オーディオ愛好家の間で、ここ数年、飛ぶ鳥を落とす勢いでその名を轟かせているブランドがあります。
「AFUL」です。
特に、5万円台というミドルクラスの価格帯において、圧倒的な解像度と完成度で「この価格帯のベンチマーク(基準)」とまで言わしめた名機、『AFUL Performer 8』の存在は記憶に新しいでしょう。
私自身、そのコストパフォーマンスの高さに驚愕し、多くの読者の方におすすめしてきました。
そんなAFULから、ついに待望の新作が登場しました。その名も『Performer 8S』。
型番に「S」を冠したこのモデル。
多くの人はこう思うはずです。「Performer 8のマイナーチェンジ版なのだろうか?」と。
しかし、スペックシートを読み解き、実際に音を聴き込むにつれ、その予想が良い意味で裏切られることに気づきます。
これは単なるアップデートではありません。全く異なるアプローチで、音楽の「深淵」に挑んだ意欲作なのです。
- NASAの木星探査機からインスパイアされた壮大なデザイン
- BAを減らし、マイクロプラナーとパッシブラジエーターを搭載した攻めの構成
- ベント(通気孔)調整によるアナログなチューニング変更機能
定価6万円オーバーという、ミドルクラスの中でもハイエンドに片足を突っ込む価格帯。
失敗したくないこの価格帯において、Performer 8Sは果たして「買い」なのか? そして、既存のPerformer 8とはどう使い分けるべきなのか?
この記事では、AFULの技術の結晶であるPerformer 8Sの実機を徹底的に検証。
スペックの数値だけでは見えてこない「音の真実」を、私自身の体験談を交えて余すことなくお伝えします。
- AFUL Performer 8Sのスペックと進化点
- AFUL Performer 8Sの外観デザインと付属品のチェック
- AFUL Performer 8Sの音質レビュー:Performer 8との比較
- AFUL Performer 8Sを使用した私の体験談・レビュー
- AFUL Performer 8Sに関するQ&A
- エージング(慣らし運転)は必要ですか?
- FPSなどのゲーム用途には向いていますか?
- リケーブル(ケーブル交換)は可能ですか?
- 前作Performer 8を持っていますが、買い替える価値はありますか?
- ベント調整用のシールを無くしてしまったらどうなりますか?
- 下位モデルの「Performer 5」からのアップグレードとしてアリですか?
- フェイスプレートの模様は個体によって違いますか?
- 他社製のイヤーピース(AZLAやSpinFitなど)は装着できますか?
- 音漏れは気になりますか?
- 耳の穴が小さいのですが、装着できますか?
- 「サ行」の刺さりは気になりませんか?
- フルレンジの平面駆動(プラナー)イヤホンと比べてどうですか?
- 真空管アンプとの相性はどうですか?
- ASMRやバイノーラル音源には向いていますか?
