてしまったからです。
世界最大級のイヤホン測定データベースを運営し、歯に衣着せぬ辛口レビューで知られる Crinacle(クリナクル)氏。
彼が監修を務め、中国・深センの新鋭ブランド TRUTHEAR(トゥルーイヤー) が製造技術の粋を集めて作り上げたこのモデルは、リリース直後から「数十万円クラスの機材と渡り合える」「モニターサウンドの正解」といった賛辞を浴び続けています。
特に、前作にあたる「TRUTHEAR ZERO(通称:Blue)」の大ヒットを受け、さらなる完成度を目指してチューニングされた本作ZERO:REDは、エントリークラスのイヤホンが到達できる限界点を示したと言っても過言ではありません。
しかし、その一方で、購入を検討するユーザーを悩ませる「賛否両論」の声もネット上には散見されます。
- 「音が地味すぎてつまらない」
- 「装着感が独特で耳が痛くなる」
- 「スマホ直挿しでは本領発揮できない」
これらは真実なのでしょうか?
それとも、使いこなしによって評価が変わる誤解なのでしょうか?
この記事では、自腹で購入し数ヶ月にわたり徹底的に使い込んだ筆者が、ZERO:REDのスペック、音質特性、装着感、そして実際に生活の中で使ってみて感じたリアルな体験談を余すところなくお伝えします。
良い点だけでなく、人を選ぶポイントについても忖度なしで切り込んでいきます。
これからオーディオの沼に足を踏み入れようとしている方も、すでに数多のイヤホンを所有する猛者の方も、ぜひ最後までお付き合いください。
このイヤホンが、あなたの音楽生活における「最適解」になり得るのか、一緒にジャッジしていきましょう。
TRUTHEAR ZERO:REDの基本スペックと特徴

まずは、ZERO:REDがどのような技術的背景を持って生まれた製品なのか、その基本スペックと際立った特徴について解説します。
世界的レビュアーCrinacle氏による「正解」のチューニング
本機のアイデンティティとも言えるのが、Crinacle氏とのコラボレーションです。
彼は世界中の何千ものイヤホン・ヘッドホンの周波数特性を測定し、公開しているオーディオ界の「データバンク」のような存在です。
彼の提唱するサウンド理論は、「多くの人が好ましいと感じる音」や「音響的に正しいとされる音」を、科学的なターゲットカーブ(周波数特性のグラフ)として定義することにあります。
ZERO:REDは、彼の理想とするターゲットカーブを、この価格帯で可能な限り忠実に再現することを目指して設計されました。
具体的には、ハーマンインターナショナル社が提唱する「ハーマンターゲットカーブ(多くの人が好むとされる音響特性)」をベースにしつつも、そこから過剰な演出を取り除き、よりモニターライクで自然な音色を目指した調整が施されています。
感覚や経験則だけに頼った「職人技のチューニング」も魅力的ですが、ZERO:REDのアプローチは徹底して 「ロジカル」 です。
- 過剰な低音の膨らみを抑える: 低音が中音域をマスク(覆い隠す)しないよう、サブウーファー帯域を明確に分離。
- ボーカル域(中音域)の明瞭度を確保する: 人の声が最も自然に聞こえる帯域バランスを追求。
- 高音域の刺さりを排除しつつ、伸びやかさを維持する: 長時間聴取でも疲労感を与えないスムースな高域。
これらの要素をデータに基づいて調整することで、「誰が聴いても破綻のない、優等生なサウンド」を実現しています。
これが「正解の音」と評される理由です。
1万円以下で実現した2DD構成と3Dプリント技術
通常、数千円〜1万円以下の低価格帯イヤホンでは、コスト削減のために「シングル・ダイナミックドライバー(1DD)」構成が採用されることが一般的です。
しかし、ZERO:REDは贅沢にも 「デュアル・ダイナミックドライバー(2DD)」 構成を採用しています。
【ドライバー構成の詳細】
| ドライバーの種類 | サイズ | 役割(担当帯域) | 素材・特徴 |
|---|---|---|---|
| ウーファー | 10mm | 低音域 | PU(ポリウレタン)+ LCP(液晶ポリマー)複合振動板。深みのあるベース音を担当。クロスオーバーによりサブベース帯域に特化。 |
