ゼンハイザーが2024年に発表した「HD 620S」は、同社の伝統的なHDシリーズの中でも特に注目を集めているモデルです。
これまで「HD 600」や「HD 660S2」など、開放型ヘッドホンの名機を数多く生み出してきたゼンハイザーが、初めて本格的に“密閉型でHDらしい音”を実現しようとした挑戦的な一台になります。
外部の騒音を抑えつつ、開放型のような広がりと透明感を両立したサウンドは、多くのオーディオファンの間で話題となりました。
「HD 620S」は、HD 600シリーズの設計思想を受け継ぎながら、密閉型として新たな価値を提示しています。
中域の正確さとナチュラルなトーンバランスはそのままに、音のこもりを感じさせない自然な響きを追求。
価格帯はおよそ6万円前後で、「HD 600」や「HD 660S2」と並ぶ中〜上位クラスに位置づけられています。
まさに「開放型のHDサウンドを外でも楽しめる」モデルといえるでしょう。
この記事では、「HD 620S」 のデザインや装着感、音質傾向、そして「HD 600」・「HD 660S2」との比較を通して、実際の使用感を詳しくお伝えします。
筆者自身が長年HDシリーズを愛用してきた経験をもとに、密閉型ならではの違いを丁寧に検証していきます。
「HD 620S」の購入を検討している方や、HDシリーズの次なる選択肢を探している方にとって、この記事が少しでも参考になれば幸いです。
- Sennheiser 「HD 620S」のデザインと装着感
- Sennheiser 「HD 620S」の音質レビュー
- Sennheiser 「HD 620S」の比較と相性機材の考察
- Sennheiser 「HD 620S」を使用した私の体験談・レビュー
- Sennheiser 「HD 620S」に関するQ&A
- 「HD 620S」は開放型「HD 600」や「HD 660S2」と比べて音質は劣りますか?
- 密閉型なのに“開放的な音”といわれるのはなぜですか?
- 駆動力のあるアンプは必要ですか?
- 長時間使用しても疲れませんか?
- 音漏れや遮音性はどの程度ありますか?
- どんな音楽ジャンルに向いていますか?
- リスニング用途とモニター用途、どちらに向いていますか?
- ハイレゾ音源との相性はどうですか?
- 「HD 620S」はゲームや映画にも向いていますか?
- 音楽制作(ミックス・マスタリング)にも使えますか?
- 「HD 620S」は「HD 560S」からのアップグレードとして価値がありますか?
- 同価格帯(約6~7万円)の他社製ヘッドホンと比べてどうですか?
- Sennheiser 「HD 620S」レビューのまとめ
Sennheiser 「HD 620S」のデザインと装着感

メタリック基調の質感と造形 ― “密閉型HD”らしい佇まい
「HD 620S」の第一印象は、HDシリーズらしい落ち着いたトーンを保ちながらも、メタリック調のアクセントで“道具としての精密さ”を感じさせる点です。
光沢を抑えたフェイスプレートは指紋が目立ちにくく、日常使いでも扱いやすい仕上げです。
フレームやハウジングの継ぎ目は丁寧で、触れたときのガタつきが少なく、上下方向のスライダーも適度なクリック感があり長期使用に耐える堅牢性を感じます。
密閉型としてはハウジングが厚すぎず、側面のボリュームを控えた設計のため、装着時の“ヘッドセット感”が出にくいのも好印象です。
机上に置いたときも自立しやすく、イヤーパッドが接地しにくいのでパッドの早期摩耗を防ぎやすい構造です。
良かった点
- 落ち着いたメタリック調で、生活空間に馴染むデザイン
- スライダー可動部の遊びが少なく、サイズ調整がしやすい
- ハウジングの厚みを抑え、密閉型でも野暮ったく見えにくい
気になり得る点
- 金属調パーツは微細な擦り傷がつくと反射で目立ちやすい
- マット仕上げゆえ、乾燥した手だとやや滑りやすく感じる場面がある
クランプ圧・イヤーパッド・ヘッドバンドの当たり
装着感の印象を大きく左右する要素がクランプ圧(側圧)とパッドの当たりです。
