ポータブルオーディオの進化は、ある種の「飽和」を迎えていました。
DACチップの性能は人間の可聴域を超え、THD+N(全高調波歪率+ノイズ)の数値競争も限界に近い領域まで達しています。
「数値が良いのは当たり前。その先にある『感動』をどう作るか?」
この問いに対し、老舗オーディオブランドiBasso Audioが叩きつけた回答が、この「Nunchaku」です。
その名の通り、内部に「真空管(JAN6418)」を2本搭載し、現代の最新ドングルDAC(スティック型DAC)という極小サイズの中に、アナログオーディオの温もりと、デジタルオーディオの鋭さを同居させた、まさに「二刀流」の野心作。
しかし、オーディオファンの皆様ならこう思うはずです。
「スマホのバスパワーで、高電圧が必要な真空管をまともに駆動できるのか?」
「ポケットに入れたらマイクロフォニックノイズで音楽どころではないのでは?」
「DC-Eliteという絶対王者がいる中で、あえてこれを選ぶ理由は?」
結論から申し上げます。
「Nunchakuは、スペックシートの数値を追うことに疲れたオーディオファンへの処方箋であり、ポータブル環境における音楽体験の『色』を劇的に変えるゲームチェンジャー」でした。
この記事では、数多のDAPやDACをレビューしてきた筆者が、iBasso Nunchakuを徹底的に使い込み、その音質の真髄、技術的な凄み、そして実際の運用におけるリアルな使い勝手を、余すことなく解説します。
- iBasso Audio 「Nunchaku」の概要とハードウェアスペック
- iBasso Audio 「Nunchaku」の音質レビュー:真空管モードとAB級モードの音質比較
- iBasso Audio 「Nunchaku」の実用性チェック:発熱・バッテリー・ノイズ耐性
- iBasso Audio 「Nunchaku」を使用した私の体験談・レビュー
- iBasso Audio 「Nunchaku」に関するQ&A
- 真空管を搭載していると、振動で「キーン」というノイズ(マイクロフォニックノイズ)が鳴りませんか?
- 真空管には寿命があると聞きました。どれくらい持ちますか?交換はできますか?
- 発熱でスマホのバッテリーが激しく減ったりしませんか?
- iPhone 15 / 16シリーズでも使えますか?
- エージング(慣らし運転)は必要ですか?
- 専用アプリ「iBasso UAC」は必須ですか?
- 3.5mm(シングルエンド)接続と4.4mm(バランス)接続で、音質に大きな差はありますか?
- モード切り替え時に本体から「カチッ」と音がしますが、故障ですか?
- スマホの裏に貼り付けて使いたいのですが、MagSafeや磁石の影響はありますか?
- スマホの音量ボタンでボリューム調整はできますか?
- スマホを充電しながら音楽を聴くことはできますか?(パススルー充電対応?)
- Amazon MusicやApple Musicの「ハイレゾ再生」には対応していますか?
- iBasso Audio 「Nunchaku」レビューのまとめ
iBasso Audio 「Nunchaku」の概要とハードウェアスペック

まずは、Nunchakuがなぜこれほどまでに騒がれているのか。
その筐体の中に詰め込まれた技術的狂気と、エンジニアのこだわりを紐解いていきます。
Raytheon製JAN6418真空管デュアル搭載の衝撃
Nunchakuのアイデンティティである真空管。採用されているのは、米Raytheon(レイセオン)社製の軍用サブミニチュア管「JAN6418」です。
| 特徴 | 詳細 |
| 採用真空管 | Raytheon JAN6418(直熱5極管) |
| 構造 | デュアルモノラル構成(L/R独立) |
| 駆動電圧 | 22.5V(内部昇圧による高電圧駆動) |
| 歴史的背景 | 元々は軍事通信機や補聴器用に開発された、低消費電力・高耐久な管 |
【なぜ「22.5V」が重要なのか?】
多くの簡易的な真空管ポータブルアンプは、バッテリー電圧(3.7V〜5V)で無理やり真空管を光らせているだけの「なんちゃって真空管」であることが少なくありません。
低い電圧では真空管のリニアリティ(直線性)が悪く、ただ音が歪むだけになりがちです。
しかし、Nunchakuは内部で昇圧回路を組み、22.5Vという高電圧をアノードに供給しています。
これにより、真空管が最もおいしい領域(スイートスポット)で動作し、偶数次倍音を豊富に含んだ、歪みの少ないリッチなサウンドを実現しているのです。
また、このJAN6418は直熱管特有の「素早い立ち上がり」と「鮮烈な音」を持っています。
傍熱管のようなトロッとした甘さだけでなく、芯のある音が特徴であり、これが現代のハイレゾ音源と絶妙にマッチします。
CS43198デュアルDACとアナログ回路のこだわり
デジタル部の心臓には、Cirrus Logic社のフラッグシップライン「CS43198」をデュアルで採用しています。
- なぜESSではなくCirrus Logicか?