| ツイーター | 7.8mm | 中高音域 | 同じくPU + LCP複合振動板。ボーカルや楽器の繊細な音を担当。軽量な振動板により素早い応答性を実現。 |
このように、サイズの異なる2つのドライバーを搭載し、クロスオーバー回路(音の帯域を分ける回路)によって役割分担させることで、1つのドライバーではどうしても生じてしまう「低音を出すと中高音が埋もれる」という物理的な課題を解決しています。
さらに、これらの複雑なドライバー配置と音響管(音の通り道)を正確に成形するために、医療グレードの DLP 3Dプリンティング技術 が採用されています。
この技術により、設計図通りの精密な音響構造を量産品でも再現でき、個体差の少ない安定した品質を実現しています。
従来の金型成形では難しかった複雑な内部構造が可能になったことで、音響フィルターに頼りすぎない、物理構造による自然なチューニングが可能になりました。
豪華な付属品とインピーダンス変換プラグの役割
開封してまず驚くのが、その付属品の豪華さです。
「これ本当に8,000円で売って利益出るの?」と心配になるレベルの充実ぶりですが、中でも特筆すべきは 「10Ωインピーダンス変換プラグ(アッテネーター)」 の存在です。
これがZERO:REDを唯一無二の存在にしている「秘密兵器」です。
【10Ωアッテネーターの仕組みと効果】
この小さなプラグをイヤホンジャックとケーブルの間に挟むことで、電気的な抵抗値(インピーダンス)を意図的に10Ω増加させます。
ZERO:REDの内部クロスオーバー回路は、インピーダンスが変化すると低域側のドライバーへの出力比率が変わるように設計されています。
- アッテネーター無し: フラットでニュートラルな音。モニターライク。
- アッテネーター有り: 低域(ベース・サブベース)が増強された音。リスニングライク。
つまり、1本のイヤホンで物理的に異なる2つのサウンドキャラクターを楽しめる のです。
イコライザー(EQ)を使わずに、ハードウェア側で音質を変えられるこのギミックは、オーディオマニア心を強くくすぐります。
TRUTHEAR ZERO:REDの音質レビュー:ウォームでニュートラルな実力派

ここからは、実際に聴き込んだ音質の詳細についてレビューしていきます。
基本的には「癖のない優等生」ですが、その中にも確かな個性があります。
聴き疲れしない「真面目」なサウンドバランス
ZERO:REDのサウンドを一言で表現するなら、 「極めて真面目で、ウォームなニュートラルサウンド」 です。
いわゆる「ドンシャリ(低音と高音が強調された派手な音)」とは対極にあります。
初めて聴いた瞬間、「おっ!すごい!」という派手なインパクトは感じないかもしれません。
しかし、数曲聴き進めるうちに、その凄みがじわじわと伝わってきます。
- 高音域:
キラキラとした煌びやかさは控えめですが、非常に滑らかに伸びます。
シンバルの金属音などが耳に刺さる「刺さり」が徹底的に抑えられており、長時間聴いても耳が痛くなりません。
解像度は高いものの、輪郭を強調しすぎない自然な描写です。
いわゆる「歯擦音(サ行の刺さり)」も非常にうまくコントロールされています。 - 中音域:
ここがZERO:REDの真骨頂です。
ボーカルやギター、ピアノといった主役となる楽器が、非常に厚みを持って鳴ります。
音が痩せておらず、リッチで生々しい質感があります。
男性ボーカルの胸板の響きや、女性ボーカルの艶やかさがしっかりと伝わってきます。
ハーマンターゲット特有の「ボーカルが少し遠く感じる」現象も、独自の調整でうまく回避されています。 - 低音域:
量感は「必要十分」。ドコドコと頭を揺らすような爆音低音ではありませんが、深いところ(サブベース)までしっかりと沈み込み、正確なリズムを刻みます。
ボワつかずにタイトで、他の帯域を邪魔しません。
バスドラムのアタック音よりも、その後の胴鳴りや空気の震えを正確に表現するタイプです。 - 音場と定位感:
サウンドステージは、左右に広大というよりは、立体的で奥行きを感じさせるタイプです。
各楽器がどこで鳴っているかという「定位」が非常に明瞭で、音が団子にならずにレイヤー状に配置されているのが分かります。