- AFUL Performer 8Sレビューのまとめ
AFUL Performer 8Sのスペックと進化点

まずは、Performer 8Sが技術的にどのような進化を遂げたのか、前作Performer 8との比較を交えて詳細に解説します。
AFULというブランドは特許技術を多数保有しており、その中身を知ることで音への理解が深まります。
1DD+6BA+1マイクロプラナーの8ドライバー構成
最も大きなトピックは、ドライバー構成の刷新です。
両機種の構成を比較表で見てみましょう。
| 項目 | AFUL Performer 8 | AFUL Performer 8S |
| ドライバー総数 | 8ドライバー | 8ドライバー |
| 構成内訳 | 1DD + 7BA | 1DD + 6BA + 1 Micro Planar |
| 低域補助 | なし | パッシブラジエーター搭載 |
| インピーダンス | 30Ω | 35Ω |
| 感度 | 115dB | 108dB |
特筆すべきは、Performer 8SにおいてBA(バランスドアーマチュア)ドライバーを1基減らし、代わりに「マイクロプラナードライバー(平面磁界駆動型)」を採用した点です。
通常、BAドライバーは高域の精細な描写が得意ですが、独特の「硬さ」や「ピーク感(刺さり)」、あるいは「金属的な響き(BAティンバー)」が出やすい側面があります。
Performer 8はこのBAの特性を活かし、カミソリのような切れ味を実現していました。
対して今回採用されたマイクロプラナードライバーは、極薄のフィルム振動板全体を磁力で駆動させる仕組みです。
分割振動(振動板がたわむことによる歪み)が極めて少なく、高域から超高域(10kHz以上)にかけて非常に滑らかに伸びる特性を持っています。
AFULは今回、高音域の「量」や「攻撃性」ではなく、「質感」と「空間表現」を向上させるために、あえてBAを減らしてプラナーを搭載するという決断を下しました。
これにより、従来の多ドラハイブリッド機でありがちだった不自然な響きを抑え、より自然で空気感のある高音再生を狙っています。
低域の質感を高めるパッシブラジエーター
もう一つの大きな進化点が、「パッシブラジエーター」の追加です。
パッシブラジエーターとは、スピーカーの低音増強によく使われる技術ですが、容積の限られたイヤホン(IEM)への搭載は技術的ハードルが高く、まだ珍しい部類に入ります。
これは電気的に駆動するドライバー(ボイスコイルや磁石を持たない)ではなく、他のドライバー(主にダイナミックドライバー)が動く際の空気振動(背圧)を受けて共振し、低音を増幅させる機構です。
- ダイナミックドライバー単体の場合:
アタック感や押し出しの強さが特徴ですが、超低域の量感を稼ごうとすると中域にかぶりやすくなる弊害があります。 - パッシブラジエーター併用の場合:
メインのDDの動きを阻害することなく、サブベース帯域(重低音)のみを効果的に増幅できます。
また、筐体内部の空気圧を調整する「ダンパー」のような役割も果たすため、鼓膜への圧迫感を軽減する効果も期待できます。
この機構を取り入れたことで、Performer 8Sは単に低音の「量」を増やすのではなく、「音場の広さ」や「ホールの空気感」といった空間的な低音表現を手に入れています。
これは、前作Performer 8にはなかった全く新しい武器と言えます。
独自技術によるスムーズな帯域分割
AFULの代名詞とも言える独自の音響技術も、もちろん継承・進化しています。彼らの強みは「電気的なクロスオーバー」と「物理的な音響管」の融合にあります。
① RLCネットワーク周波数分割技術
複数の種類のドライバー(DD、BA、プラナー)を搭載するハイブリッド型イヤホンにおいて、最も難しいのが「音のつながり(クロスオーバー)」と「位相特性」です。
それぞれのドライバーが勝手に鳴ってしまうと、音がバラバラに聞こえ(コヒーレンシーの欠如)、不自然な響きになってしまいます。
Performer 8Sでは、RLC(抵抗・コイル・コンデンサ)回路を用いた精密なネットワークを構築。