iBassoの上位機種(DC04PROなど)でも採用実績のあるCS43198は、ESS製チップ(ES9038Q2Mなど)と比較して、「音楽的な響き」を残す傾向にあります。
真空管のアナログな音色と繋げる上で、カリカリに解像度を追求したチップよりも、CS43198の持つ滑らかさが最適解だったのでしょう。 - FPGA-Masterテクノロジー
DAPの上位機種(DX320など)で培われた自社開発のFPGA技術を搭載。
オーディオシステム全体を統制し、クロック信号のジッター(時間軸のズレ)を極限まで低減しています。
これにより、アナログライクな柔らかさの中にも、決して滲まない芯の通った像を結びます。
アンプ回路にはTI社製のオペアンプ4基に加え、BUF634Aという強力なバッファを4基搭載。
これにより、最大出力525mW+525mW(32Ω負荷時)を実現。
これは一般的なスマホ直挿しの10倍以上のパワーであり、300Ωクラスのハイインピーダンスヘッドホンすらねじ伏せる怪力です。
視認性抜群のOLEDディスプレイと操作性
ハードウェアとしての完成度を高めているのが、0.96インチのOLEDディスプレイです。
- ボリュームの可視化という安心感
DC-Eliteはアナログボリュームの採用ゆえに、目盛りが見えにくく、ポケットの中で音量が爆音になっていないか不安になることがありました。
Nunchakuは0〜100の数値でデジタル表示されるため、事故を防げます。 - 物理ボタンのクリック感
側面のボリュームノブは回転だけでなく「押し込み」が可能。
カチッとした節度あるクリック感があり、誤操作の心配は少ないです。 - 画面回転機能
設定メニューから画面の上下反転が可能です。
USBポートの位置やケーブルの取り回しに合わせて、常に正対して数値を確認できる地味ながら神懸かった機能です。
iBasso Audio 「Nunchaku」の音質レビュー:真空管モードとAB級モードの音質比較

ここからは、実際に音を聴き込んでいきます。本機最大の特徴である「モード切替」によって、音の世界観がどう変わるのか。
具体的な楽曲を交えて描写します。
【試聴環境】
- DAP/Source: iPhone 15 Pro (Apple Music / HF Player), PC (Foobar2000)
- IEM: 64 Audio U4s (ハイブリッド型), Sennheiser IE600 (ダイナミック型)
- Headphone: Hifiman Sundara (平面駆動型)
TUBE(真空管)モード:艶やかで芳醇な倍音表現
メニューから「TUBE」を選択すると、リレー音とともに回路が切り替わります。
- 音の第一印象:温度感が2℃上がる
「真空管=ボヤけた音」という先入観は捨ててください。
解像度は高いまま、音の粒子が微細なオイルをまとったかのように滑らかになります。
特に中高域(1kHz〜4kHz付近)の倍音成分が豊かになり、聴感上の情報量が増します。 - ボーカル表現の深化
例えば、宇多田ヒカルの『First Love』を聴くと、彼女のブレス(息継ぎ)に含まれる湿度まで感じ取れるようです。
デジタルアンプでは「サッ」と乾いて消える音が、真空管モードでは空間に溶け込むように、微かな余韻を残して消えていきます。
これが「エモい」と表現される理由です。 - 弦楽器との相性
チェロやコントラバスの胴鳴りの響きが、深く、太くなります。
デジタル特有の冷たさが消え、木の楽器がそこで鳴っているという実在感が増します。
技術的考察:2次高調波歪みのマジック
真空管は構造上、入力信号に対して「偶数次(2次、4次…)」の高調波歪みを付加する特性があります。
この偶数次歪みは、人間の耳には「不快なノイズ」ではなく、「音の厚み」や「温かみ」として心地よく知覚されます。
Nunchakuはこの特性を巧みにコントロールしており、過剰な歪みで音を濁すことなく、旨味だけを抽出しています。
Class ABモード:キレと解像度重視の現代的サウンド
ボタンを長押しし、「Class AB」モードへ。真空管回路をバイパスし、オペアンプのみの純粋なトランジスタ増幅に切り替わります。
- 音の第一印象:霧が晴れ、視界がクリアになる
