現在、ポータブルオーディオ市場、特に「3万円〜5万円」のミドルクラス帯は、かつてないほどの激戦区となっています。
数年前であればハイエンドモデルにしか搭載されなかったような技術が惜しげもなく投入され、「価格破壊」という言葉すら陳腐化するほどの進化を遂げているからです。
その中心にいるブランドの一つが「Kiwi Ears(キウィ・イヤーズ)」です。
彼らは、エントリーモデルの「Cadenza」でその名を轟かせ、ミドルクラスでは8BA搭載の「Orchestra Lite」や、4種類の異なるドライバーを搭載した「Quintet」といった意欲作を次々とヒットさせてきました。
そして2024年、満を持して投入されたのが、今回レビューする「KE4」です。
KE4は、前作にあたる「Quartet」と同じ「2DD(ダイナミックドライバー)+ 2BA(バランスドアーマチュア)」というハイブリッド構成を採用しています。
しかし、単なるマイナーチェンジではありません。
トレンドであった「音質調整スイッチ」をあえて廃止し、ドライバー構成こそ似ていますが、その中身は「アイソバリック駆動」という本格的なサブウーファーシステムを搭載した、全くの別物へと生まれ変わっています。
多くのオーディオファンやレビュアーが、このKE4を聴いて口にする言葉があります。
それは「解像度が高い」といったありふれた表現ではなく、「音楽に浸れる」「グルーヴ感が凄い」「ずっと聴いていたい箱鳴り感」といった、感性に訴えかける評価です。
なぜ、Kiwi Earsは多機能化(スイッチ機能)を捨て、純粋な音質追求へと舵を切ったのか?
アイソバリック駆動が生み出す低音は、競合他社と何が違うのか?
そして、数ある3万円台のイヤホンの中で、あえてKE4を選ぶべき理由とは何なのか?
この記事では、オーディオ機器のレビューを数多く手がけ、数々のイヤホンを聴き比べてきた筆者が、Kiwi Ears KE4の実機を徹底的に使い込み、その音質の真価、装着感、ケーブルの取り回し、そして相性の良い周辺機器まで、徹底的に解説します。
スペックシートの数字だけでは決して伝わらない、KE4の「息づかい」を感じてください。
- Kiwi Ears 「KE4」の基本スペックと外観
- Kiwi Ears 「KE4」の音質徹底レビュー
- Kiwi Ears 「KE4」の競合モデルとの比較とポテンシャル
- Kiwi Ears 「KE4」を使用した私の体験談・レビュー
- Kiwi Ears 「KE4」に関するQ&A
- スマホ(iPhoneやAndroid)直挿しでも十分な音量で楽しめますか?
- FPSなどのゲーム用途(ゲーミングイヤホン)としても使えますか?
- 前作の「Quartet」を持っていますが、買い替える価値はありますか?
- 付属ケーブルが絡まりやすいと聞きましたが、本当ですか?
- おすすめの音楽ジャンルは何ですか?
- 耳が小さい人でも装着できますか?また「寝ホン」として使えますか?
- どんな音質のDAC(アンプ)と合わせるのがおすすめですか?
- SpotifyやYouTubeなどの圧縮音源でも、音の違いは分かりますか?
- 男性ボーカルと女性ボーカル、どちらが得意ですか?
- 高感度のイヤホン特有の「サーッ」というホワイトノイズは気になりますか?