「HD 620S」は“強すぎない適正圧”に設定されており、頬骨から耳の後ろにかけて均一にホールドします。
密閉型によくある“こめかみ集中型の圧迫”が出にくく、メガネ使用時もフレームと干渉しにくいのが特徴です。
イヤーパッドは適度な反発感があり、押し返しは柔らかめ。耳たぶがパッド内に収まりやすく、耳介の上側だけが触れて痛くなるといった偏ったストレスが起こりにくい形状です。
ヘッドバンドは中央の荷重を分散する構造で、頭頂部への一点集中を回避。
長時間リスニングでも“上から押されている感覚”が生じにくいバランスです。
フィット調整のコツ
- スライダーは1クリックずつ合わせ、左右の段差を作らない
- 眼鏡ユーザーはフレームをやや上げ気味に固定すると干渉が減る
- 新品パッドは数日で“沈み込み”が落ち着くため、初期はやや強めに感じても自然に馴染みやすい
想定される装着の相性
| 項目 | 体感の傾向 | コメント |
|---|---|---|
| メガネ併用 | 相性◎ | フレームとパッドの接触が分散しやすい |
| 小さめの頭囲 | 良好 | 最小付近でもホールドは保たれやすい |
| 大きめの頭囲 | 良好〜要調整 | 側圧は強すぎず、スライダー拡張で対応しやすい |
| 長髪・帽子 | 良好 | バンドの滑りは少なく、位置決めしやすい |
長時間リスニングの快適性と密閉型ならではの配慮
密閉型は“熱のこもり”や“ムレ”が課題になりがちですが、「HD 620S」はパッド内部の空間設計と通気のさじ加減がうまく、密閉感を保ちながらも過度な蒸れを感じにくいバランスです。
耳の前方〜上方にわずかに余裕があり、鼓膜方向へ直接圧をかけないため、音量を上げても疲れにくい印象です。
また、ハウジングが頬骨に近い部分で大きく張り出さないので、首の左右回旋時に肩と干渉しにくい点も実用的です。
デスクワーク中の装着・外しを繰り返しても位置決めが崩れにくく、取り回しのストレスが少ないモデルです。
長時間使用の所感(シーン別)
- 在宅ワーク:キータッチ音や室内ノイズをほどよく遮断し、集中を保ちやすい。
- 夜間リスニング:音漏れを抑えつつ、開放型的な広がりを味わいやすい。
- クリエイティブ作業:パッドの圧が均一で、耳周りの疲労蓄積が緩やか。モニター寄りの姿勢でもズレにくい。
メンテナンスのポイント
- イヤーパッドは汗・皮脂が気になる環境では定期拭き取りを。
- 収納時はハウジング同士を強く押し付けない(パッドの偏摩耗を防ぐため)。
- パッドが潰れて密閉が甘くなったら早めの交換で音質と装着感の両立を維持できます。
「HD 620S」は、密閉型としての遮音性とHDシリーズらしい上品な意匠を両立し、装着時のホールド感を“面”で支えるバランスの良さが光ります。
側圧は適正でメガネ併用にも配慮が行き届き、長時間リスニングでも局所的な痛みや蒸れを抑えやすい設計です。
“密閉型の実用性”と“開放型の快適さ”の橋渡しを、装着面でもしっかり体現していると言えるでしょう。
Sennheiser 「HD 620S」の音質レビュー

低音:密閉型らしい量感と制動のバランス
「HD 620S」の低域は、密閉型らしい“土台の厚み”を確保しつつ、過剰な膨らみを抑えたチューニングです。
キックの立ち上がりは俊敏で、余韻の減衰は早め。ベースはミッドベース中心に張りが出ますが、音階の上下が追いやすく、曲の推進力を損ないません。
結果として、ビートの輪郭が滲まず、テンポの速い曲でもブーミーになりにくい印象です。
- 量感:必要十分で誇張は控えめ。厚みよりも“締まり”を重視します。
- 制動:アタック→減衰の切り替えが素直で、タイトな質感を保ちます。
- 沈み込み:超低域の“床鳴り”は控えめ、音楽的なスピード感を優先します。
ロックやジャズ、シティポップなど、リズムが前に出るジャンルで相性がよく、据え置きアンプで駆動力を上げるとベースの芯が太くなり、ドラムの一打一打に“張り”が増して気持ちよく鳴らせます。
中音:ボーカルの距離感と情報量の多さ
中域はHDシリーズの美点であるニュートラルさを踏襲し、声の質感と楽器の重なりを自然に描き分けます。
