「オープンイヤー型イヤホン(ながら聴きイヤホン)は、構造上どうしても音質が軽く、低音がスカスカになる」――これは、ポータブルオーディオを愛好する私たちの間で、長らく「変えられない常識」として定着していました。
耳を塞がない開放感と引き換えに、音楽への没入感を犠牲にする。
多くのユーザーがそのトレードオフを受け入れ、スポーツや家事のBGM用として割り切って使っていたのが現実です。
しかし、その常識を根底から覆そうとする「黒船」がXiaomi(シャオミ)から到来しました。
それが今回レビューするXiaomi 「OpenWear Stereo Pro」です。
ShokzやHuawei、Boseといった先行する巨人たちがひしめく市場に対し、Xiaomiが選んだ戦略は「音質の極限追求」という、極めて真っ向勝負のアプローチでした。
本機のスペックシートを見た瞬間、多くのオーディオファンが目を疑ったはずです。
オープンイヤー型でありながら、「18mm超大型ダイナミックドライバー」に加え、「2基のバランスドアーマチュア(BA)」、さらに「ピエゾセラミックツイーター」までも搭載するという、有線ハイエンドイヤホン顔負けの構成を採用しているからです。
これだけのドライバーを積めば、物理的に重くなり、装着感が損なわれるのが普通ですが、Xiaomiは人間工学に基づいた設計でその課題もクリアしていると謳います。
さらに、価格は19,980円(税込)。
競合のフラッグシップモデルが2万円台後半から3万円台に突入する中、アンダー2万円という戦略的な価格設定です。
「安かろう悪かろう」なのか、それとも「価格破壊の神機」なのか。
今回は、提供いただいた実機を使い倒し、ハーマン監修サウンドの真価、実用的なバッテリー持ち、そして独自機能である「ケース録音」の使い勝手まで、WEB上の口コミや評判の真偽を含めて徹底的にレビューしていきます。
音質に一切妥協したくないあなたのための、決定版ガイドです。
- Xiaomi OpenWear Stereo Proのスペックと特徴
- Xiaomi OpenWear Stereo Proの音質・機能性の実力検証
- Xiaomi OpenWear Stereo Proの競合モデルとの比較と選び方
- Xiaomi OpenWear Stereo Proを使用した私の体験談・レビュー
- Xiaomi OpenWear Stereo Proに関するよくある質問(Q&A)
- 無印モデル(Xiaomi OpenWear Stereo)とPro版の決定的な違いは何ですか?
- iPhoneでも高音質で聴けますか?
- 音漏れは本当に気になりませんか?
- ランニングやジムなどのスポーツでも使えますか?
- 独自の「録音機能」はスマホなしで使えますか?
- 片耳(シングルモード)だけでも使えますか?
- ゲームや動画視聴時の「音ズレ(遅延)」は気になりますか?
- メガネやマスクと干渉して痛くなりませんか?
- マルチポイント接続時の「切り替え」はスムーズですか?
- 専用アプリ「Xiaomi Earbuds」は必須ですか?
- 安いオープンイヤー型(5,000円〜1万円以下)との決定的な違いは?
- 充電ケースはワイヤレス充電に対応していますか?
- イヤホン本体で「音量調整」はできますか?
- 空間オーディオ(ヘッドトラッキング)はYouTubeなどでも使えますか?