- Kiwi Ears 「KE4」レビューのまとめ
Kiwi Ears 「KE4」の基本スペックと外観

まずは、KE4がどのような技術的背景を持って作られたイヤホンなのか、その基本スペックと外観のクオリティから紐解いていきましょう。
Kiwi Earsの製品は「見た目の美しさ」と「内部構造への執念」が両立している点が大きな特徴です。
2DD+2BAハイブリッド構成とアイソバリック駆動
KE4のサウンドクオリティを決定づけているのは、その内部に搭載された合計4基のドライバーと、それらを制御するクロスオーバーネットワークの巧みさです。
■ 低域の秘密兵器:アイソバリック・サブウーファー・システム
KE4の最大の特徴は、低域用に「10mm ダイナミックドライバー(DD)」を2基搭載している点ですが、単に2つ並べただけではありません。
これらは「アイソバリック駆動」**と呼ばれる特殊な配置で実装されています。
【専門解説:アイソバリック駆動とは?】
通常、ドライバーが振動して空気を押し出す際、筐体内の空気抵抗や位相のズレが歪み(ひずみ)の原因となります。
アイソバリック方式では、2つのドライバーを向かい合わせ、あるいは直列に配置し、電気的に同期させて駆動します。
これにより、ドライバー間の空気圧が一定(Iso = 等しい、baric = 気圧)に保たれ、コーンの動きを強力かつ正確に制御します。
結果として、コンパクトなイヤホン筐体でありながら、大型の据え置きスピーカーのような「制動の効いた(締まりのある)」かつ「超低域まで伸びる」重低音を実現できるのです。
■ 信頼のブランド:Knowles製BAドライバー
中高域には、業界標準とも言える信頼性の高いKnowles社製のバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを採用しています。
- 高域用: Knowles RAD-33518(超高域の伸びと解像感を担当)
- 中域用: Knowles RAB-32257(ボーカルの厚みと滑らかさを担当)
安価な中華イヤホンでは無名のBAドライバーが使われることも多い中、名門Knowlesのドライバーを指定して採用している点は、品質への自信の表れと言えるでしょう。
これらを「3ウェイ・パッシブ・クロスオーバー・システム」で精密に帯域分割し、各ドライバーが最も得意な音域だけを再生するようにチューニングされています。
■ 安定した駆動を実現するインピーダンス特性
本機のインピーダンスは28Ω、感度は102dBです。
特筆すべきは、KE4が「ソース機器(再生環境)の出力インピーダンスの影響を受けにくい」ように設計されている点です。
ハイブリッド型イヤホンは、接続するDAPやアンプによって周波数特性が大きく暴れてしまうことがありますが、KE4は独自の音響管設計と電気回路により、スマホ直挿しでも高級DAPでも、比較的安定して狙い通りの音が出るように調整されています。
これは初心者にとっても非常に扱いやすいポイントです。
医療用グレード樹脂を採用したシェルデザインと装着感
Kiwi Earsといえば、まるで宝石や海面を模したような美しいフェイスプレートデザインが魅力のブランドですが、KE4のデザインコンセプトは一転して「シック&モダン」です。
■ デザインの美学
フェイスプレートには、ヘアライン加工が施されたアルミニウム合金のような質感の金属プレートを採用。
そこには立体的かつ控えめに「Kiwi Ears」のロゴが配置されています。
光の当たり方で鈍く輝くシルバーは、派手さこそありませんが、所有欲を満たす重厚感があります。
ビジネスシーンやカフェで装着していても、ガジェットとしての主張が強すぎず、大人の道具としての気品を感じさせます。
■ 医療用樹脂と装着感
シェル(筐体)部分には、肌に優しく耐久性の高い「医療用グレードの樹脂(レジン)」を採用しています。
長時間の使用でもアレルギー反応などが起きにくく、汗や皮脂による変色にも強い素材です。
筐体サイズは、4ドライバー搭載機としては標準的ですが、耳の甲介(くぼみ)にピタリと収まるエルゴノミクスデザインが極めて秀逸です。
樹脂が充填された中実構造(ソリッドボディ)に近い設計のため、遮音性が非常に高く、装着した瞬間に周囲の喧騒がスッと遠のく「パッシブ・ノイズキャンセリング」効果を強く感じます。
重量は片側約6g程度と適度な重みがあり、これがかえって安定感を生んでいます。