ボーカルの距離感は“やや近め〜ちょうど”の中庸で、センター定位が安定。
子音の立ち上がりから母音の膨らみまで滑らかに繋がるため、サビで音数が増えても歌が伴奏に埋もれにくいです。
- ボーカル表現:ブレスや唇のタッチが情報として現れますが、刺さりは抑制されます。
- 和声の見通し:コーラスの人数感や重なりが把握しやすく、主旋律が崩れません。
- 長時間リスニング:中域に過度な艶付けがなく、耳当たりが穏やかです。
録音の粗さを無理に強調せず、情報量と聴きやすさのバランスをうまく保つため、ジャンルを選ばず楽しめます。
密閉型由来のS/Nの良さも、中域の解像感を後押しします。
高音:開放感を保ちつつも刺さりにくいチューニング
高域は見通しが良く、倍音が自然に伸びます。
シンバルやストリングスの金属感は質感として現れますが、エッジが尖って耳に痛く刺さるピークは控えめです。
音量を上げても高域だけが先走らず、帯域間のバランスを崩しにくいのが特徴です。
- ハイハット:粒立ちが細かく、左右の揺れが追いやすいです。
- シンバル:減衰尾がスッと消え、ギラつきが残りません。
- ストリングス:擦過音にほのかな艶を乗せつつ、神経質にならない描写です。
結果として、“開放感のある上側の抜け”と“長時間でも疲れにくい穏やかさ”を両立しています。
録音の良い音源では空間の空気が見えるような透明感が出やすく、ラフな音源でも角が取れて聴きやすくなります。
Sennheiser 「HD 620S」の比較と相性機材の考察

出典:Sennheiser公式
「HD 660S2」・「HD 600」との比較
「密閉でHDらしさ」をどこまで再現できているか――ここが「HD 620S」を選ぶ最大の論点です。
開放型2機(HD 600/HD 660S2)と比べたときの“聴こえ方の違い”を、実使用の視点で整理します。
| 観点 | HD 620S(密閉) | HD 600(開放) | HD 660S2(開放) |
|---|---|---|---|
| 音のキャラクター | 中域を軸に、輪郭が明瞭。低域はタイト寄りでスピード感 | 原音忠実・中域の自然さ。空気感の出方が最もナチュラル | HD600より力感と厚み。輪郭はややくっきり |
| 音場・定位 | “密閉としては広め”。像のフォーカスが近距離で合う | 見晴らしが良く遠景が自然。像はやや滲ませて空気を演出 | 広さは十分、密度感と押し出しが増す |
| 低域 | 膨らまず量感は必要十分。制動が良くビートが速い | 量は控えめで質感勝負。タイト | 量感と厚みが増す。腰のある鳴り |
| 中域(ボーカル) | やや近め〜標準。センター定位が安定 | 標準的距離。声色の自然さで抜群に聴きやすい | やや前め。厚みと熱量が出る |
| 高域 | 見通し良いが刺激は控えめ。長時間でも疲れにくい | 伸びが自然で空気に溶ける | 伸びつつ輪郭も強調されやすい |
| 遮音・音漏れ | 遮音○/漏れ△(密閉の利点) | 遮音×/漏れ× | 遮音×/漏れ× |
| 総評 | S/Nの良さ+HD系の自然さで“日常の可搬リファレンス” | 自宅で集中して“作品の素顔”を楽しむ定番 | 力感・厚みを好むなら第一候補。ロックやポップスと好相性 |
- 自宅専用で静かな環境→「空気の見晴らし」を最優先ならHD 600
- リスニングに厚み・熱量・力感が欲しい→HD 660S2
- 家でも外でも/環境ノイズ下でも安定して解像と定位を確保→HD 620S
「HD 620S」に合うアンプ・DAC
「HD 620S」は直挿しでも鳴らせるが、駆動力のあるアンプで“低域の張り”“音場の見通し”が一段伸びるタイプです。
出力インピーダンスが低い(≒ダンピングが効く)機器ほど、「620S」のタイトなベースとクリアな見通しが活きます。
組み合わせ方の指針
- ポータブル(ドングル/DAP)
- 直挿し:軽快でスピード感の良い鳴り。通勤・カフェ用途に十分。
- 余力ありのドングル:低域の芯が太くなり、ハイの伸びが自然に。
- 据え置きアンプ
- クリーン系(透明感・線の細さ<見通し重視):音場の整理と定位の安定が向上。