- Xiaomi OpenWear Stereo Proレビューのまとめ
Xiaomi OpenWear Stereo Proのスペックと特徴

なぜこのイヤホンが「変態スペック(最高の褒め言葉)」と称されるのか。
まずはその技術的な背景と、外観のこだわりを細部まで分解して解説します。
オープン型では異例の「5ドライバー」構成
本機のアイデンティティは、間違いなくそのドライバー構成にあります。
通常の完全ワイヤレスイヤホン、特にオープンイヤー型では、スペースの制約や重量の問題から「フルレンジ・ダイナミックドライバー1基」で音を鳴らすのが一般的です。
しかし、Xiaomi OpenWear Stereo Proは、役割の異なる複数のドライバーを組み合わせる「ハイブリッド(トライブリッド)構成」を採用しました。
搭載されているドライバーとその役割
- 18×13mm 超大型ダイナミックドライバー(1基)
- 役割: 低音域〜中音域の土台を担当。
- 解説: 10mm程度が一般的な中、18mm×13mmという巨大な振動板を採用しています。オープン型は耳と振動板の間に距離があるため低音が減衰しやすいのですが、この物理的な大きさで空気を大きく震わせることで、量感のある低音と厚みのあるボーカル帯域を実現しています。
- バランスドアーマチュア(BA)ドライバー(2基)
- 役割: 中高音域の解像度と分離感を担当。
- 解説: 補聴器技術から発展したBAドライバーは、微細な音の再現性に優れています。これを贅沢に2基搭載することで、ボーカルの吐息やギターのカッティングなど、細かい音の粒立ちを明確にします。ダイナミック型だけではボヤけがちな中音域を、BAが引き締める役割を果たします。
- ピエゾセラミックツイーター(1基)
- 役割: 超高音域の空気感や倍音成分を担当。
- 解説: ピエゾ(圧電素子)は、電圧を加えると変形するセラミックの性質を利用したドライバーです。非常に応答速度が速く、可聴域を超えるような高い周波数帯域までスムーズに再生できます。これにより、シンバルの金属的な響きや、スタジオの空間的な広がり(エアリー感)を表現します。
- 音漏れ低減用 10mmドライバー(1基)
- 役割: 音漏れの抑制(アンチノイズ発生)。
- 解説: 音楽再生用とは別に、音漏れを防ぐためだけのドライバーを積んでいます。これについては後述の章で詳しく検証します。
これら合計4種・5基のドライバーを、左右それぞれの小さな筐体に詰め込んでいるのです。
これは単なるスペック自慢ではなく、「耳を塞がない」というハンデを物理的な物量作戦で克服しようという、エンジニアの執念すら感じる設計です。
所有欲を満たす高級感あるデザインと質感
スペックだけでなく、デザインや素材選びにおいても「Pro」の名に相応しいクオリティで仕上げられています。
- ケース外装:ナノテクヴィーガンレザー
充電ケースの表面には、スマートフォン(Xiaomi 14 Ultraなど)の背面素材にも使われているような「ナノテクヴィーガンレザー」が採用されています。
プラスチックのツルツルした感触ではなく、しっとりと手に吸い付くようなレザー調のテクスチャです。
これには「指紋が目立たない」「傷に強い」「滑りにくい」という実用的なメリットがあります。
ガジェット特有の無機質さを排除し、ファッションアイテムのような温かみを持たせています。 - ケース内装:合成スエードのあしらい
ケースを開くと、蓋の裏側部分に合成スエード素材が配置されています。
これはデザイン上のアクセントであると同時に、イヤホン本体の光沢部分(フェイスプレート)がケースと擦れて傷つくのを防ぐ保護材の役割も果たしています。 - イヤホン本体:リキッドシリコンと形状記憶チタン合金
耳に直接触れるフック部分には、医療用グレードにも近い柔軟な「リキッドシリコン」が使用されています。
さらさらとした肌触りで、汗をかいてもベタつきにくいのが特徴です。
その内部には、0.6mmという極細の「形状記憶チタン合金ワイヤー」が通っています。
このワイヤーは、何千回曲げても元の形状に戻る耐久性を持ちながら、適度なクランプ力(挟む力)を生み出し、長時間の装着でも耳が痛くならない絶妙なフィット感を実現しています。