パッケージ内容と付属品の品質チェック
開封体験や付属品の充実度も、この価格帯では重要な評価ポイントです。
KE4のパッケージングは、派手な装飾を排した実用重視の構成となっています。
| 付属品 | 詳細と評価 |
| イヤホン本体 | ハンドメイド仕上げによる継ぎ目のない美しいビルドクオリティ。 |
| ケーブル | 3.5mmステレオミニプラグ / 0.78mm 2pin仕様。高純度無酸素銅に銀メッキを施した線材を採用。被膜はダークブラウン系で高級感があります。 |
| イヤーピース | S/M/Lの3サイズ。シリコン製で、軸がしっかりしており、傘の部分には適度な弾力があります。標準的な品質ですが、耳への密閉性は高いタイプです。 |
| キャリーケース | 黒を基調としたファブリック素材のセミハードケース。内部にはメッシュポケットがあり、予備のイヤーピースなどを収納可能。コンパクトで持ち運びに便利です。 |
| 説明書・保証書 | 必要最低限のドキュメント類。 |
特筆すべき点:
パッケージ自体はモノクロ調で非常にシンプルです。
これは「箱にお金をかけるくらいなら、ドライバーとチューニングにコストをかける」というメーカーの姿勢の現れとも受け取れます。
ただし、後述しますが、ケーブルの取り回しについては賛否が分かれるポイントとなるでしょう。
Kiwi Ears 「KE4」の音質徹底レビュー

ここからは、実際のサウンドについて深掘りしていきます。
試聴環境は、FiiOのDAP「M11 Plus LTD」および、スティック型DACの「iBasso DC-Elite」を使用し、ハイレゾ音源(FLAC)とApple Musicのロスレス音源を用いて検証を行いました。
一聴して感じるのは、「モニターライクな正確な定位」と「リスニングライクな温かみ」が奇跡的に同居しているという点です。
サブウーファーシステムが描く深みのある低音域
KE4の最大の武器は、間違いなくアイソバリック2DDによる低音です。
しかし、誤解しないでいただきたいのは、これが「ドンドン」と頭を揺らすような、量だけで押し切る下品な低音ではないということです。
- 質感を伴う重低音:
ベースラインやキックドラムの音が、耳の鼓膜だけでなく、頭の低い位置から湧き上がってくるような感覚があります。
アイソバリック駆動の恩恵により、低音の「立ち上がり」と「立下り(止まり)」が非常に速く、音の輪郭が滲みません。 - サブベースの表現力:
特に素晴らしいのが、可聴域ギリギリの超低域(サブベース)の表現です。
映画のサントラやEDMのドロップ部分で、空気が震えるような重圧感を再現します。
ウッドベースの弦が震える「ブルン」という質感や、バスドラムの皮が振動する空気感までリアルに伝えてくれます。 - 中域への被りがない:
これだけ豊かな低音が出ているにもかかわらず、ボーカルなどの中音域をマスク(邪魔)しません。
これは、アイソバリック構成によって低域の周波数特性を物理的にコントロールできている証拠です。
ボーカルの生々しさと聞き疲れしない中高音域
低音が豊かであるにもかかわらず、中音域(ボーカル帯域)が埋もれていないのがKE4のチューニングの妙です。
- 絶妙な距離感と定位:
ボーカルは「目の前数センチで歌っている」というよりは、「数歩離れたステージの中央に立っている」ような定位感です。
この適度な距離感が、長時間聴いても圧迫感を感じさせない要因となっています。 - BAドライバーの「角」を取ったチューニング:
BAドライバー特有の「金属的な響き」や「カリカリとした硬さ」は見事に抑えられています。
Knowles製BAらしい、滑らかで艶のある音が鳴ります。
特に女性ボーカルの息遣いや、喉の震えのような微細なニュアンスが「生っぽく」伝わってきます。 - 刺さりのない高音:
シンバルやハイハットの金属音は、煌びやかさを残しつつも、耳に刺さる嫌なピーク(歯擦音)が丁寧に削ぎ落とされています。
「解像度は欲しいが、聴き疲れするのは嫌だ」というユーザーのわがままな要望に応えるバランスです。
独特な「箱鳴り感」が生み出す没入感と音場
複数のオーディオファンや有名レビュアーが指摘している、KE4ならではの最大の特徴。
それが「箱鳴り感(リバーブ感)」です。
通常、スピーカー再生においてキャビネットが共振する「箱鳴り」はネガティブな要素として扱われることが多いですが、イヤホンであるKE4においては、これが「意図的に作られた、心地よい残響」としてポジティブに機能しています。