これが、後述するモニター用途やゲーム用途でも強みを発揮します。
全体として、「特定の帯域が主張しすぎない」 というバランスの良さが際立っています。
この特性は、楽曲そのものが持つミックスバランスを忠実に再現するため、アーティストやエンジニアが意図した通りの音を聴くことができると言えます。
付属の10Ωアッテネーターで変化する低域の表情
では、付属の「魔法のプラグ(10Ωアッテネーター)」を使うとどうなるのでしょうか。
接続した瞬間、音の重心がグッと下がります。
これまで「正確だけどちょっと大人しいかな?」と感じていたバスドラムやベースラインに、肉厚なトルク感が加わります。
単にボリュームが上がるのではなく、ウーファーユニットがより元気に動き出すような感覚です。
- EDMやヒップホップ: グルーヴ感が増し、身体が自然と動くような楽しさが出てきます。サブベースの唸りが心地よく響きます。
- ロック: ベースのゴリゴリとした質感が強調され、バンドサウンドに迫力が出ます。
- 映画鑑賞・ゲーム: 爆発音や環境音の重厚感が増し、没入感が高まります。
面白いのは、低音が増えても中高音が埋もれきってしまわない点です。
EQで低音だけを無理やり上げた時のような不自然な歪み感がなく、あくまで「最初からそういうチューニングのイヤホンだった」かのように自然に変化します。
この「変身機能」のおかげで、ZERO:REDは「モニター用途」だけでなく、「純粋な音楽鑑賞用途」としても高いポテンシャルを発揮します。
競合機種や前作(Blue)との違いと使い分け
よく比較対象となる前作「ZERO(Blue)」や、同価格帯のライバルとの違いを整理しておきましょう。
どちらを買うべきか迷っている方にとって、ここが最大の分かれ道です。
| 特徴 | ZERO:RED(本作) | ZERO (Blue)(前作) | 一般的な同価格帯ドンシャリ機 |
|---|---|---|---|
| 音の傾向 | ウォーム、ニュートラル、厚みがある | ややドンシャリ、クール、キレがある | 派手、高音がきらびやか、低音が強い |
| 低音 | サブベース重視だが、全体に馴染む | ミッドベース(中低音)のアタックが強い | 量感重視、少しボワつくことも |
| 高音 | 滑らかで刺さらない | 煌びやかで分離感が強い | 派手だが刺さることもある |
| ボーカル | 前に出てくる、肉厚 | 楽器に埋もれずクリアだが、やや細い | 少し引っ込む(V字特性) |
| 得意ジャンル | ポップス、ジャズ、バラード、オールジャンル | ロック、メタル、アニソン(スピード感重視) | EDM、ロック、現代的なポップス |
| こんな人向け | 聴き疲れしたくない、自然な音が好き | 派手な音が好き、分かりやすい高音質感が欲しい | 楽しくノリ良く聴きたい |
【結論】
- ZERO (Blue) は、分かりやすい「高解像度感」や「分離感」があり、パッと聴きのインパクトが強いです。小音量でも音がハッキリ聞こえやすい傾向があります。
- ZERO:RED は、より「大人なチューニング」です。派手さよりも全体の調和(コヒーレンス)を重視しており、長く使えば使うほど良さがわかるスルメのような機種です。また、長時間使用での快適性はREDに軍配が上がります。
TRUTHEAR ZERO:REDの装着感とビルドクオリティの評価

音質がどれだけ良くても、装着感が悪ければイヤホンはゴミ箱行きです。
ZERO:REDのハードウェア面での評価を詳しく見ていきましょう。
ノズルの太さと装着のコツ:イヤーピース選びの重要性
ここがZERO:RED 最大の懸念点(デメリット) です。
2つのダイナミックドライバーの音を導くために、ステム(耳に入れるノズル部分)が、一般的なイヤホンよりも かなり太く(約6mm〜) 設計されています。
- 耳の穴が小さい人: 付属のイヤーピース(Sサイズ)を使っても、異物感を強く感じる可能性があります。最悪の場合、耳に入らない、あるいは長時間着けると痛くなることがあります。
- 耳の穴が標準〜大きい人: 適切なサイズのイヤーピースを選べば、むしろ太いノズルがしっかりと耳道を塞いでくれるため、高い遮音性と安定感が得られます。