本体カラーは「チタングレー」「サンドゴールド」「グラファイトブラック」などが展開されており、フェイスプレート部分は鏡面仕上げ(メタリック加工)となっています。
光の当たり方で表情を変えるその姿は、ジュエリーのような高級感を漂わせています。
独自機能:ケース録音と空間オーディオ
Xiaomi OpenWear Stereo Proには、他社のイヤホンではまず見かけないユニークな機能が搭載されています。
スタンドアロン録音機能(ケース録音)
通常、イヤホンの録音機能といえば、通話内容の録音がメインです。
しかし本機は、「イヤホンをケースに収納した状態」でICレコーダーとして機能するモードを持っています。
使い方は簡単で、イヤホンをケースに入れて蓋を開けたまま(あるいは閉じたまま)、ケース側面のボタンを操作するだけ。
これにより、イヤホンのマイクではなくケース側のシステムを利用して周囲の音声を録音します。
例えば、重要な会議や講義で「スマホを取り出して録音アプリを起動するのは憚られる」というシチュエーションでも、イヤホンケースを机に置いておくだけで自然に録音が可能です。
録音データはイヤホン本体(またはケース内メモリ)に一時保存され、後でアプリを介してスマートフォンに転送・保存できます。
6軸センサーによる空間オーディオ
AppleのAirPodsシリーズでおなじみの「ヘッドトラッキング機能付き空間オーディオ」にも対応しています。
イヤホン内部に搭載されたジャイロセンサー(6軸センサー)が、ユーザーの頭の向きをリアルタイムで検知。
頭を右に向ければ、音源が左耳側(元の正面)から聞こえ続けるように定位を制御します。
これにより、映画やライブ映像を視聴する際、まるで映画館やコンサートホールの客席に座っているかのような、強烈な臨場感を体験できます。
音楽だけでなく、動画コンテンツの視聴体験を数段レベルアップさせる機能です。
Xiaomi OpenWear Stereo Proの音質・機能性の実力検証

ここからは、実際に使用して分かった音質や機能の実力について、忖度なしで深掘りしていきます。
ハーマン監修サウンドとLDAC対応の恩恵
Xiaomiは近年、Samsung傘下のオーディオブランド「Harman(ハーマン)」とのパートナーシップを強化しています。
本機にも「Harman AudioEFX」チューニングが施されており、その音作りは非常に洗練されています。
Harman Master EQの威力
専用アプリ「Xiaomi Earbuds」からイコライザー設定で「Harman Master」を選択すると、このイヤホンのポテンシャルが最大化されます。
一聴して感じるのは、「圧倒的な情報量と分離感」です。
通常、オープンイヤー型は低音を補うために中高音域がマスクされがちですが、本機はBAドライバーとピエゾツイーターが独立して高音域を鳴らすため、曇りが一切ありません。
- 高音域:
刺さる一歩手前のきらびやかさがあります。
ハイハットの余韻、アコースティックギターの爪弾く音、バイオリンの倍音成分が美しく伸びます。 - 中音域:
ボーカルは近すぎず遠すぎず、適切な距離感で定位します。
男性ボーカルの太さよりも、女性ボーカルの艶やかさの表現が得意な印象です。 - 低音域:
18mmドライバーの恩恵で、バスドラムの「ドスッ」というアタック感がしっかり伝わります。
カナル型のような密閉された「圧」ではありませんが、開放型ヘッドホンのような「抜けの良い、質の高い低音」です。
LDACコーデックによるハイレゾ体験
本機は、ソニーが開発した高音質コーデック「LDAC」に対応しています(Android端末のみ)。最大990kbpsの帯域幅で伝送できるため、Spotifyなどのストリーミング音源はもちろん、Amazon Music Unlimitedなどのハイレゾ音源を聴くと、その差は歴然です。
SBCやAAC接続時に比べて、音の輪郭がカチッと定まり、背景の静寂感(S/N比)が向上します。
「ワイヤレスで、しかもオープン型でここまで鳴るのか」と感動するレベルです。
10mm専用ドライバーによる音漏れ抑制効果