- デッド(無響)ではなくライブ(響きあり):
スタジオの吸音材に囲まれた録音ブースのような完全な静寂(デッドな音)ではありません。
むしろ、少し反響のあるジャズクラブや、木造のコンサートホールで聴いているような、温かみのある余韻(ライブな音)を持っています。 - グルーヴ感の正体:
このわずかな余韻(残響)が、各楽器の音を有機的に繋ぎ合わせ、バラバラの音を「一つの楽曲」としてまとめ上げています。
音が鳴り止んだ瞬間の「フッ」と消えゆく余韻の美しさ。
これこそが、KE4を聴いた時に感じる「ノリの良さ」「グルーヴ感」の正体であり、リスナーを音楽の世界に引き込む没入感の源泉なのです。
ゲーミング性能とエージング効果について
音楽鑑賞だけでなく、エンタメ用途での実力についても触れておきましょう。
- ゲーミング(FPS)での使用:
結論から言うと、「方向定位は良いが、競技向けには少し響きすぎる」という印象です。
APEXやValorantなどのFPSにおいて、足音の方向(定位)は正確に掴めます。
しかし、KE4の特徴である「リッチな低音」と「残響感」が、爆発音などの環境音を大迫力で再生してしまうため、競技シーンで求められる「乾いた、必要な音だけ聞こえる」状態とは異なります。
逆に言えば、RPGやオープンワールドゲームでの「没入感」は最強クラスです。世界観に浸りたいソロプレイには最高の相棒となるでしょう。 - エージングの効果:
箱出し直後は、低音が少し暴れ気味で、高音とのつながりが硬く感じることがあるかもしれません。
筆者の個体では、約50時間の慣らし運転を行ったあたりで、低域のブーミーさが収束し、本来のタイトな質感へと変化しました。
購入直後に「あれ?」と思っても、数日は鳴らし込んでみることを推奨します。
Kiwi Ears 「KE4」の競合モデルとの比較とポテンシャル

3万円前後の価格帯には、各社の自信作とも言える名機が多数存在します。
KE4の立ち位置をより明確にするために、前作や強力なライバル機と詳細に比較してみましょう。
前作Quartetからの進化点とスイッチ廃止の理由
前作「Kiwi Ears Quartet」も同じ2DD+2BA構成でしたが、最大の違いは「チューニングスイッチの廃止」です。
| 項目 | 前作 Quartet | 今作 KE4 |
| 調整機能 | 背面スイッチで4種類の音質変更可 | スイッチなし(固定チューニング) |
| 高域の質 | 元気で少し粗さがある、派手め | 滑らかで洗練されたKnowles製サウンド |
| 低域の質 | 量感たっぷりだが少し緩め | アイソバリックによる制動の効いた深い低音 |
| 全体の印象 | 楽しいドンシャリサウンド | バランスの取れた大人のリスニング機 |
スイッチ廃止の意図:
スイッチ機能はユーザーにとって便利ですが、回路の複雑化による信号経路の劣化や、左右の位相ズレを招くリスクがあります。
KE4ではあえてスイッチを排除し、メーカーが「これが我々の考えるベストなバランスだ」と提示する一つの音に全力を注いでいます。
その結果、音の純度、左右の定位感、帯域のつながりの良さはQuartetを大きく上回りました。
THIEAUDIO Hype 2などライバル機との違い
このクラスで最も比較される対象は、同じくアイソバリック構造(Impact²)を持つTHIEAUDIO Hype 2でしょう。
- THIEAUDIO Hype 2:
非常にアタック感が強く、キレのある低音が特徴。「ドン!」というインパクト重視で、全体的に明瞭度が高く、現代的なポップスやアニソン、スピード感のある楽曲にマッチします。
やや寒色系のクールで分析的なサウンドです。 - Kiwi Ears KE4:
Hype 2に比べると、音の角が取れたウォーム(暖色)寄りのサウンドです。
スピード感や衝撃音よりも、音の広がり、雰囲気、余韻を楽しむことに長けています。
長時間聴いても聴き疲れしにくいのは圧倒的にKE4です。
選び分けの基準:
- 刺激と解像度、キレを重視するなら → Hype 2
- 雰囲気、余韻、聴き心地を重視するなら → KE4
同じKiwi Ears製品(Orchestra Lite / Quintet)との棲み分け
Kiwi Earsには他にも名機があります。
これらとの「共食い」は起きないのでしょうか?