特に今回は、インピーダンスや能率の異なるマイクロプラナーを混ぜているため、前作以上に複雑な回路設計が必要だったはずです。
② 高精度3Dプリント音響管
AFUL製品の内部には、EnvisionTEC製の高精度3Dプリンターで出力された複雑な音導管(アコースティックチューブ)が張り巡らされています。
低域用、中域用、高域用と物理的に音の通り道を分けることで、各帯域の干渉を防ぐ技術です。
特に低域用のチューブは非常に長く設計されており、物理的なローパスフィルターとして機能し、中高域を濁らせない工夫が施されています。
これらの技術により、一聴しただけではハイブリッド型とは思えないほどスムーズなつながりを実現しています。
この「技術力によるゴリ押し」ではなく「理論に基づいた調和」こそが、AFULが短期間でトップブランドの仲間入りを果たした理由でしょう。
AFUL Performer 8Sの外観デザインと付属品のチェック

所有欲を満たすためには、音だけでなくデザインやビルドクオリティも重要です。
ここでは開封体験と共に実機をチェックしていきます。
木星をイメージした美しいフェイスプレート
パッケージを開封し、イヤホン本体を手にした瞬間、その美しさに息を呑みました。
Performer 8Sのデザインコンセプトは「木星(Jupiter)」。
前作Performer 8の無骨なメカニカルデザインとは対照的に、8Sは芸術性を全面に押し出しています。
- 素材:医療用グレードの樹脂製シェル
- 装飾技術:フェイスプレートには、天然のアワビ貝殻の破片と、手書きで施された真珠パウダーの層が何層にも重ねられています。
- 意匠:惑星特有のガスの流れや、巨大な嵐(大赤斑のようなイメージ)の雲の帯を表現しています。
これらが複雑に組み合わさり、光の当たり方や見る角度によって、青、オレンジ、茶色と様々な表情を見せます。
単なるプリントではなく、奥行きのあるテクスチャが施されており、まるで小さな宝石か工芸品のようです。
特に暗い場所で光を当てた時の反射は神秘的で、「宇宙」を感じさせる深みのある色使いになっています。
所有する喜びを強く刺激されるデザインです。
実用的なハードケースとイヤーピース
付属品の充実ぶりも、ミドルクラス以上の製品として申し分ありません。
中華イヤホンの中には「音はいいけど付属品がチープ」なものも多いですが、AFULはパッケージングにもコストをかけています。
主な付属品一覧と詳細:
- 専用ハードケース:
表面はレザー調で高級感があり、円形ではなく少し高さのあるボックス型です。
内部には上蓋側にメッシュポケットを装備しており、予備のイヤーピースや乾燥剤を入れておくのに便利です。
イヤホン本体同士がぶつかって傷つかないよう、内部空間にも余裕があります。 - イヤーピース(3種類×3サイズ):
音質調整の要となるイヤーピースは3種類付属します。- 黒軸(ソフトタイプ):傘が柔らかく、耳の奥まで入りやすい。低音の逃げを防ぎ、ウォームな傾向になります。
- オレンジ軸(標準装着・バランスタイプ):軸に適度な硬度があり、全帯域をストレートに出します。今回のレビュー基準です。
- 白軸(ハードタイプ):素材が少し硬めで、高域の減衰を抑え、抜けを良くするタイプ。
- ケーブル:
高純度単結晶銅銀メッキ線を採用した8芯ケーブルが付属します。
98本の芯線を編み込んでおり、非常にしなやか。
タッチノイズ(衣擦れ音)も少なく、取り回しは良好です。
コネクタ部は2pin仕様ですが、埋め込み型ではなくフラットタイプなので、リケーブルの選択肢も広いです。 - ベント調整用シール:
低域調整に使う小さなシール(予備含む20枚程度)と、それを貼るためのピンセットのようなツール等は付属しないため、手持ちのピンセットを使う必要があります。
カスタムIEMライクな装着感と遮音性
装着感に関しては、AFULは既に一つの「答え」を持っています。
膨大な耳型のデータを基に設計されたシェル形状は、前作Performer 5/8から続く「必勝パターン」です。
- フィット感:
耳のくぼみ(コンチャ)にピタリとはまり、吸い付くような装着感です。
ノズル長も適切で、耳の奥まで無理なく挿入できます。 - 重量バランス:
ドライバー数が多く、パッシブラジエーターまで入っているため内部は詰まっていますが、重量配分が絶妙で重さを感じさせません。
耳掛け部分のシュア掛けカーブもきつくなく、耳裏への負担も軽微です。 - 遮音性:
隙間なく密着するため、パッシブなノイズキャンセリング効果(物理的な遮音)が非常に高いです。
カフェの騒音や電車の走行音も、音楽を流せばほぼ気にならなくなります。
ベント(通気孔)はありますが、音漏れも極小レベルです。
まるでオーダーメイドのカスタムIEM(インイヤーモニター)のような装着感で、長時間つけていても耳が痛くなりにくい設計です。
この「装着感の良さ」こそが、音質以前にAFULが支持される大きな理由の一つでもあります。
AFUL Performer 8Sの音質レビュー:Performer 8との比較

ここからは、実際の試聴に基づいた音質レビューを行います。
マイクロプラナーが生む高域の伸び
高音域は、Performer 8S最大のハイライトであり、最も進化を感じるポイントです。
前作Performer 8の高音は、BAドライバーを7基も積んでいるだけあり、圧倒的な情報量と「カリッとした輪郭」が特徴でした。
それは分析的で素晴らしいものでしたが、楽曲によってはハイハットやサ行が刺さり気味に感じたり、長時間聴くと聴き疲れする「情報の洪水」感がありました。
対してPerformer 8Sの高音は、「圧倒的に滑らかで、天井知らずに伸びていく」印象です。
マイクロプラナードライバーの効果により、シンバルの余韻やストリングスの倍音成分、女性ボーカルのブレス(息継ぎ)などが、空間に溶け込むようにスッと消えていきます。
耳に刺さる嫌なピーク感(歯擦音など)が綺麗に取り除かれており、解像度は高いのに聴き疲れしない、非常に上質な高音です。
- Performer 8:粒子が細かく、輪郭がはっきりした、モニターライクな高音。
- Performer 8S:空気感をまとい、シルキーに広がる、ラグジュアリーな高音。
特に10kHz以上の超高域における「エアリー感」の表現力は、同価格帯のイヤホンの中でも頭一つ抜けています。
ウォームで実在感のあるボーカル
中音域のボーカル表現も大きくキャラクターが異なります。
Performer 8Sのボーカルは、「肉厚」で「ウォーム」です。
前作がややドライでクール、一歩引いた位置から歌っているような客観的な歌声だったのに対し、8Sはボーカリストが一歩前に出てきたような近さがあり、体温や息遣いまで伝わってくるような、湿度を帯びた生々しさがあります。
特に女性ボーカルのバラードや、ジャズボーカルとの相性は抜群です。
声の線が細くならず、しっかりと芯のある歌声を聴かせてくれます。
男性ボーカルにおいても、胸板の厚みを感じさせる豊かな響きがあり、ロックバンドのボーカルも力強く再生します。
また、ギターやピアノなどの楽器音も、筐体の響きを活かした豊かな倍音を含んでおり、分析的に聴くというよりは、音楽全体のハーモニーを楽しむようなチューニングに仕上がっています。
深みとスケール感のある低域表現
そして低音域。
ここにパッシブラジエーターの真価が現れています。
Performer 8Sの低音を一言で表すなら「Deep & Wide(深く、広い)」です。
バスドラムの音は、表面的な「ドスッ」というアタック音だけでなく、その後に続く「ズーン」と地を這うような重低音(サブベース)の響きを伴います。
これにより、音楽全体のスケール感が一回り大きくなったように感じます。
ライブ会場で感じるような、身体全体で感じる低音の空気を、イヤホンサイズで再現しようとしています。
ただし、ここで好みが大きく分かれるポイントがあります。
前作Performer 8は、低音の「スピード感」や「キレ(スナップ感)」が抜群でした。ベースラインの細かな動きを追う能力に関しては、前作の方が上です。
それに比べると、8Sの低音は少し柔らかく、余韻が長いため、スピード感はやや控えめに感じられます。
- Performer 8:タイトで高速。リズムを正確に刻むモニター的な低音。筋肉質で無駄のない音。