「音が良いのは分かったが、周りにダダ漏れではないか?」 これはオープンイヤー型最大の懸念点です。
Xiaomi OpenWear Stereo Proは、「音漏れ低減専用の10mmドライバー」を搭載するという、コストのかかった手法でこれに対策しています。
仕組みとしては、再生している音楽の波形を解析し、外部に漏れる音に対して「逆位相(プラスマイナスが逆の波形)」の音波をぶつけることで、音を相殺して消す技術です(アクティブノイズキャンセリングの逆バージョン)。
実環境でのテスト結果
- 静かな部屋(深夜の自宅):
iPhoneの音量50%程度で再生し、隣に家族に座ってもらいましたが、「何か鳴っているのは分かるが、何の曲かは分からない」レベルまで低減されています。 - カフェやオフィス:
環境音(BGMや空調音)がある場所では、音量60%程度まで上げても、1メートル離れた人にはほぼ聞こえません。 - 電車内・図書館:
さすがに静寂な図書館や、肩が触れ合う距離の満員電車では、音量に注意が必要です。
しかし、従来のオープンイヤー型に比べると、音漏れの拡散範囲が狭く、指向性が高い(耳の穴に向かってピンポイントで音が飛んでいる)印象を受けました。
完全にゼロにはなりませんが、実用レベルでは非常に優秀な音漏れ耐性を持っています。
専用アプリ「Xiaomi Earbuds」の活用法
ハードウェアの性能を引き出すには、ソフトウェア(アプリ)の活用が不可欠です。
「Xiaomi Earbuds」アプリはUIが洗練されており、直感的に操作できます。
- ジェスチャーのカスタマイズ:
左右のイヤホンそれぞれに対し、「1回タップ」「2回タップ」「3回タップ」「長押し」の4種類の操作を割り当て可能です。
音量調整、曲送り/戻し、音声アシスタント呼び出しなどを自由に配置できます。
特に「1回タップ」は誤操作防止のためデフォルトでOFFになっていることが多いですが、必要に応じてONにできる自由度の高さは評価できます。 - イコライザー(EQ):
前述の「Harman Master」以外にも、「音声増幅(人の声を聞き取りやすくする)」「高音強化」「低音強化」などのプリセットがあります。
もちろん、ユーザーが周波数帯域ごとのゲインを調整するカスタムEQも作成可能です(※一部ファームウェアや地域設定により制限がある場合も報告されていますが、基本的には調整可能です)。 - イヤホンを探す:
Bluetooth接続圏内であれば、イヤホンから高音のアラーム音を鳴らして場所を特定できます。 - マルチポイント設定:
2台のデバイスへの同時接続のON/OFFを切り替えます。
LDAC使用時は帯域を確保するためにOFFにすることが推奨される場合もあります。
Xiaomi OpenWear Stereo Proの競合モデルとの比較と選び方

19,980円という価格は、決して安くはありませんが、競合他社のハイエンド機と比較すると割安感があります。
ここでは代表的な2機種と比較し、本機の立ち位置を明確にします。
Shokz OpenFit / Airシリーズとの違い
オープンイヤー型の絶対王者「Shokz」のOpenFitシリーズとの比較です。
- 装着感とホールド力:
Shokzは元々骨伝導イヤホンでスポーツ界を席巻したメーカーだけあり、「激しく動いてもズレない」ホールド力に長けています。
フックのバネ性が強く、耳をしっかりとグリップします。
対してXiaomiは、装着感が「ふわっと」しており、非常に快適ですが、激しい運動時の安定性ではShokzに一歩譲ります。 - 音質:
Shokzも低音増強技術「DirectPitch」などで健闘していますが、ドライバー構成の物理的な差(Xiaomiの5ドライバー vs Shokzの1ドライバー)はいかんともし難く、解像度、高音の伸び、音の厚みにおいてはXiaomiの圧勝と言えます。 - 結論:
スポーツ・ランニング最優先ならShokz。
音楽鑑賞・デスクワーク・普段使いならXiaomi。
Huawei FreeClipとの違い
「イヤーカフ型」という独特な形状で人気のHuawei FreeClipとの比較です。
- 形状とファッション性:
Huawei FreeClipは耳を挟み込むクリップ型で、見た目がまるでアクセサリーのようです。
寝転がっても邪魔にならず、ファッションアイコンとしての完成度は高いです。
Xiaomiは一般的なフック型なので、見た目のスマートさではHuaweiに分があります。 - 音質:
構造上、イヤーカフ型は大型ドライバーを積むのが難しく、低音の量感が出にくい傾向にあります。
Huaweiも健闘していますが、Xiaomiの「Harman監修+18mmドライバー」の迫力には及びません。 - 結論:
装着の手軽さや見た目重視ならHuawei。
音質へのこだわりがあるならXiaomi。
スペックと価格から見るコストパフォーマンス
- Shokz OpenFit: 約24,000円
- Huawei FreeClip: 約23,000円
- Bose Ultra Open Earbuds: 約30,000円
- Xiaomi OpenWear Stereo Pro: 19,980円
こうして並べると、Xiaomiの価格設定がいかに攻撃的かが分かります。
LDAC対応、5ドライバー構成、レザー調ケースなどの付加価値を持ちながら、競合より5,000円〜1万円以上安いのです。
ブランド料を差し引いても、このコストパフォーマンスは「異常」と言えるレベルです。
Xiaomi OpenWear Stereo Proを使用した私の体験談・レビュー

ここからは、実際に私が「Xiaomi OpenWear Stereo Pro」を日常生活に導入し、2週間ほど徹底的に使い込んだリアルな体験談をお届けします。
開封からセットアップまでの印象
パッケージはシンプルですが、箱を開けた瞬間の「香り」からして違いました(比喩的な意味で)。
保護フィルムを剥がし、ヴィーガンレザーのケースを手に取った瞬間、「おっ、いいモノだ」と直感します。
ケースのヒンジ(蝶番)の動きもスムーズで、パカッと開けた時に適度な抵抗感があり、勝手に閉じることがありません。
Androidスマートフォン(Xiaomi 14 Ultra)の近くでケースを開けると、Google Fast Pairのポップアップが即座に表示され、ワンタップでペアリングが完了。
このシームレスさはApple製品を使っているような心地よさです。
装着感レビュー:長時間のデスクワークと運動
私は普段、WEBライティングや動画編集で1日8時間以上PCに向かいます。
これまではカナル型を使っていましたが、2時間もすると耳の穴が痒くなり、蒸れが気になっていました。
Xiaomi OpenWear Stereo Proに変えてからは、そのストレスが完全にゼロになりました。
フックの「重心バランス」が絶妙で、耳の付け根一点に重さが集中するのではなく、耳全体にふわりと乗っかるような感覚です。
メガネ(ブルーライトカット眼鏡)と併用しても、フックが細いため干渉して痛くなることはありませんでした。
一方で、週末のジョギングで使用した際は、少し気を使う場面がありました。
キロ5分程度のランニングなら問題ありませんが、ダッシュをしたり、階段を駆け下りたりすると、上下に少し揺れる感覚があります。
落ちることはありませんが、「ズレそう」という不安感がよぎりました。
やはり、スポーツ特化モデルのようなガチガチのホールド感ではないため、激しい運動にはストラップなどを併用するか、別のモデルを選んだ方が無難だと感じました。
音質レビュー:BAとピエゾがもたらす高音の伸び
音質チェックには、宇多田ヒカルの『One Last Kiss』や、Adoの『唱』、そしてビル・エヴァンスのジャズナンバーを使用しました。
- 女性ボーカルの表現力:
これが抜きんでて優れたです。
宇多田ヒカルのブレスの音、声の震えが、耳元ではなく「頭の周囲」に浮かび上がるように聴こえます。
BAドライバーの特性であるトランジェント(過渡特性)の良さが、声の輪郭をくっきりと描きます。 - EDM・打ち込み系:
『唱』のような激しい曲でも、音が団子になりません。
低音のビートは18mmドライバーが支え、高音の電子音はピエゾが鳴らす。
役割分担ができているため、ごちゃごちゃせずに各楽器の音が分離して聴こえます。 - ジャズ・クラシック:
ピエゾツイーターの真骨頂です。
ハイハットの金属音やピアノの倍音が、天井が高くなったかのように伸びていきます。
オープン型の「抜けの良さ」と相まって、閉塞感のない広大なサウンドステージを楽しめました。
「ながら聴き用」として買ったはずが、いつの間にか作業を止めて音楽に聴き入ってしまったことが何度もありました。
それほどまでに、音楽的な魅力に溢れた音です。
実用性チェック:マルチポイントと接続安定性
仕事用PC(Windows)とスマホ(Android)のマルチポイント接続は、現代のデスクワーカーには必須機能です。
PCでYouTubeを見ている最中にスマホに着信があると、自動的に切り替わります。
この挙動は非常に安定しており、ストレスはありませんでした。
通話品質に関しては、AIノイズキャンセリングが効いており、こちらの声はクリアに相手に届きます。
ただ、風切り音(ウィンドノイズ)には少し弱い印象で、強風の屋外で通話すると「ゴォー」という音が相手に伝わることがありました。
屋内でのWEB会議用としては100点満点です。
バッテリー持ち検証:LDAC接続時の注意点
カタログスペックでは「単体8.5時間」とありますが、これはあくまでAAC接続かつ音量50%時の数値です。
私が「LDAC接続(ビットレート自動)」「音量60%」「Harman Master EQオン」という高音質フルパワー設定で使用したところ、約4時間〜4時間半でバッテリー残量低下のアラートが鳴りました。
高音質データの処理にはそれなりの電力を消費します。
半日ぶっ通しで使うには少し心許ないですが、お昼休憩やトイレ休憩の際にこまめにケースに戻せば、10分の急速充電で約2時間分回復するので、運用でカバーできる範囲です。
もしバッテリー持ちを最優先したい場合は、アプリの設定でコーデックをAACに変更すれば、7時間近く持ちます。
シーンに合わせて使い分けるのが賢い使い方でしょう。
体験談の総括
2週間使ってみて、「もうカナル型には戻れないかもしれない」という恐怖(?)すら感じています。
耳を塞がない快適さと、妥協のない高音質。この2つが両立すると、生活の中に常に音楽がある状態(サウンドトラックがある生活)が実現します。
細かい不満点(LDAC時の電池持ちなど)はありますが、それを補って余りある「音の感動」と「所有する喜び」を与えてくれるガジェットでした。
Xiaomi OpenWear Stereo Proに関するよくある質問(Q&A)

Xiaomi OpenWear Stereo Proに関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
無印モデル(Xiaomi OpenWear Stereo)とPro版の決定的な違いは何ですか?
最大の違いは「音質」と「ドライバー構成」です。
通常版が12x17mmのダイナミックドライバー1基であるのに対し、Pro版は「ダイナミック+デュアルBA+ピエゾ」の5ドライバー構成を採用しています。これにより、Pro版の方が圧倒的に解像度が高く、繊細な音の表現が可能です。また、Pro版のみLDACコーデックやケース録音機能に対応しています。価格差以上の性能差があるため、音質にこだわるならPro版一択です。
iPhoneでも高音質で聴けますか?
iPhoneでも十分高音質ですが、LDACは使えません。
iPhoneはLDACコーデックに対応していないため、AAC接続となります。しかし、本機はドライバー自体の性能が非常に高いため、AAC接続でも一般的なオープンイヤー型より優れた音質を楽しめます。ただし、このイヤホンの真骨頂(ハイレゾ相当の転送)を引き出すには、LDAC対応のAndroid端末が必要です。
音漏れは本当に気になりませんか?
日常生活レベルならほぼ気になりません。
10mmの音漏れ低減専用ドライバーが逆位相の音を出して打ち消すため、オフィスやカフェ、自宅での使用なら周囲に迷惑をかけることはまずありません。ただし、静かな図書館や、人と密着する満員電車で大音量を流せば多少は聞こえます。常識的な音量であれば問題ないレベルです。
ランニングやジムなどのスポーツでも使えますか?