- vs Orchestra Lite(8BA):
Orchestra Liteは8つのBAドライバーのみで構成されており、完全にフラットでモニターライクな音が特徴です。
低音の迫力よりも、中域の解像度とボーカルの近さを最優先するならOrchestra Liteです。
しかし、EDMや映画鑑賞も楽しみたいなら、DDを搭載しているKE4の方が万能です。 - vs Quintet(1DD+2BA+1Planar+1PZT):
Quintetは、マイクロプラナードライバーと圧電素子(PZT)由来の、非常に繊細で煌びやかな高音が特徴です。
よりテクニカルで分析的なサウンドですが、人によっては高域が強く感じることも。
対してKE4は、より自然で有機的な「ダイナミックドライバーらしさ」を大切にした音作りと言えます。
付属ケーブルの評価とリケーブルによる変化
ここで正直な評価をしなければなりません。
KE4のポテンシャルを100%引き出すには、リケーブル(ケーブル交換)を強くおすすめします。
- 付属ケーブルの弱点:
付属ケーブルは、音質自体は標準的ですが、被膜の素材が少しペタペタしており、摩擦が強いため非常に絡まりやすいです。
ポケットから出した時に知恵の輪状態になりやすく、またタッチノイズ(衣類と擦れる音)も多少気になります。 - リケーブルの効果:
KE4は「上流(再生環境)」の影響を受けやすい、素性の良いイヤホンです。
例えば、4.4mmバランス接続対応のケーブルに変更することで、左右の分離感が向上し、前述した「箱鳴り感」がより整理され、広大な音場へと変化します。- おすすめのケーブル素材: 純銅線よりも「銀メッキ銅線」や「銀線」との相性が良い傾向にあります。これらは高域の伸びを助け、KE4のウォームな低域に対して適度な締まりと輝きを与えてくれます。
- 具体例:NiceHCK、Tripowin Zonie、Yongseなどの3,000円〜5,000円クラスのケーブルでも劇的な変化を感じられます。
Kiwi Ears 「KE4」を使用した私の体験談・レビュー

実際に私がKiwi Ears KE4をメイン機として数週間、様々なシチュエーションで使い込んだリアルな体験談をお伝えします。
開封して感じた筐体の質感とデザインの第一印象
箱を開けた瞬間、「あ、これはいいモノだ」と直感しました。
中華イヤホン市場では、派手なラメや極彩色のアートワークを施したレジンシェルが多い中、KE4の金属フェイスプレートは異質なほどの「落ち着き」を放っています。
手に取ると、樹脂の充填率が高いためか、見た目よりも「塊感(かたまりかん)」があり、中身が詰まっていることを実感させます。
スーツやオフィスカジュアルに合わせても全く違和感がなく、「大人のガジェット」としての所有欲を満たしてくれました。
長時間の作業用として使ってみた快適性の検証
私は普段、執筆作業中にBGMとして音楽を聴き続けますが、KE4は「作業用イヤホン」として最強クラスだと感じました。
3時間ぶっ通しで装着していても、耳への物理的な痛みは皆無。何より音が「刺さらない」ので、聴覚上の疲労が驚くほど少ないのです。
解像度が高すぎるイヤホンは、細かな音が気になって作業に集中できないことがありますが、KE4は適度な残響感のおかげで音楽全体を包み込むように鳴らしてくれます。
「音楽に集中しすぎず、かといって聞き流すには高音質すぎる」という、実に贅沢な作業環境を作ることができました。
楽曲ジャンル別の相性チェックと得意な音楽
様々なジャンルのプレイリストを再生し、KE4との相性をチェックしました。
- ◎ ジャズ・クラシック(小編成・室内楽):
最高です。
ウッドベースの沈み込みと、ピアノの残響が美しく響きます。
特にライブ録音のアルバムでは、観客の拍手やグラスの当たる音までリアルに感じられ、KE4の「箱鳴り感」がプラスに働きます。 - ◎ R&B・ローファイヒップホップ・シティポップ:
グルーヴ感が活きます。
ビートの重さとボーカルの甘さがマッチし、夜のドライブで聴きたくなるようなエモーショナルなサウンドになります。 - ◎ 昭和歌謡・バラード:
ボーカルの生々しさが、古いアナログ録音の温かみを引き立てます。
中森明菜や松任谷由実などの楽曲とは抜群の相性を見せました。 - △ 高速BPMのアニソン・スピードメタル:
決して悪くはないのですが、BPM200を超えるような楽曲では、豊かな残響感がわずかに邪魔をして、音の粒立ちが甘く感じる(キレが足りない)瞬間がありました。
カミソリのようなキレを求めるなら、Hype 2や平面駆動型のイヤホンの方が幸せになれるかもしれません。
外出先での使い勝手と遮音性・音漏れの確認
電車での通勤時にも使用しました。
ノイズキャンセリング機能はありませんが、筐体の遮音性が高いため、音楽を再生すれば電車の走行音やアナウンスはほとんど気になりません。
また、アイソバリック駆動のためのベント(通気孔)がありますが、音漏れについても確認しました。
静かな図書館レベルの場所でiPhoneの音量50%程度で再生し、隣の人に確認してもらいましたが、「全く聞こえない」とのことでした。
常識的な音量であれば、公共の場でも安心して使用できます。
実際に運用して気になったケーブルの取り回し
やはり運用面で唯一気になったのはケーブルです。
音質は良いのですが、素材のコシが強く、ポケットから取り出すたびにクルクルと巻かれて絡まっており、ほどくのに数秒かかるストレスがありました。
私は使用開始3日目で、手持ちの社外製ケーブル(しなやかな素材のもの)に交換しました。
リケーブル後は取り回しのストレスが完全に解消され、さらに4.4mmバランス接続にしたことで音の見通しも良くなったため、予算に余裕がある方は同時購入を検討することを強くおすすめします。
さらなる音質向上へ:イヤーピースとDACのおすすめ設定
最後に、KE4の能力を極限まで引き出すための「ちょい足し」レシピを紹介します。
- おすすめのイヤーピース: 標準のイヤーピースも優秀ですが、以下のものに変えるとさらに化けます。
- AZLA SednaEarfit MAX: 医療用シリコンで痒くなりにくく、高域のクリアさが向上します。
- SpinFit W1: 低域の締まりが良くなり、装着感がさらに軽くなります。
- Divinus Velvet: 表面がサラサラしており、KE4のウォームな音質を少し引き締め、バランスを整えてくれます。
- おすすめのDAC(ドングルDAC): KE4はスマホ直挿しでも鳴りますが、駆動力のあるDACを使うと低音の「止まり」が良くなります。
- Kiwi Ears Allegro Mini: 同ブランドのエントリーDAC。コストを抑えつつKE4にパワーを与えたい場合に最適です。
- iBasso DC07PRO / FiiO KA17: パワーのあるDACを使うと、KE4の空間表現が横方向に一気に広がります。予算が許すならこのクラスを推奨します。
体験談の総括
KE4は、一聴して「うわっ、すごい高音質!」と派手なインパクトを与えるタイプではありません。
しかし、「気づけばこればかり使っている」というスルメのような魅力を持つイヤホンでした。
特に、夜に部屋の明かりを落として、ゆったりとお酒やコーヒーを飲みながら音楽に没頭する時間は、何物にも代えがたいリラックスタイムとなりました。
分析的に音を聴くのではなく、音楽そのものの雰囲気を楽しむ。この「雰囲気作り」の上手さが、KE4最大の価値だと感じています。
Kiwi Ears 「KE4」に関するQ&A

Kiwi Ears 「KE4」に関してよく聞かれそうな質問とその回答をまとめました
スマホ(iPhoneやAndroid)直挿しでも十分な音量で楽しめますか?
はい、問題なく楽しめます。
KE4のインピーダンスは28Ω、感度は102dBと、比較的鳴らしやすいスペックに設計されています。一般的なスマートフォンやPCのイヤホンジャック、またはApple純正の変換アダプタ等でも十分な音量が取れます。 ただし、KE4の真価である「アイソバリック駆動による低音の締まり」や「広大な音場」を最大限に引き出すためには、数千円〜1万円クラスのドングルDAC(スティック型DAC)の併用を強くおすすめします。
FPSなどのゲーム用途(ゲーミングイヤホン)としても使えますか?