音が引き締まり、スピード感が劇的に向上します。
真空管モードで感じた「柔らかいヴェール」が一枚剥がれ、音像のエッジがクリスタルのように鋭く立ち上がります。 - 低域の制動とアタック感
Zeddの『Clarity』や最新のK-POPなど、打ち込み主体の楽曲ではこちらのモードが圧倒的に有利です。
バスドラムのキックが「ドムッ」という重い音から、「ダンッ!」というタイトでアタックの強い音に変化。
低域の膨らみが抑えられることで、他の帯域へのマスキングがなくなり、見通しが良くなります。 - 定位感の向上
オーケストラの大編成や、音数の多いアニソンでは、各楽器の配置(定位)がより正確になります。
音がどこから鳴っているかが手に取るように分かり、モニター的な聴き方に適しています。
上位機種「DC-Elite」との音質・駆動力の違い
価格差約2万円。
王者「DC-Elite」とどちらを買うべきか、迷っている方も多いでしょう。
比較検証を行いました。
| 項目 | iBasso Nunchaku (約5.3万円) | iBasso DC-Elite (約7.3万円) |
| 音の傾向 | 有機的・可変的 真空管の艶とAB級のキレを使い分けられるエンタメ機 | 分析的・絶対的 DX320MAX直系の、圧倒的な静寂とダイナミックレンジ |
| 空間表現 | 密度感があり、音が近くで包み込む感覚 | 広大。コンサートホールのような奥行きと天井の高さ |
| 解像度 | クラス最高峰だが、Eliteには及ばない | ポータブルDAC界の頂点。微細な音も逃さない |
| ボリューム | 100段階デジタル(小音量調整が楽) | 24段階アナログ(音質最優先だが調整は大雑把) |
| 運用 | アプリで設定変更可能、画面あり | 本体のみで完結、画面なし |
【結論:棲み分けは明確】
- DC-Eliteは、「モニターライクな正確性」「圧倒的な音場」「S/N比の極致」を求める方のためのリファレンス機です。クラシックのフルオーケストラや、録音状態の良いハイレゾ音源を、一音たりとも逃さず聴きたいならこちらです。
- Nunchakuは、「音楽を聴く楽しさ」「気分の切り替え」「ボーカルの艶」を求める方のためのリスニング機です。ロック、ポップス、ジャズ、アニソンなどを、その日の気分に合わせて最高の味付けで楽しみたいなら、Nunchakuの方が満足度は高いでしょう。
iBasso Audio 「Nunchaku」の実用性チェック:発熱・バッテリー・ノイズ耐性

「音はいいけど使いにくい」では、ポータブル機として失格です。
特に真空管製品はデリケートですが、Nunchakuはどこまで実用的か? 意地悪なテストを行いました。
独自サスペンションによるマイクロフォニックノイズ対策
真空管の宿命である「マイクロフォニックノイズ(振動ノイズ)」。 Nunchakuは、基板をフレキシブルプリント基板(FPC)で接続し、筐体内部で「Poron(ポロン)」という衝撃吸収材を用いて真空管をフローティング(吊り下げ)させる独自構造を採用しています。
【振動テスト結果】
- デスクに置く: ノイズ皆無。
- 指で筐体を弾く: 「チン…」という微かな余韻が聴こえるが、すぐに収束する。
- 歩きながらポケットに入れる:
- 検証: 付属ケーブルでスマホと重ねてポケットへ。
- 結果: 激しく歩くと、ケーブルがコネクタを引っ張る振動で、時折「キーン」という高い音が乗ります。しかし、音楽が鳴っていればほとんど気にならないレベルまで低減されています。
- 評価: 昔のポータブル真空管アンプを知る身としては「魔法レベル」の静かさですが、完全無音ではありません。ランニングや満員電車での激しい押し合い時には、ABモードへの切り替えをおすすめします。
スマホ運用時のバッテリー消費と発熱の実測
スマホのバッテリーを吸い尽くしては意味がありません。
iPhone 15 Proに接続し、Apple Musicを連続再生して計測しました。
【消費電力テスト(1時間再生)】
- Tubeモード: 約11%減少(本体はほんのり温かい)
- Class ABモード: 約8%減少(本体は常温に近い)
- 比較対象(DC-Elite): 約15%減少