【イヤーピース選びの重要ポイント】
この「極太ノズル」には、一般的な軸径(約4mm前後)のイヤーピースは装着できません。
無理やり広げて入れると、軸が裂けてしまう恐れがあります。
もし付属のイヤーピースが合わない場合、サードパーティ製を探す際は 「軸径が太いタイプ」 や 「TWS(完全ワイヤレス)用」 として売られている、開口部が広いものを選ぶのがコツです。
- SpinFit CP155: 軸径が太く、先端が動くためフィット感が向上しやすい代表的な選択肢です。
- AZLA SednaEarfit シリーズ: 軸が硬めですが、サイズ展開が豊富なため微調整が効きます。
このように、自分に合うイヤーピースを見つける「イヤーピース沼」への入り口になる可能性もありますが、バッチリハマった時の低音の充実感は格別です。
【装着のコツ】
耳たぶを後ろ上に軽く引っ張り上げながら、ノズルを少し回すようにしてねじ込むと、奥までしっかり入ります。
絡みにくいケーブルと質感
付属のケーブルは、黒に近いダークブラウンのような色合いで、複数の線材を編み込んだ4芯構造になっています。
- 取り回し:
適度な重量とコシがあり、非常にしなやかです。
ポケットやカバンに無造作に放り込んでも、取り出した時にスルスルと解けます。
安物ケーブルによくある「巻き癖」がつきにくいのは大きなメリットです。 - タッチノイズ:
耳掛け式(シュア掛け)のため、歩行時の衣擦れ音(ガサゴソ音)はかなり軽減されていますが、ケーブル自体が少し重めなので、静寂な部屋で動くと多少気になるかもしれません。
デザイン:赤のフェイスプレートが放つ存在感
モデル名を象徴する、深みのある赤色のフェイスプレートが目を引きます。
3Dプリント製の本体シェルは半透明の黒色で、光に透かすと内部の複雑なドライバー配置や配線がうっすらと見えます。
この「中身が詰まっている感」は、ガジェット好きにはたまりません。
プラスチック(レジン)製ですが、表面の研磨処理が美しく、バリや継ぎ目の粗さもありません。
8,000円という価格を感じさせない高級感があり、所有欲を十分に満たしてくれるビルドクオリティです。
また、パッケージに描かれているTRUTHEARの公式キャラクター「Shiroi」ちゃんのアートワークも、一部のファンにはたまらないポイントでしょう。
製品自体の硬派な音作りとのギャップも魅力の一つです。
TRUTHEAR ZERO:REDを使用した私の体験談・レビュー

ここでは、スペック表だけでは分からない、私が実際にZERO:REDと過ごした日々の中で感じた「生の声」をお届けします。
開封時の驚きと付属品の充実度
Amazonから届いた箱を開けた瞬間、「あ、これ気合い入ってるやつだ」と確信しました。
パッケージにはTRUTHEARのアイコンであるアニメキャラクター(Shiroiちゃん)が描かれていますが、中身は硬派そのもの。
特に感動したのが イヤーピースの豊富さ です。
- 広口タイプ(S/M/L): 高音の抜けを良くする
- 狭口タイプ(S/M/L): 低音を逃さない
- ウレタンフォーム(M): 遮音性最強
合計7ペアも入っています。「まずはこれで自分に合う音を探してくれ」というメーカーからのメッセージを感じました。
私は「狭口タイプのMサイズ」がベストフィットでした。
音量による表情の変化:大音量と小音量の違い
使い始めてすぐに気付いた興味深い特性があります。
それは 「音量によって聞こえ方が変わる」 という点です。
- 小音量(BGM程度)で聴くとき:
正直に言うと、少し「モコッ」とした印象を受けました。
分離感が弱まり、ボーカルと楽器が団子になっているように聞こえる瞬間があります。
前作Blueの方が、小音量でもハッキリ聞こえる印象でした。
これは、REDのドライバーがある程度の入力を受けて初めて最適な動きをするように設計されているためかもしれません。 - 中〜大音量(音楽に没頭するレベル)で聴くとき:
ここでZERO:REDが覚醒します。
ボリュームを上げても音が破綻せず、歪みません。
むしろ、音量を上げるほどに各楽器の分離が良くなり、ダイナミックレンジの広さを体感できます。