ソロプレイやRPGには最適ですが、競技性の高いFPSには好みが分かれます。
定位感(音の方向)は正確ですが、KE4特有の「豊かな低音」と「残響感」があるため、爆発音などの迫力が増す一方で、足音などの微細な情報がわずかにマスクされる可能性があります。 「没入感」を重視するオープンワールドやRPGには最高ですが、コンマ1秒を争う競技シーンでは、よりドライな音質のイヤホンの方が有利かもしれません。
前作の「Quartet」を持っていますが、買い替える価値はありますか?
はい、明確なアップグレードを感じられます。
Quartetの「スイッチによる音変え機能」はなくなりましたが、その分、クロスオーバー回路の最適化やKnowles製BAの採用により、音の純度、分離感、低域の質感が大幅に向上しています。「元気なドンシャリ」から「洗練された大人のリスニングサウンド」へ進化しているため、より上質な音を求めるなら買い替えの価値は十分にあります。
付属ケーブルが絡まりやすいと聞きましたが、本当ですか?
正直なところ、絡まりやすいです。
付属ケーブルは音質面では優秀ですが、被膜の摩擦が強く、ポケットに入れると絡まりやすい傾向があります。ストレスなく運用したい場合や、音質のさらなる向上(バランス接続など)を狙う場合は、3,000円〜5,000円程度の社外製ケーブルへのリケーブル(ケーブル交換)をおすすめします。コネクタは一般的な「0.78mm 2pin」規格です。
おすすめの音楽ジャンルは何ですか?
ジャズ、R&B、バラード、インストゥルメンタルなどが特におすすめです。
「箱鳴り感」と「ボーカルの艶」が特徴的なので、生楽器の演奏や、雰囲気のある楽曲との相性が抜群です。一方で、BPMが極端に速いスピードメタルや、音数が詰め込まれたハードコアテクノなどは、少し音がゆったりとして聞こえるため、好みが分かれるかもしれません。
耳が小さい人でも装着できますか?また「寝ホン」として使えますか?
装着感は良いですが、筐体に厚みがあるため「寝ホン」には向きません。
人間工学に基づいたデザインなので、女性や耳が小さめの方でも比較的フィットしやすい形状です。ただし、4つのドライバーとアイソバリック構造を内蔵しているため、筐体にはそれなりの「厚み」があります。 装着したまま横になると耳が圧迫されて痛くなる可能性が高いため、睡眠用(寝ホン)としての使用は推奨しません。
どんな音質のDAC(アンプ)と合わせるのがおすすめですか?
「ニュートラル」または「寒色系(クリア寄り)」のDACと相性が良いです。
KE4自体が低音豊かでウォーム(暖色)寄りのチューニングですので、組み合わせるDACもウォーム系だと、全体的に音が濃くなりすぎて暑苦しく感じる場合があります。 ESS社製のチップを搭載したDACや、FiiO製品のように解像度が高くクッキリとした音質の機材と組み合わせると、KE4の豊かな低音に適度な締まりが生まれ、全体のバランスが整いやすくなります。
SpotifyやYouTubeなどの圧縮音源でも、音の違いは分かりますか?
はい、十分に違いを実感できます。
KE4は「解像度だけで勝負するイヤホン」ではなく「音楽の雰囲気を作るイヤホン」です。そのため、超高解像度なハイレゾ音源でなくても、YouTubeやSpotify、Apple Musicなどのストリーミング音源が持つグルーヴ感や楽しさをしっかりと引き出してくれます。 もちろんロスレス音源の方が微細な表現は向上しますが、「良い音源じゃないと楽しめない」という神経質なイヤホンではないのでご安心ください。
男性ボーカルと女性ボーカル、どちらが得意ですか?
どちらも高水準ですが、特に「男性ボーカル」の色気は格別です。
中低域に厚みがあるため、男性ボーカルの低い声の響きや胸の共鳴音が非常にリアルに再現されます。ロックバンドやR&Bシンガーの声に力強さを感じられるでしょう。 もちろん、Knowles製BAのおかげで女性ボーカルもクリアですが、キンキンとした突き抜けるような高音(ハイトーンボイス)よりも、宇多田ヒカルやAimerのような、少しハスキーで深みのある女性ボーカルとの相性が抜群です。
高感度のイヤホン特有の「サーッ」というホワイトノイズは気になりますか?