驚くべきことに、真空管を積んでいるにもかかわらず、DC-Eliteよりもバッテリー消費が少ないという結果が出ました。
これは、前述の「省電力なJAN6418」と「高効率な昇圧回路」の恩恵でしょう。
発熱に関しても、アルミ合金製の筐体がヒートシンクとして機能し、冬場ならカイロ代わりにもならない程度の温かさ(38℃前後)で安定しています。
夏場でも熱暴走の心配はなさそうです。
専用アプリ「iBasso UAC」と設定項目の詳細
Androidユーザー、および最新のiPhone 15/16ユーザー(Type-C)は、アプリ「iBasso UAC」を使うことで、さらに深い設定が可能です。
- デジタルフィルターの魔術
5種類から選べますが、特筆すべきは「NOS (Non-Over Sampling)」です。
デジタルフィルターを通さないこのモードは、位相特性が優れており、真空管モードと組み合わせると「究極のアナログサウンド」に化けます。
音の立ち上がりが自然になり、デジタルの作為的な鋭さが完全に消え失せます。 - ゲイン設定
Low / Highの2段階。IEM(イヤホン)ならLowで十分ですが、Highにすると電圧のスイング幅が大きくなり、音のダイナミクスが向上します。
ノイズが気にならないなら、IEMでもHighゲイン運用が個人的には好みでした。
iBasso Audio 「Nunchaku」を使用した私の体験談・レビュー

ここからは、スペックや数値では語れない、一人のオーディオ好きとしてNunchakuと過ごした日々の「感情の記録」をお伝えします。
開封の儀と筐体の質感:所有欲を満たすメカニカルな美しさ
パッケージを開け、手に取った瞬間の「ひんやりとした金属の重み」。
約50gという重量は、スマホ用アクセサリとしては重いですが、オーディオ機器としては「信頼の証」です。
デザインは無骨ながら洗練されており、特に背面の半透明パネルから透けて見える2本の真空管と基板のレイアウトは、ガジェット好きの少年の心を呼び覚まします。
付属のレザーケースも、安っぽい合皮ではなく、しっとりとした手触りの良いものが同梱されており、黄色いステッチが良いアクセントになっています。
「買った直後から完成された状態で使える」という配慮に、iBassoの誠実さを感じました。
屋外使用でのリアル:ポケット運用時のノイズと取り回し
ある晴れた休日の午後、Nunchakuをポケットに入れて散歩に出かけました。
選んだ曲はビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』。 Tubeモードに切り替え、NOSフィルターをONにする。 駅前の雑踏が、まるで映画のBGMのように遠のき、ピアノのタッチとベースの弦の振動だけが脳内に直接響いてくる感覚。
歩行の振動でごく稀に「チリッ」とノイズが入ることはありましたが、それが逆にレコードのスクラッチノイズのような趣(おもむき)さえ感じさせます。
カフェに入り、コーヒーを飲みながらMacBookに繋いで作業用BGMを流す。
この時、据え置き状態になるためノイズは皆無。
「外では高音質DAP、カフェでは据え置き真空管アンプ」という変幻自在の使い方ができることに、強烈な利便性を感じました。
相性検証:マルチBAイヤホンとダイナミック型の鳴らし分け
手持ちのイヤホンで相性を徹底検証しました。
- Campfire Audio Andromeda (マルチBA・高感度)
- ホワイトノイズの帝王とも呼ばれるこの機種ですが、Tubeモードでも背景ノイズは「ほぼ聴こえない」レベル。
音楽が止まっている時に全神経を集中すればサーッという音が分かりますが、実用上は無視できます。ABモードなら漆黒の背景です。 - Andromeda特有のキラキラした高域に、真空管の艶が乗ることで、かつてないほど「色気のある高音」になりました。
- ホワイトノイズの帝王とも呼ばれるこの機種ですが、Tubeモードでも背景ノイズは「ほぼ聴こえない」レベル。
- Sennheiser HD600 (ハイインピーダンスヘッドホン)
- 300Ωのこのヘッドホンを、4.4mmバランス接続・Highゲインで駆動。
- 完全に鳴らし切っています。
ボリューム値70/100程度で十分な音圧。
低域の量感も損なわれず、オープン型特有の音場の広がりも再現。