- 少しウォームな出音:中域の肉付きが増し、ボーカルの存在感が一歩前に。
相性の良い音作り(傾向別)
- ニュートラル直球:クリーンなDAC+低出力インピーダンスのアンプ
→ HD 620Sの“密閉でも見通せる高域”と“ボーカルの位置決め”が素直に出る - リスニング寄り(厚み追加):ほんのり温度感のあるアンプ
→ 低域に“面の張り”が足され、音量小さめでも満足度が上がる - モニター寄り:解像・分離志向のDAC
→ ソースの違い・ミックスの差分が聴き取りやすくなる
セッティングTips
- ゲインは“必要なだけ”。過剰ゲインは高域が強く出て疲れやすくなります。
- 出力インピーダンスは低めを推奨(制動が効き、低域がタイトに)。
- ケーブルは取り回しとタッチノイズの少なさを優先(音色目的の過度な“盛り”は不要)。
用途別おすすめシーン(自宅・外出・モニター)
密閉型の利点(遮音・S/N)を活かせる場面では、「HD 620S」は開放型よりもコンディションに左右されにくい“安定解”になりやすいです。
1) 自宅リスニング(夜間・家族同居)
- 向いている理由:音漏れを抑えつつ、開放型に近い広がりを味わえる。
- セッティング:据え置きアンプで軽くドライブ。小音量でも音像が痩せにくい。
- 曲との相性:ボーカル物、アコースティック、シティポップ、ジャズ。
2) 在宅ワーク/作業BGM
- 向いている理由:キータッチ音や室内ノイズをほどよく遮断、集中しやすい。
- セッティング:ドングル直挿しで十分。長時間装着でも圧迫・熱が出にくい。
- 注意:通話用途ではサイドトーンがないため、声量が大きくなりすぎないよう配慮。
3) モニター用途(DTM/配信チェック)
- 向いている理由:密閉でS/Nが良く、定位が動かない。低域の余韻が暴れにくい。
- セッティング:クリーン系DAC+ローZ出力のヘッドホンアンプ。
- 狙い:エディットの“切り目”やコンプの効き具合が追いやすい。
4) 外出・コワーキング
- 向いている理由:遮音○・音漏れ△で周囲に配慮できる。
- セッティング:軽量ドングル or DAP。音量は小さめスタートで。
- 注意:完全密閉ではないため、公共交通機関では音量上げすぎに注意。
5) 映像・ゲーム
- 向いている理由:センター定位が安定し、セリフの明瞭度が高い。SEの定位も掴みやすい。
- セッティング:低遅延の有線接続。DACのバーチャルサラウンドは薄めが無難。
Sennheiser 「HD 620S」を使用した私の体験談・レビュー

購入のきっかけと初印象
「HD 620S」を購入したきっかけは、「開放型HDの自然さを残しつつ、外部ノイズを抑えて集中したい」という思いからでした。
「HD 600」や「HD 660S2」のような開放型は音の抜けが素晴らしい反面、在宅ワークや夜間リスニングでは周囲への音漏れや外部騒音の影響が気になっていました。
そこで「密閉でもHDらしい音」という「HD 620S」のコンセプトに惹かれ、試してみることにしました。
実際に聴いた第一印象は、「密閉の静けさの中で、HDシリーズ特有の自然な音の流れがしっかり息づいている」というものでした。
音の抜けは控えめながら、低域の締まりと中高域の透明感が印象的で、小音量でも十分に情報量が感じられます。
静かな環境で集中して聴くと、音楽の細部がしっかりと浮かび上がり、密閉型にありがちな“音の詰まり”をほとんど感じませんでした。
試聴環境とリスニングスタイル
「HD 620S」は主に3つの環境で使用しています。
| シーン | 機材構成 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 在宅ワーク | USB-DACドングル+ノートPC | 室内ノイズ下での集中と疲労軽減 |
| 夜間リスニング | 据え置きDAC+アンプ | 小音量での音像・余韻のチェック |
| 制作チェック | 透明志向DAC+ローZアンプ | 定位とコンプのかかり具合確認 |
特に夜間では、小音量でも音場の立体感が失われず、家族への音漏れを気にせず楽しめる点が非常に便利です。