高域がうるさくならないため、ついついボリュームを上げたくなってしまう「危険な魅力」があります。
このイヤホンは、「ある程度の音量を出してこそ真価を発揮する」タイプのようです。
ライブハウスのPAスピーカーのような、パワーを入れて初めて本気出すエンジンを積んでいる感覚です。
モニター・ゲーミング用途としてのポテンシャル検証
私は趣味でDTMを行うのですが、試しにZERO:REDをミックス作業に使ってみました。
結果は 「想像以上に使える」 でした。
普段使っている定番モニターヘッドホン(SONY MDR-CD900STなど)と比較しても、周波数バランスの違和感が少ないのです。
「色付けがない」ため、「このイヤホンで良く聞こえれば、他の環境でも概ね大丈夫だろう」という信頼感があります。
特に、ボーカルのリバーブのかかり具合や、ベースの音階の確認においては、数万円のモニターイヤホンと遜色ない仕事をしてくれました。
【ゲーミングイヤホンとしての実力は?】
さらに、FPSゲーム(Apex LegendsやValorant)でも検証してみました。
結論から言うと、「FPSでもかなり強い」 です。
低域がタイトでボワつかないため、爆発音の中でも足音が埋もれず、定位感が正確なので敵の方向や距離感が掴みやすいです。
「ゲーミング」と銘打たれた過剰な低音強調イヤホンよりも、よほど実戦向きだと感じました。
RPGなどの世界観重視のゲームでも、中音域の厚みが環境音やBGMをリッチに演出してくれます。
アッテネーターを使えば、映画のような迫力をプラスできるのも利点です。
長時間リスニングでの疲労感と遮音性
ある休日、映画を2本連続で観賞するのに使ってみました。
計4時間ほどです。
驚いたのは、観終わった後に 「耳がキーンとしない」 ことです。
高音の刺激が少ないため、長時間のコンテンツ消費には最適だと感じました。
ただし、遮音性に関しては「そこそこ」です。 ノイズキャンセリング機能はない物理遮音のみですが、筐体が大きいため、耳の形にフィットしていないと隙間から外音が侵入します。
電車の中などで使う場合は、音量を上げすぎると音漏れの原因になるので注意が必要だと感じました。
リケーブルと再生環境による変化:バランス接続の恩恵
「高いアンプがないとダメなのか?」という疑問について検証しました。
- iPhone(Lightning変換アダプタ)直挿し:
十分に良い音です。
音量も取れます。
ただ、アッテネーター(10Ω)を挟むと、少しボリュームを上げる必要があります(8〜9割くらいまで上げることも)。 - 専用DAC(ドングルDAC)経由:
やはりこちらが上手です。
低音の締まりが良くなり、音場の奥行きが出ます。
ZERO:REDのポテンシャルを100%引き出すなら、数千円クラスのエントリーDACでも良いので挟むことをおすすめします。
【バランス接続(4.4mm)へのリケーブル】
さらに、手持ちの4.4mmバランスケーブルにリケーブルして試聴してみました。
結果、左右の分離感が劇的に向上し、空間表現が一回り大きくなったように感じました。
特にオーケストラや複雑なバンドサウンドにおいて、各楽器の隙間が見えるようになり、よりクリアな見通しが得られました。
ZERO:REDはリケーブルによる変化にも素直に反応するため、将来的にケーブルを買い替えてグレードアップする楽しみもしっかり残されています。
体験談の総括:サブ機のつもりがメイン級の愛機に
最初は「話題の安いイヤホンだし、サブ機として1つ持っておくか」程度の気持ちで購入しました。
しかし、気づけば外出時も自宅作業時も、一番手に取る頻度が高いイヤホンになっていました。
その理由は 「安心感」 です。 録音が悪い古い曲でもそれなりに心地よく聴かせてくれる包容力があり、最新のハイレゾ音源ではその情報量を余すことなく伝えてくれる。
「とりあえずこれを挿しておけば間違いない」という信頼感が、このイヤホンの最大の魅力だと感じています。
TRUTHEAR ZERO:REDに関するよくある質問(Q&A)

購入を迷っている方や、買ったばかりの方が抱きがちな疑問にお答えします。
スマホに直接挿しても良い音で聴けますか?