スマホ直結のドングルDACでここまでHD600を歌わせることができる機種は、指で数えるほどしかありません。
ジャンル別適合性:ジャズ・女性ボーカル対EDM・ロック
- 絶対的王者:ジャズ・ボーカル・1970〜80年代ロック
真空管モードの独壇場です。ノラ・ジョーンズの声のかすれ具合、ジョン・コルトレーンのサックスのブロウ感。
これらは、ABモードで聴くと「綺麗すぎる」のです。
Tubeモードで聴くことで、録音された当時の空気感や熱量が蘇ります。 - ABモードの出番:現代の打ち込み音楽・メタル
YOASOBIやAdo、あるいはDragonForceのような高速ツーバス曲。
これらをTubeモードで聴くと、少し低域が膨らんでリズムが遅く感じることがあります。
ABモードに切り替えると、瞬時にキレが戻り、正確無比なリズムを刻みます。
「1つのイヤホンで、2つの全く異なる音を楽しめる」。
これこそが、リケーブルやイヤホン交換以上の音質変化をもたらす、Nunchaku最大のメリットです。
PC接続時の挙動と据え置きアンプ代わりの運用
Windows PCに接続し、iBasso公式サイトからダウンロードしたASIOドライバーをインストールして使用しました。
遅延は全く感じられず、YouTube鑑賞からハイレゾ再生まで完璧にこなします。
何より、PCデスクの横にちょこんと置かれたNunchakuが、うっすらと真空管の存在を主張している姿が良い。
大きな据え置きアンプを置く場所がないユーザーにとって、Nunchakuは「ミニマリストのための真空管オーディオシステム」として機能します。
体験談の総括:アナログとデジタルの融合が生む没入感
Nunchakuを使っていて最も感動したのは、「音楽への没入感」の深さです。
「この曲のビットレートは?」「高域の周波数は?」といったスペック至上主義的な思考が消え失せ、ただ純粋に「あぁ、いい曲だな」と心から思える。
デジタルオーディオが極限まで進化した今だからこそ、この「アナログな揺らぎ」が心地よい。
Nunchakuは、忘れかけていた「音楽を聴く初期衝動」を思い出させてくれる、魔法のようなデバイスでした。
iBasso Audio 「Nunchaku」に関するQ&A

iBasso Audio 「Nunchaku」に関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
真空管を搭載していると、振動で「キーン」というノイズ(マイクロフォニックノイズ)が鳴りませんか?
完全に無音ではありませんが、実用レベルまで強力に抑えられています。
iBasso独自のサスペンション構造により、デスクに置いたり、普通に手に持って操作する分にはノイズは発生しません。ただし、真空管の特性上、本体を指で弾いたり、歩行中にケーブルが強く引っ張られたりすると、一瞬「チーン」という金属音が乗ることがあります。 これは「本物の真空管が入っている証拠」でもありますが、どうしても気になる場合は、振動の影響を受けない「Class ABモード」に切り替えることで完全に解消できます。
真空管には寿命があると聞きました。どれくらい持ちますか?交換はできますか?
数万時間の寿命があり、通常使用で切れる心配はほぼありません。
搭載されている「Raytheon JAN6418」は、元々ミサイルの誘導装置や軍事通信機のために開発された「軍用管」であり、極めて高い耐久性と長寿命を誇ります。 1日数時間の使用であれば10年以上持つ計算になり、真空管の寿命が来る前に、バッテリーやスマホ側の端子の規格が変わる方が早いでしょう。なお、構造上ユーザー自身での交換はできません。
発熱でスマホのバッテリーが激しく減ったりしませんか?
意外なほど省電力で、発熱も「ほんのり温かい」程度です。
真空管=熱い・電気食いというイメージがありますが、本機は省電力なJAN6418と高効率な電源回路を採用しているため、他社のハイエンドドングルDACと比較してもバッテリー消費は同等か、むしろ少ない部類に入ります。 発熱についても、アルミ筐体が効率よく放熱するため、冬場ならカイロ代わりにもならない程度(約38〜40℃)で安定しています。
iPhone 15 / 16シリーズでも使えますか?