- Performer 8S:立体的で包容力がある。雰囲気を醸成するリスニング的な低音。豊満でリッチな音。
この「低域の残響感」こそが、8Sの持つ壮大な世界観の正体であり、同時に評価の分かれ目となるでしょう。
AFUL Performer 8Sを使用した私の体験談・レビュー

ここでは、実際に私がPerformer 8Sを使い込み、様々なシチュエーションで音楽を聴いた際のリアルな体験談をお話しします。
スペック表には載らない「感覚的な部分」や「日常での付き合い方」を共有します。
壮大なサントラとの相性が抜群
ある夜、映画『インターステラー』や『デューン 砂の惑星』(いずれもハンス・ジマー作曲)のサウンドトラックを聴いた時のことです。
パイプオルガンの重厚な響きや、地鳴りのようなシンセベースが始まった瞬間、鳥肌が立ちました。
Performer 8Sのパッシブラジエーターが作り出す低域の空気感と、マイクロプラナーが描く繊細な高域のレイヤーが重なり合い、まるでIMAXシアターや大聖堂にいるかのような圧倒的な没入感を味わえました。
音の左右への広がり(サウンドステージ)だけでなく、奥行きや高さ方向の表現にも優れており、音像が立体的です。
前作Performer 8では「音の細部まで顕微鏡で覗く」ような感覚でしたが、8Sでは「音の波に全身で飲み込まれる」感覚です。
クラシックのフルオーケストラ、壮大なRPGのゲーム音楽、映画音楽を聴くなら、間違いなく8Sの方が感動できると確信しました。
ロックやPOPSでのリズムの感じ方
次に、BPMの速い現代的なロック(凛として時雨のようなマスロック系)や、打ち込みの多いアニソンを聴いてみました。
結論から言うと、「悪くはないが、Performer 8の方が合う曲もある」というのが正直な感想です。
Performer 8Sの音は全体的にリッチでウォームなため、音数が多く高速な楽曲では、わずかに音が飽和する(団子になる)ような感覚を一瞬覚えることがありました。
特に、バスドラムのキック音を「ビシッ!」とタイトに聴きたい場合、8Sの低音は少し優しすぎると感じるかもしれません。
音の立ち上がり(トランジェント)よりも、減衰(ディケイ)の美しさに重きを置いているからです。
ただ、ミディアムテンポのロックや、ベースラインをゆったり楽しみたいシティポップ、R&Bなどでは、8Sのグルーヴ感が最高にマッチし、いつまでも聴いていたくなる心地よさがあります。
ベント調整シールの使い勝手について
Performer 8Sには、本体内側のベント(穴)を塞ぐことで低音を調整する機能があります。
これについて、レビュアーとして辛口な評価をさせてください。
「なぜシールなのか?」
この価格帯の製品であれば、物理スイッチや交換用ノズルなど、もっとスマートで再利用可能なギミックを採用してほしかったのが本音です。
付属の小さなシールをピンセットで貼り付ける作業は、細かすぎて外出先では不可能ですし、何より「耳の脂や湿気でいつの間にか剥がれてなくなっていそう」という不安が常にあります。
ちなみに音質変化については、以下の通りでした。
- シールあり(デフォルト・穴を塞ぐ):低域が適度に締まり、中高域とのバランスが良い。AFULが意図したチューニング。
- シールなし(開放・穴を開ける):低域の量感がさらに増し、より開放的な音になるが、少し輪郭が緩み、全体的にボワつく印象。
個人的には、AFULがチューニングしたデフォルト(シールあり)の状態が最も完成度が高いと感じたため、結局貼りっぱなしで運用しています。
機能としては面白いですが、実用性は低いと感じました。
固定ケーブルの運用について
付属ケーブルは質感が良く取り回しも良いのですが、プラグが「3.5mm」か「4.4mm」固定である点は注意が必要です。
最近の中華イヤホンでは、プラグ部分を3.5mmや4.4mmに自由に交換できる「マルチプラグシステム」が主流になりつつあります。
しかし、AFULは音質へのこだわり(接点抵抗を増やしたくない等)からか、固定式を採用しています。
私は普段から4.4mm環境がメインなので問題ありませんでしたが、両方の環境で使用する方にとっては大きなハードルとなってしまいます。