はい、十分に楽しめます。
ZERO:REDは比較的鳴らしやすいイヤホンなので、iPhone(変換アダプタ使用)やAndroidスマホに直接挿しても十分な音量と音質が得られます。ただし、付属の「10Ωアッテネーター」を使用すると少し音量が取りにくくなるため、その場合はスマホのボリュームを普段より上げる必要があります。もし音質をさらに追求したい場合は、数千円程度の「ドングルDAC」を挟むと、より力強いサウンドになります。
「エージング」は必要ですか?
必須ではありませんが、数時間鳴らすと馴染む場合があります。
ダイナミックドライバーを2基搭載しているため、開封直後は少し音が硬いと感じるかもしれません。普通に音楽を聴いているだけで自然と馴染んでいきますが、気になる方は普段より少し大きめの音量で10〜20時間ほど音楽を流しっぱなしにしてみると、低域の動きが良くなることがあります。
FPSゲーム(ApexやValorantなど)でも使えますか?
はい、非常に優秀です。
低音がボワつかずタイトで、音の定位(方向感)が正確なため、足音や銃声の方向を聞き分けるのに適しています。「ゲーミングイヤホン」として売られている安価な製品よりも、よほど実戦向きの性能を持っています。付属のアッテネーターを使えば爆発音の迫力も増すので、RPGや映画鑑賞にもおすすめです。
前作の「ZERO (Blue)」と迷っています。決定的な違いは?
「刺激」か「癒やし」かの違いです。
- Blue: クッキリとしたドンシャリで、高音のキラキラ感や低音のアタック感が強い。「派手で楽しい音」が好きならBlue。
- RED: 全体的に滑らかで、ボーカルに厚みがあり聴き疲れしない。「自然でずっと聴いていられる音」が好きならRED。 長時間使用するならREDの方が耳への負担は少ないでしょう。
付属の「10Ωアッテネーター」は他のイヤホンでも使えますか?
使えますが、効果はイヤホンによります。
物理的には3.5mmプラグのイヤホンであれば何でも接続可能です。ただし、インピーダンスの変化による音質の変わり方はイヤホンのドライバー構成や設計に依存するため、ZERO:REDのように「低音が増える」という結果になるとは限りません。音が小さくなるだけだったり、高音が削がれたりする場合もあります。自己責任で色々試してみるのもオーディオの楽しみ方の一つです。
リケーブルしたいのですが、規格は何ですか?
「0.78mm 2pin」規格です。
中華イヤホンで最も一般的な規格です。コネクタ部分が長方形のタイプを選ぶと見た目もスッキリ収まります(いわゆる「中華2pin」)。ただし、ZERO:REDのコネクタ差込口は少し窪んでいるタイプなので、プラグ側の形状によっては干渉して奥まで刺さらない場合があります。購入前に形状を確認することをおすすめします。
パソコン(PC)のイヤホンジャックに直挿ししても大丈夫ですか?
音は出ますが、「サー」というノイズが気になるかもしれません。
PCのイヤホンジャックは、内部の電子部品からのノイズを拾いやすい傾向があります。ZERO:REDは感度がそこそこ高いため、無音時や静かな曲で「サー」というホワイトノイズが聞こえることがあります。もしノイズが気になる場合は、Amazonなどで売っている2,000円〜3,000円程度の安価なUSB-DAC(ドングルDAC)を間に挟むだけで、ノイズが消えて音質もクリアになるのでおすすめです。
ASMRやボイスドラマには向いていますか?
実はかなり向いています。
ZERO:REDは中音域(人の声)に厚みがあり、かつ高音の刺さりが抑えられているため、耳元で囁かれるようなASMR作品やボイスドラマとの相性は抜群です。声の質感が生々しく感じられ、リップノイズなどの不快な音も強調されすぎないので、リラックスして聴くことができます。
寝ながら使う「寝ホン」として使えますか?
あまりおすすめしません。
筐体(本体)が大きく厚みがあるため、横向きに寝ると耳が圧迫されて痛みを感じる可能性が高いです。また、ノズルも太いため耳の奥への負担も大きいです。破損や怪我の原因にもなるので、就寝時の使用は避けたほうが無難です。
電車やバスでの「音漏れ」は気になりますか?