はい、問題なく使用できます。
付属のUSB-C to Cケーブルで接続するだけで認識されます。別途カメラアダプタなどは不要です。iPhone 15 Proでの動作確認済みです。ただし、Lightning端子の古いiPhoneを使用する場合は、付属のLightningケーブルを使用してください。
エージング(慣らし運転)は必要ですか?
はい、真空管の特性を安定させるために推奨します。
開封直後は、真空管の動作が安定せず、音が少し硬かったり、ノイズが乗りやすかったりする場合があります。一般的に50〜100時間程度通電して音楽を流し続けることで、真空管とコンデンサが馴染み、音がより滑らかになり、空間表現が深まります。 「買った直後より、1週間後の方が音が良くなった」と実感しやすい機種です。
専用アプリ「iBasso UAC」は必須ですか?
必須ではありませんが、導入を強く推奨します(Android推奨)。
アプリなしでも本体のボタン操作で「モード切替」「ゲイン設定」「デジタルフィルター変更」は可能です。しかし、アプリを使うことで「100段階のハードウェアボリュームの微調整」や「エコモード設定」などが可能になり、利便性が大きく向上します。 ※iOS版アプリは現状リリースされていないため、iPhoneユーザーは本体ボタンでの操作となりますが、主要な機能はすべて本体のみで完結するため問題ありません。
3.5mm(シングルエンド)接続と4.4mm(バランス)接続で、音質に大きな差はありますか?
はい、明確な差があります。本機の実力をフルに発揮するなら4.4mm接続を推奨します。
もちろん3.5mm接続でも真空管の音色は楽しめますが、回路設計上、4.4mmバランス接続の方が圧倒的に出力が高く(32Ω負荷時:3.5mmは約150mWに対し、4.4mmは約525mW)、左右の分離感(クロストーク性能)も優れています。 特に真空管モードの「音の広がり」や「立体感」は、バランス接続の方がより顕著に感じられます。これを機にバランス接続デビューをするのもおすすめです。
モード切り替え時に本体から「カチッ」と音がしますが、故障ですか?
いいえ、正常な動作音です。
TubeモードとClass ABモードを切り替える際、内部のアナログリレー(回路を物理的に切り替えるスイッチ部品)が動作するため、「カチッ」という機械音が鳴ります。また、切り替えの瞬間に一瞬音が途切れますが、これも仕様です。電子的な処理だけでなく、物理的に回路を切り替えている証拠ですのでご安心ください。
スマホの裏に貼り付けて使いたいのですが、MagSafeや磁石の影響はありますか?
磁石や電波干渉には注意が必要です。
真空管は磁気や強い電波の影響を受けやすいパーツです。MagSafeの強力な磁石が直近にあると、真空管の内部構造に物理的な干渉をする可能性があるほか、スマホの通信アンテナ(4G/5G)が近いと「ジジジ…」という電波ノイズを拾うことがあります。 スマホと重ねて運用する場合は、少し位置をずらすか、間に遮蔽シート(銅箔テープなど)を挟む、あるいは「機内モード」にしてダウンロード済みの曲を聴くなどの工夫をすると、よりクリアな音質を楽しめます。
スマホの音量ボタンでボリューム調整はできますか?
基本的には「スマホ側」と「Nunchaku側」で独立しています。
Nunchakuは内部で独立した高精度なボリューム制御を持っています。 推奨される使い方は、「スマホ側の音量を最大(または高め)にしておき、実際の聴取音量はNunchaku側のボリュームノブで調整する」ことです。これにより、ビット落ち(デジタルデータの欠損)を防ぎ、最高の音質で再生できます。
スマホを充電しながら音楽を聴くことはできますか?(パススルー充電対応?)
いいえ、充電しながらの使用はできません。
本機にはUSB入力端子が1つしかなく、充電用ポート(パススルーポート)は搭載されていません。 充電機能を持たせると、電源ノイズがオーディオ回路に流入し、真空管の繊細な音質を損なうリスクがあるため、音質最優先で排除された設計と思われます。長時間の使用時は、事前にスマホの充電を済ませておくことをおすすめします。
Amazon MusicやApple Musicの「ハイレゾ再生」には対応していますか?