ただ、リケーブルによる音質変化も敏感に拾うイヤホンなので、手持ちのケーブル資産がある方にとっては、ケーブル交換遊び(ケーブルローリング)も楽しみの一つになるでしょう。
長時間リスニングでの快適性
装着感の良さは前述の通りですが、音質面でも「疲れにくさ」を実感しました。
Performer 8を使っていた時は、その高解像度ゆえに、2時間ほど聴き続けると少し耳(脳)が疲れる感覚がありました。
情報量が多すぎて、脳が処理しきれなくなるような感覚です。
しかし、Performer 8Sは音が滑らかで角が取れているため、3〜4時間連続でデスクワーク中のBGMとして流していても、全く聴き疲れしませんでした。
「音楽を分析して粗探しをする」のではなく、「音楽と共に時間を過ごす」ためのイヤホンとして、非常に優秀だと感じました。
テレワーク中に高音質で音楽を流しっぱなしにしたい、というニーズには最適解の一つです。
体験談の総括
私の体験を通して言えることは、「Performer 8Sは、Performer 8の上位互換ではなく、全く別の魅力を持ったパートナーである」ということです。
- モニター用途、FPSゲーム、スピード感重視の曲、分析的リスニングには「Performer 8」。
- リスニング用途、映画鑑賞、世界観に浸りたい曲、リラックスタイムには「Performer 8S」。
このように明確な使い分けができるため、既にPerformer 8を持っている私が8Sを買っても、決して無駄にはならないと感じました。
むしろ、この2本があればほぼ全てのジャンルと気分を極めて高いレベルでカバーできる、最強の布陣が完成します。
AFUL Performer 8Sに関するQ&A

AFUL Performer 8Sに関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
エージング(慣らし運転)は必要ですか?
はい、推奨されています。
特に今回は「マイクロプラナードライバー」と「ダイナミックドライバー(パッシブラジエーター含む)」という、物理的に稼働する面積の広いドライバーが搭載されています。 箱出し直後は少し音が硬かったり、低域の広がりが不足しているように感じる場合があります。AFUL公式や代理店からもアナウンスがある場合が多いですが、一般的に50時間〜100時間程度鳴らし込むことで、振動板が馴染み、本来の滑らかでスケール感のある音になります。
FPSなどのゲーム用途には向いていますか?
RPGやオープンワールドには最適ですが、競技性の高いFPSには前作の方が向いています。
Performer 8Sは音場が広く、低域の臨場感が凄まじいため、没入感を重視するRPGやアクション映画、オープンワールドゲームでは最高の体験ができます。 一方で、Apex LegendsやVALORANTのような「足音の位置(定位)」や「銃声の聞き分け」が勝敗を分けるFPSにおいては、残響感が少なく音がタイトな前作『Performer 8』の方が有利に働く場合が多いです。
リケーブル(ケーブル交換)は可能ですか?
はい、可能です。
コネクタ規格は一般的な「2pin 0.78mm」を採用しています。端子周辺もフラットな形状(埋め込み式ではない)ため、他社製のケーブルも干渉しにくく、幅広いリケーブル製品を楽しめます。 「4.4mm環境がないので3.5mmケーブルに変えたい」といった場合も、2pinケーブルを用意すれば問題なく使用可能です。
前作Performer 8を持っていますが、買い替える価値はありますか?
「買い替え」というより「買い足し」をおすすめします。
記事内でも触れましたが、Performer 8Sは8の完全上位互換(音質がそのまま向上したもの)ではありません。 「8」はモニターライクでキレのある音、「8S」はリスニングライクで広がりのある音と、キャラクターが明確に異なります。ジャズやクラシック、サントラ専用機として「8S」を導入し、ロックや打ち込み系は「8」で聴くといった使い分けができるため、両方持っていても役割が被ることはありません。
ベント調整用のシールを無くしてしまったらどうなりますか?