常識的な音量なら問題ありませんが、過信は禁物です。
ZERO:REDは筐体にある程度の厚みがあり遮音性はそれなりに高いですが、ドライバーの空気抜きの穴(ベント)があるため、完全に音が漏れないわけではありません。特に静かな図書館やエレベーターの中、あるいは爆音で聴いている時は、シャカシャカ音が漏れる可能性があります。電車内では「自分が聴こえるギリギリの音量」より少し下げるか、遮音性の高いウレタンイヤーピース(付属しています)を使うのがマナーとして安心です。
TRUTHEAR ZERO:REDレビューのまとめ

最後に、TRUTHEAR ZERO:REDの良い点、悪い点、そしてどんな人におすすめかをまとめます。
TRUTHEAR ZERO:REDのメリット
- 価格破壊の音質: 1万円以下とは思えない、フラットで歪みのない高品位なサウンド。
- 聴き疲れゼロ: ウォームで刺さらないチューニングは、長時間リスニングの最適解。
- 変幻自在のギミック: 付属の10Ωアッテネーターで、低音重視の音へ瞬時に切り替え可能。
- 所有欲を満たす付属品: 豊富なイヤーピース、質の高いケーブル、美しい3Dプリント筐体。
- 万能性: 音楽鑑賞、映画、ゲーム(FPS含む)、モニター用途まで幅広く対応。
- 高いビルドクオリティ: 内部が見える美しいシェルデザインと堅牢な作り。
TRUTHEAR ZERO:REDのデメリット
- ノズルが太い: 耳穴が小さい人には装着が厳しい場合がある(購入前の試着推奨レベル)。
- 音が地味(人による): ドンシャリ好きには物足りなく、退屈に感じる可能性がある。
- 小音量時の分離感: 小さな音量では音が少し団子になりやすい。
- 筐体が大きい: 耳からはみ出すサイズ感のため、寝ホン(寝ながら使用)には向かない。
おすすめできるユーザー層
以下の項目に2つ以上当てはまるなら、迷わず「買い」です。
- 「原音忠実」「フラット」な音が好き。
- 長時間聴いていても疲れないイヤホンが欲しい。
- DTMや動画編集など、制作活動にも使いたい。
- ある程度の音量(中〜大)で音楽を楽しむ環境がある。
- オーディオ沼の入り口として「基準となる良い音」を知りたい。
- FPSなどのゲームでも正確な定位感を求めている。
おすすめできないユーザー層
逆に、以下のタイプの方には、他の選択肢(前作Blueや他社製品)をおすすめします。
- 脳を揺らすような重低音や、刺激的な高音が大好き(ドンシャリ派)。
- 耳の穴が極端に小さい自覚がある。
- 図書館のような静かな場所で、極小音量でBGMとして使いたい。
- ワイヤレスイヤホンのような手軽さやノイキャン機能を求めている。
リケーブルやEQで化ける拡張性
ZERO:REDは素性が非常に素直なため、ケーブルを変えたり(リケーブル)、イコライザー(EQ)で調整したりした際の変化が分かりやすく反映されます。
「もう少し高音が欲しいな」と思ったらEQで少し上げるだけで、音が破綻することなく綺麗に追従してくれます。
また、イヤーピースを変えるだけでも低音の質感が大きく変わるため、カスタマイズのしがいがあります。
購入して終わりではなく、自分好みの音に 「育てていく楽しみ」 があるのも、マニアに愛される理由の一つです。
1万円以下の新たなベンチマークとしての価値
総評として、TRUTHEAR x Crinacle ZERO:REDは、1万円以下のイヤホン市場における 「新たな基準点(ベンチマーク)」 と断言できます。
これまでは「安いからこの程度の音で仕方ない」と妥協していた部分が、この製品には一切ありません。
「安くても、正しい設計とチューニングを行えば、ここまでの音が出せる」という事実を突きつけたエポックメイキングな製品です。
もしあなたが、 「高級イヤホンに興味はあるけど、いきなり数万円は出せない」 「安くて本当に良い音が知りたい」 と思っているなら、ZERO:REDは間違いなく、その期待を良い意味で裏切ってくれる最高の相棒になるでしょう。
さあ、あなたも「1万円以下の正解」を、その耳で確かめてみませんか?