また、在宅ワーク時もS/N比が高いため、BGMを流していても自然に集中できました。
長期使用で感じた魅力
数週間使い込んで感じたのは、「どんなシーンでも破綻しない安定感」です。
低音の量感が過剰でなく、ボーカルの定位が安定しているため、どんなジャンルでも心地よく聴けます。
また、長時間装着しても側圧の不快感が少なく、メガネをかけていてもストレスを感じません。
特に気に入ったのは、小音量時の情報量の多さと、中域のナチュラルな響きです。
声の厚みや息遣いのリアリティがしっかり伝わり、夜の静かな時間に聴くボーカル曲では、開放型とはまた違う“親密な空気感”を楽しめます。
弱点と気になった部分
完璧なヘッドホンというわけではなく、「HD 620S」にもいくつかの課題があります。
まず、超低域の沈み込みは控えめで、映画やEDMで“空気が震えるような重低音”を求める人には物足りないかもしれません。
また、音場の遠近感では開放型の「HD 600」や「HD 660S2」が一歩上で、広がりの“抜け切る感覚”はやや抑えめです。
加えて、駆動力の低いポータブル環境では中低域がやや軽く感じられます。
駆動力のあるアンプを使うことで音場と低域の張りが改善されるため、機材次第で真価が変わるヘッドホンといえます。
開放型との使い分けと変化
「HD 620S」を導入して最も感じた変化は、環境に左右されず安定して聴けることでした。
開放型では、周囲の環境音で微細な表現が掻き消されたり、音量を上げざるを得ない場面がありましたが、「HD 620S」は小音量でも明瞭さが保たれます。
開放型に戻すと“音が空気に溶ける感覚”に魅力を感じますが、密閉型の「HD 620S」には「どんな状況でも同じ音を聴ける信頼感」があります。
特に在宅ワークや夜間のリスニングでは、開放型を使う頻度が激減し、自然と「HD 620S」がメイン機になりました。
ジャンル別で感じた音の傾向
| ジャンル | 印象 |
|---|---|
| ポップス・J-POP | ボーカルの輪郭が明瞭で、ハーモニーも聴き分けやすい。 |
| ジャズ・アコースティック | ピアノの余韻がきれいに伸び、ブラシやハイハットの粒立ちが滑らか。 |
| ロック・バンド系 | キックの締まりとベースのリズムが合い、グルーヴが明快。 |
| クラシック | 弦楽器の定位が安定しており、密閉でも窮屈さが少ない。 |
| エレクトロ・EDM | 解像感は高いが、超低域の量感はやや抑えめ。スピード感で聴かせるタイプ。 |
ジャンルを選ばずバランスが良いため、メインリスニング機として非常に扱いやすく感じます。
体験談のまとめ ― 実用性と音楽性を両立した“日常のリファレンス”
「HD 620S」は、開放型HDシリーズの自然さを守りつつ、密閉型の実用性を高い次元で融合したモデルだと感じます。
静かな環境ではもちろん、ノイズがある場所でも音の安定感が変わらず、小音量でも音楽の深みを味わえます。
長期的に使うほど“信頼できる相棒”としての存在感が増していくヘッドホンです。開放型の魅力を知るリスナーが、より現実的な環境で“HDサウンド”を楽しみたいとき、「HD 620S」は間違いなく最有力の選択肢になるでしょう。
Sennheiser 「HD 620S」に関するQ&A

ここでは、Sennheiser 「HD 620S」に関してよく聞かれそうな質問とその回答をまとめます。
購入を検討している方や、すでに所有している方の参考になれば幸いです。
「HD 620S」は開放型「HD 600」や「HD 660S2」と比べて音質は劣りますか?
いいえ、性格が異なるだけで「劣る」というより目的が違うモデルです。「HD 600」や「HD 660S2」は開放型ならではの広がりと空気感が強みですが、「HD 620S」は密閉型でありながらそれに近い自然さを保ち、S/Nの良さや定位の安定感に優れています。小音量リスニングや外部ノイズ下での使用なら、むしろ「HD 620S」のほうが快適に感じられるでしょう。
密閉型なのに“開放的な音”といわれるのはなぜですか?