音質は「シールなし(開放)」の状態になります。
シールがない状態だと、低域の量感が増え、少し開放的な鳴り方になりますが、締まりは若干弱くなります。もし紛失してしまった場合、音質の好みによってはそのままでも問題ありませんが、元のバランスに戻したい場合は、マスキングテープなどを小さく切って代用することも物理的には可能です(ただし、公式の推奨する方法ではありませんので自己責任となります)。
下位モデルの「Performer 5」からのアップグレードとしてアリですか?
はい、正当なステップアップとして非常に満足度が高いでしょう。
Performer 5は「低域の楽しさとボーカルの聴きやすさ」が売りの名機ですが、Performer 8Sはその傾向を維持しつつ、解像度、音場の広さ、高域の伸びを数段階レベルアップさせたような印象です。 Performer 8(無印)は音がクールでモニター寄りになったため、Performer 5ユーザーからは好みが分かれる場合がありましたが、8Sは5の持つ「音楽的な楽しさ」を色濃く継承しているため、違和感なく、しかし確実な進化を感じられるはずです。
フェイスプレートの模様は個体によって違いますか?
はい、すべて一点ものです。
Performer 8Sのフェイスプレートは、天然のアワビ貝殻の破片や手描きの塗装を何層にも重ねて作られているため、世界に一つとして同じ模様はありません。 木星の縞模様のようなラインの入り方や、輝きの強さが個体ごとに微妙に異なります。この「自分だけの個体」という特別感も、所有欲を満たしてくれる大きなポイントです。
他社製のイヤーピース(AZLAやSpinFitなど)は装着できますか?
はい、一般的なノズルサイズなので多くの市販品が使えます。
Performer 8Sのノズル径は標準的なサイズで、極端に太かったり細かったりはしません。 例えば「AZLA SednaEarfit」シリーズや「SpinFit W1」、「final Eタイプ」など、主要なイヤーピースは問題なく装着可能です。付属のイヤーピースも優秀ですが、パッシブラジエーターの効果を最大化するために、より密閉度の高いイヤーピースを探求するのも楽しみの一つです。
音漏れは気になりますか?
ベント(通気孔)はありますが、一般的なカナル型と同レベルで優秀です。
パッシブラジエーターやベント調整用の穴が開いていますが、開放型イヤホンのように盛大に音が漏れるわけではありません。 常識的な音量であれば、電車や図書館で使用しても周囲に迷惑をかけることはまずないでしょう。遮音性も非常に高いため、音量を上げすぎなくても音楽に没頭できます。
耳の穴が小さいのですが、装着できますか?
はい、多ドラ機としては非常にコンパクトで装着しやすいです。
8ドライバー(+パッシブラジエーター)も入っていると筐体が巨大になりがちですが、AFULは内部設計が非常に巧みで、筐体サイズは標準的なレベルに収まっています。 特に耳に触れる内側のシェイプが絶妙で、耳の小さな女性や、海外製の大型イヤホンが合わなかった方でも「AFULなら大丈夫だった」という声が多いです。付属のSSサイズやSサイズのイヤーピースを使えば、多くの方が快適に装着できるはずです。
「サ行」の刺さりは気になりませんか?
驚くほど滑らかで、ほとんど気になりません。
高域にBAドライバーを多用する機種では、ボーカルの「サ行(歯擦音)」やシンバルの音が刺さって痛いことがありますが、Performer 8Sは高域担当に「マイクロプラナードライバー」を採用しています。 プラナードライバーは歪みが少なく、音の角を取ってくれる特性があるため、クリアなのに耳に優しいという絶妙なバランスを実現しています。長時間のリスニングでも聴き疲れしにくい大きな理由の一つです。
フルレンジの平面駆動(プラナー)イヤホンと比べてどうですか?
「低域の厚み」において8Sの方に分があります。
「LETSHUOER S12」や「Timeless」のようなフルレンジ平面駆動イヤホンは、全帯域の統一感や解像度は素晴らしいですが、低音の押し出し感(音圧)が少し軽く感じることがあります。 Performer 8Sは、高域にのみプラナーの良さを活かし、低域にはダイナミックドライバー+パッシブラジエーターを使用しています。これにより「プラナー特有の繊細な高域」と「ダイナミック特有の迫力ある低域」という、美味しいとこ取り(いいとこどり)ができているのが最大の強みです。
真空管アンプとの相性はどうですか?