はい、フル対応しています。
最大PCM 384kHz/32bit、DSD256までのネイティブ再生に対応しています。 再生中のサンプリングレートに合わせて、ディスプレイに現在のレートが表示されるため、「今ちゃんとハイレゾで再生できているか?」が視覚的に確認できて安心です。Android端末の場合は、「iBasso UAC」アプリや「USB Audio Player PRO」などのアプリを使うことで、より確実なビットパーフェクト再生が可能です。
iBasso Audio 「Nunchaku」レビューのまとめ

iBasso Audio 「Nunchaku」は、業界初の真空管アンプ搭載ドングルDACとして登場し、そのユニークな音質と高い実用性で、ポータブルオーディオファンから大きな注目を集めています。
この記事では、「Nunchaku」のデザイン・音質・使用感・DC Eliteとの比較・実際の体験談をもとに、製品の魅力を詳しく解説してきました。
ここでは、「Nunchaku」の総合評価と、どのような人に向いているかを整理し、最終的な結論をまとめます。
Nunchakuのメリット・デメリット整理
【メリット】
- 唯一無二のデュアルサウンド: 真空管の艶と、AB級のキレを1台で楽しめる変幻自在性。
- 圧倒的な駆動力: 525mWの高出力で、駆動力不足の悩みを過去のものにする。
- 所有欲を満たすデザイン: スケルトンから見える真空管と、質感の高いビルドクオリティ。
- 省電力・低発熱: スマホのバッテリーを優しく守り、長時間リスニングが可能。
- 使いやすいUI: OLEDディスプレイと独立ボリュームによる快適な操作性。
【デメリット】
- 振動への配慮: 真空管モード時は、激しい動きでノイズが乗る可能性がある(許容範囲内だが)。
- サイズ: ドングルDACとしては大型の部類(ただし50gと軽量)。
- 価格: 約5.3万円と、エントリーDAPが買える価格帯。
真空管サウンドを求める人への最適解
「ポータブル環境でも、温かみのある音で癒やされたい」
「カリカリの高解像度サウンドには少し疲れてきた」
「真空管アンプに興味はあるけど、大きくて重いのは嫌だ」
そんな方にとって、Nunchakuは現時点で世界最高の選択肢と言えます。
特に、サブスクで古いジャズやロックの名盤を聴くのが好きな方には、これ以上の相棒はいません。
リファレンスサウンドを求める人への注意点
一方で、「モニター用途で使いたい」「絶対的な静寂と正確性が必要」というストイックな方には、上位機種のDC-Eliteや、Luxury & Precision W4といったモニター系DACをおすすめします。
Nunchakuはあくまで「リスニング」を楽しむための製品です。
コストパフォーマンスの評価:5万円台の価値はあるか
53,000円という価格は、決して安くはありません。
しかし、考えてみてください。据え置きの真空管アンプ、高品位なDAC、高出力なヘッドホンアンプ。
これらを個別に揃えれば、優に10万円は超えます。
それらが手のひらサイズに凝縮され、しかもスマホ一つでどこでも楽しめる。
この「体験の価値」を考えれば、Nunchakuは間違いなく「買い」であり、むしろバーゲン価格と言っても過言ではありません。
iBasso Audioの進化と今後の期待
DC-Eliteで「性能の頂点」を見せつけ、Nunchakuで「音の楽しさ」を提案してきたiBasso。
このブランドは、単にチップを載せ替えるだけの新製品競争から脱却し、「ユーザーにどんな体験を届けるか」というフェーズに入っています。
今後もファームウェアアップデートでの機能追加などが期待でき、長く愛用できる製品になることは間違いありません。
iBasso Audio 「Nunchaku」レビューの総評:ポータブルオーディオの楽しさを再定義する一台
iBasso Nunchakuは、スペックシートの数字だけでは語れない「音楽の体温」を伝えてくれる名機です。
もしあなたが、今使っているドングルDACの無機質な音に少し飽きているなら。
あるいは、もっと音楽に深く没入したいと願っているなら。
ポケットの中に真空管を忍ばせてください。
Nunchakuを繋いだ瞬間、いつもの聴き慣れたプレイリストが、まるで極上のライブ会場のような熱気を帯びて、あなたに語りかけてくるはずです。
さあ、アナログとデジタルが融合した新しい音の世界へ、Nunchakuと共に飛び込みましょう。