「HD 620S」は、ゼンハイザー独自のアコースティック・バッフル構造を採用しています。これにより密閉構造ながら音の抜けや残響の広がりが自然で、こもりの少ないチューニングになっています。完全な開放感ではないものの、閉塞感が非常に少なく「密閉なのに自然に聴こえる」と評価されています。
駆動力のあるアンプは必要ですか?
必須ではありませんが、アンプの質で音の完成度が大きく変わるタイプです。スマホ直挿しやドングルでも鳴らせますが、据え置きアンプや駆動力のあるDAPを使うと、低域の張りと音場の見通しが明確に向上します。特に「HD 660S2」系と同じくインピーダンスが150Ωとやや高いため、十分な出力を持つ機材を用意するのが理想です。
長時間使用しても疲れませんか?
「HD 620S」は側圧が強すぎず、イヤーパッドの反発も柔らかめで、長時間でも疲れにくい設計です。メガネをかけた状態でも痛点が出にくく、熱のこもりも少ないため、在宅ワークや夜間リスニングでも快適です。
音漏れや遮音性はどの程度ありますか?
完全な密閉ではありませんが、日常の環境音は十分にカットできます。外への音漏れも開放型に比べて格段に少なく、夜間でも家族に気を遣わず使用可能です。ただし公共交通機関など“完全静音”が必要な場所では、少量の音漏れが発生することがあります。
どんな音楽ジャンルに向いていますか?
「HD 620S」はジャンルを選ばない万能型ですが、特に相性が良いのはボーカル物やアコースティック系です。
中域の見通しが良く、声のニュアンスが繊細に伝わるため、ポップス・ジャズ・R&Bなどでは非常に心地よく聴けます。一方、EDMや映画のように「体で感じる低音」を求める場合は、低域特化型モデルのほうが迫力を得やすいでしょう。
リスニング用途とモニター用途、どちらに向いていますか?
「HD 620S」は両方の特性をバランス良く持っています。音の輪郭が明瞭で定位が動かないため、ミックスチェックや編集確認などの軽いモニター作業にも適します。同時に中高域の刺激を抑えているので、リスニングでも心地よい音として楽しめます。
ハイレゾ音源との相性はどうですか?
「HD 620S」は解像感が高く、ハイレゾ音源との相性は非常に良好です。特に24bit/96kHz以上の音源では、リバーブの自然な余韻やボーカルの息づかいの細部がよく再現されます。ただし、DACやアンプの出力が不足すると情報量が飽和しきらないため、ハイレゾ対応DAC+低出力インピーダンスのアンプの組み合わせが理想です。
「HD 620S」はゲームや映画にも向いていますか?
はい、定位の正確さとセリフの明瞭度に優れているため、ゲームや映画視聴にも適しています。特に3Dサウンドやバーチャルサラウンド環境下では、HD 620Sの明瞭な定位感が活き、環境音の方向性を自然に掴めます。ただし、映画の重低音を“体で感じたい”場合はサブウーファー併用や低域強調系のヘッドホンの方が迫力は上です。
音楽制作(ミックス・マスタリング)にも使えますか?
「HD 620S」はリスニング寄りの自然なチューニングを持つ“軽モニター対応機”として使えます。解像度と定位の安定性が高く、ボーカルや低域のレベルバランスを確認するには十分。ただし、極端にフラットな測定環境を求めるプロフェッショナル用途には「HD 600」や「HD 490 PRO」などが適しています。一方で、制作とリスニングを兼ねたいユーザーには“ちょうどいいバランス”の一本です。
「HD 620S」は「HD 560S」からのアップグレードとして価値がありますか?
「HD 560S」は非常に優れたコストパフォーマンス機ですが、「HD 620S」はさらに上の階層での完成度があります。「HD 560S」が“開放的で素直なモニター寄り”だとすれば、「HD 620S」は“よりリスニング寄りで情報密度が高い”モデル。遮音性とS/Nが向上し、小音量でも中域の厚みが感じられる点でアップグレードの価値は十分あります。
同価格帯(約6~7万円)の他社製ヘッドホンと比べてどうですか?