非常に良く、特におすすめしたい組み合わせです。
Performer 8S自体がウォームでアナログライクな響きを持っているため、真空管アンプを通すことでその魅力がさらに倍増します。 特に中域の艶感や、ホールの残響感がさらにリッチになり、デジタル音源を聴いていることを忘れるほど心地よいサウンドになります。もし据え置き環境をお持ちなら、ぜひ試していただきたい組み合わせです。
ASMRやバイノーラル音源には向いていますか?
かなり向いています。
装着感が良く遮音性が高いことに加え、高域が滑らかで刺さらないため、耳元で囁かれるような音声や、環境音(雨音や焚き火など)のリアリティが非常に高いです。 また、音場が広いため、バイノーラル録音された位置関係(右後ろから聞こえる、など)も明確に再現してくれます。刺激が少ないので、寝ホン(寝ながら聴く)に近いリラックス用途でも活躍します。
AFUL Performer 8Sレビューのまとめ

長文にお付き合いいただきありがとうございました。
最後に、AFUL Performer 8Sのレビューを総括します。
Performer 8Sのメリット
- 至高の高域:マイクロプラナーによる、刺さりのないシルキーで伸びやかな高音。10kHz以上の空気感はハイエンドクラス。
- 没入感のある低域:パッシブラジエーターが生み出す、深みと広がりのある低音。
- 艶のあるボーカル:無機質にならず、感情豊かに歌い上げる中音域。
- 万能な装着感:カスタムIEMに迫るフィット感で、長時間の使用も快適。
- 所有欲を満たす外観:木星を模したフェイスプレートは唯一無二の美しさ。
Performer 8Sのデメリット
- プラグ交換不可:3.5mm or 4.4mm固定のため、再生環境を選ぶ。
- 調整機構がアナログ:シールの貼り替えによる音質調整は利便性に欠け、紛失リスクがある。
- キレは控えめ:前作Performer 8に比べると、音の立ち上がりやタイトさはマイルドで、スピードメタル等には不向きな場合がある。
Performer 8(前作)をおすすめする人
- 音の解像度、分離感、正確性を最優先する「分析派」の方。
- スピードの速いロック、メタル、EDMをメインに聴く方。
- FPSゲーム(ApexやValorantなど)で、足音の位置や距離を正確に把握したいゲーマーの方。
- ドライでクッキリとした、色付けの少ないボーカル表現が好みの方。
- 予算を5万円台前半に抑えたい方。
Performer 8Sをおすすめする人
- 音の「広がり」や「雰囲気」「余韻」を大切にする「芸術派」の方。
- クラシック、ジャズ、サウンドトラック、バラードを好む方。
- 高音の刺さり(歯擦音)が苦手で、滑らかで優しい音を求めている方。
- 長時間聴いていても疲れない、リスニングライクなハイエンドサウンドが欲しい方。
- 予算6万円を出してでも、最新の技術と美しいデザインを手に入れたい方。
AFUL Performer 8Sレビューの総括
「AFUL Performer 8S」は、大ヒット作の後継機という重圧を跳ね除け、「響き」と「空間」という新たな価値を提示してくれました。
スペック競争に陥りがちな中華イヤホン市場において、AFULは「どうすれば音楽が心地よく聴こえるか」という原点に立ち返ったような音作りをしています。
もしあなたが、音楽を単なる「音の情報の羅列」としてではなく、「感情を揺さぶる芸術」として楽しみたいのであれば、Performer 8Sは間違いなくその期待に応えてくれるでしょう。
木星の嵐のように力強く、そして宇宙のように広大なサウンドスケープ。
ぜひ一度、あなたの耳で体感してみてください。
あなたのオーディオライフが、ワンランク上のステージへ進むことを約束します。