比較的気になりにくい設計です。
感度が高すぎるイヤホン(例:Campfire Audioの一部モデルなど)は、PCや安価なアダプタに繋ぐと無音時に「サーッ」というノイズを拾いやすいですが、KE4の感度は102dBと標準的です。 一般的な再生環境であればホワイトノイズはほとんど気になりません。もしノイズが聞こえる場合は、イヤホンではなく再生機器側(アンプや変換アダプタ)の品質に問題がある可能性が高いです。
Kiwi Ears 「KE4」レビューのまとめ

Kiwi Ears KE4について、スペック、音質、競合比較、そして実際の体験談まで、あらゆる角度から検証してきました。最後に、購入を迷っている方に向けて結論をまとめます。
KE4のサウンドクオリティに関する総評
- 唯一無二の低音: アイソバリック2DDによる、深く、かつ制動の効いた上質な低音表現。サブベースの振動まで感じられます。
- 滑らかな中高音: Knowles製BAによる、不快なピークのないクリアで艶のあるボーカルと高音。
- 魔法の残響感: 適度な「箱鳴り感」がもたらす、ライブ会場のような心地よい没入感とグルーヴ。
装着感とビルドクオリティの満足度
- 高い快適性: 医療用樹脂による快適なフィット感と、物理的に騒音をカットする高い遮音性。
- 大人なデザイン: シンプルかつ高級感のある金属フェイスプレートは、所有する喜びを与えてくれます。
- 要改善点: 付属ケーブルは音質こそ良いものの、絡まりやすく取り回しには難あり。リケーブル前提での運用がベターです。
購入をおすすめできるユーザーの条件
このイヤホンは、以下のような方に強くおすすめできます。
- 「音の分析」よりも「音楽鑑賞」そのものを楽しみたい方。
- ジャズ、R&B、バラード、アコースティック、サントラをよく聴く方。
- 長時間聴いていても疲れない、作業用やリラックス用の高音質イヤホンを探している方。
- 昨今の「高解像度・カリカリサウンド」に疲れ、少し大人なウォームチューニングを求めている方。
- 初めての「3万円クラス」のイヤホンで、失敗したくない方。
購入を見送るべきユーザーの条件
逆に、以下のような方にはベストマッチしない可能性があります。
- 音の立ち上がり・立下りの速さ(キレ)を最優先する方。
- BPMの速い楽曲で、一音一音を分離して分析的に聴きたい方。
- 寒色系の、突き抜けるような高音(キラキラ感)が絶対に必要な方。
- 付属ケーブルだけで完璧な運用を求めており、リケーブルをする予定が一切ない方。
3万円以下の価格帯におけるコストパフォーマンス
3万円という価格は決して安くはありません。
しかし、搭載されている技術(アイソバリック駆動、Knowles製BA、医療用樹脂シェル)と、その完成されたサウンドチューニングを考慮すれば、コストパフォーマンスは「極めて高い」と断言できます。
同価格帯のイヤホンと比較しても、「音楽的な表現力」や「没入感」という点において、KE4は頭一つ抜けた存在です。
もし有名メーカーが同じ構成で作れば、5万円以上してもおかしくないクオリティです。
Kiwi Ears KE4レビューの最終結論
Kiwi Ears KE4は、スペック競争が激化するミドルクラス市場において、音楽への「没入感」という独自の価値を提示する傑作です。
アイソバリック駆動による深く沈み込む低音と、Knowles製ドライバーの滑らかな中高音が生み出すサウンドは、音を分析的に聴くことよりも、楽曲の世界観そのものを味わうことに特化しています。
スイッチ機構を廃止してまで追求したその音は、まるでジャズクラブの特等席にいるかのような心地よい余韻とグルーヴ感を与えてくれます。
医療用グレード樹脂による優れた装着感や美しいビルドクオリティも含め、3万円台という価格を大きく超える満足感がここにはあります。
昨今の「高解像度で聴き疲れする音」に少し疲れてしまった方や、夜のリラックスタイムをより豊かに彩りたい方にとって、Kiwi Ears KE4は間違いなく最良のパートナーとなるでしょう。