「HD 620S」はこの価格帯で珍しい「密閉型×リファレンス志向」のヘッドホンです。他社の同価格帯が“モニター寄り”なのに対し、「HD 620S」はより自然でリスニングフレンドリーな音作り。強調の少ないバランス感が、長く使うほど“疲れにくく飽きにくい音”として評価されています。
Sennheiser 「HD 620S」レビューのまとめ

「HD 620S」は、「開放型HDの自然さ」と「密閉型の実用性(遮音・S/N・明瞭さ)」を高い次元で両立した一本です。
小音量でも情報量が落ちにくく、ボーカルのセンター定位がぶれないため、在宅ワークや夜間リスニングの“日常使い”で強みを発揮します。
いっぽうで、遠景の“抜け切る見晴らし”や、映画級の重低音の量感は開放型/重低音特化機に一歩譲ります。
総じて、広いジャンルで破綻なく鳴らせる“安定解のHD”という評価が妥当です。
「HD 620S」の要点(メリット/デメリット)
メリット
- 密閉でも中域の自然さと高域の見通しが保たれ、長時間でも聴き疲れしにくい
- 小音量で成立:夜間や共有空間でも満足度が下がりにくい
- 定位の安定とS/Nの良さ:環境ノイズ下でも音像が崩れにくい
- 装着バランスが良く、メガネ併用でも痛点が出にくい
デメリット
- 超低域の床鳴りは控えめ:映画・EDMで量感を強く求めると物足りない
- 遠景の見晴らしは開放型に劣る:空気感の“抜け切る”表現はHD 600/660S2が優位
- 機材で伸びしろが出るタイプ:据え置きや駆動力のあるアンプで真価を発揮
こんな人に合います
- HD 600/660S系のトーンが好きで、密閉の実用性も取りたい方
- 在宅ワークや夜間中心で、小音量でも気持ちよく聴きたい方
- ボーカル物〜アコースティック〜ジャズ〜シティポップなど、ジャンル横断でバランスよく楽しみたい方
- 定位・解像・聴きやすさの均衡を重視し、長時間の装着快適性も外せない方
他モデルとの選び方(簡易ガイド)
| 目的/優先軸 | 最有力候補 |
|---|---|
| 空気感の“遠景の見晴らし”・開放的な広がり | HD 600(開放) |
| 力感・厚み・熱量のあるリスニング | HD 660S2(開放) |
| 環境ノイズ下でも安定・小音量で成立・実用性重視 | HD 620S(密閉) |
相性機材・セッティングのヒント
- 低出力インピーダンスのアンプで制動を確保 → 低域の張りと見通しが向上します
- ほんのりウォームなアンプなら中域の肉付けが増し、小音量の満足度アップ
- ゲインは必要なだけ。過剰ゲインは高域の刺激感につながりやすい
- パッドの状態が音に直結:定期メンテ/早めの交換で装着と音の両立を維持
購入前チェックリスト
- 夜間や共有空間で小音量中心に聴く予定がある
- ボーカルのセンター定位やコーラスの層の見通しを重視する
- 映画・EDMの重低音を最重視していない
- 可能ならドングル以上の駆動力を用意できる
Sennheiser 「HD 620S」レビューの総括
「HD 620S」は、ゼンハイザーが長年培ってきたHDシリーズの音の哲学を、密閉構造という新たな舞台で再定義したヘッドホンです。
開放型の自然な音場と密閉型の実用性を融合させるという難題に真正面から挑み、静けさの中で音楽が立ち上がるような独特の表現力を実現しています。
音の傾向はあくまでニュートラルで、誇張を避けつつも解像度と臨場感を丁寧に両立させており、ボーカルの息づかいや楽器の輪郭が滑らかに浮かび上がります。
長時間のリスニングにも適した快適な装着感、環境を選ばず安定して鳴らせる扱いやすさ、そしてHDシリーズらしい中域の深みと誠実さ。
どれを取っても、“使うほどに信頼が増していく”タイプの製品です。
開放型の伸びやかさを完全に再現することはできないものの、密閉型でしか得られない集中感と音像の明確さは、日常のあらゆるシーンで高い満足度をもたらします。
音楽を静かに、深く味わいたい時にそっと寄り添ってくれる──「HD 620S」は、そんな「現実の中で最高を目指すリスナー」のための、静かで力強い相棒です。