軽い運動なら大丈夫ですが、激しい動きには向きません。
装着感が非常にソフトで快適な反面、ホールド力(挟む力)はShokzなどのスポーツモデルに比べると弱めです。ウォーキングや軽いジョギングなら問題ありませんが、ダッシュや激しい筋トレ、球技などではズレる可能性があります。
独自の「録音機能」はスマホなしで使えますか?
はい、ケース単体で録音可能です。
イヤホンをケースに入れた状態で側面のボタンを操作すれば、ケースがICレコーダー代わりになります。スマホを取り出せない会議中や、講義の録音などに便利です。録音データは後でアプリ経由でスマホに取り込めます。
片耳(シングルモード)だけでも使えますか?
はい、左右どちらでも片耳のみで使用可能です。
片方をケースに戻せば自動的に片耳モードに切り替わり、音楽もモノラル再生(設定による)に移行します。仕事中に片耳だけ着けて待機するといった使い方もスムーズです。
ゲームや動画視聴時の「音ズレ(遅延)」は気になりますか?
動画視聴は問題ありませんが、FPSや音ゲーには不向きです。
YouTubeやNetflixなどの動画アプリでは、アプリ側の補正が効くため遅延はほぼ気になりません。しかし、本機には専用の「低遅延モード(ゲームモード)」が搭載されていません。特にLDAC接続時はデータ転送量が多いため遅延が発生しやすく、タイミングがシビアな音ゲーや、一瞬の判断が必要なFPSゲームではズレを感じる可能性が高いです。
メガネやマスクと干渉して痛くなりませんか?
干渉は最小限で、痛みはほぼ出ません。
耳に掛けるフック部分に採用されているチタンワイヤーは「0.6mm」と非常に極細設計です。そのため、メガネのツルやマスクの紐と重なっても厚みが出にくく、圧迫感をほとんど感じません。メガネユーザーでも快適に使えるオープンイヤー型として優秀です。
マルチポイント接続時の「切り替え」はスムーズですか?
切り替えは手動(再生停止)が必要です。
本機のマルチポイントは、デバイスAで再生中にデバイスBで再生ボタンを押しても、自動で音声は切り替わりません(割り込み再生不可)。一度デバイスAの再生を停止してから、数秒後にデバイスBを再生する必要があります。着信に関しては自動で切り替わります。
専用アプリ「Xiaomi Earbuds」は必須ですか?
100%の性能を引き出すために必須です。
開封直後の状態では、音質や機能が最適化されていない場合があります。特に「ファームウェアアップデート」は重要で、接続安定性や音質が改善されることが多いです。また、高音質の「Harman Master EQ」への変更や、操作ジェスチャーのカスタマイズもアプリから行うため、インストールを強く推奨します。
安いオープンイヤー型(5,000円〜1万円以下)との決定的な違いは?
「音の解像度」と「質感」が別次元です。
安価なモデルは高音がこもったり、音が軽く安っぽく聞こえたりしがちですが、本機は5ドライバー構成により、シンバルの余韻やボーカルの息遣いまで鮮明に聞こえます。また、ケースにヴィーガンレザーを使用するなど、所有欲を満たすビルドクオリティも大きな違いです。「長く使える良いモノ」が欲しいなら、投資する価値は十分にあります。
充電ケースはワイヤレス充電に対応していますか?
残念ながら非対応です。
充電はUSB Type-Cケーブルのみとなります。ただ、10分の充電で約2時間再生できる急速充電に対応しているため、充電し忘れた朝などでも準備中にサッと充電すれば通勤・通学分は確保できます。
イヤホン本体で「音量調整」はできますか?
はい、できますがアプリでの設定が必要です。
デフォルト(初期状態)では音量操作が割り当てられていない場合がありますが、専用アプリ「Xiaomi Earbuds」を使えば、タップ操作(例えば「1回タップ」や「長押し」など)に音量上げ/下げを自由に割り当てることが可能です。自分好みの操作性にカスタマイズできるのが魅力です。
空間オーディオ(ヘッドトラッキング)はYouTubeなどでも使えますか?
はい、YouTubeやNetflixなど、どのアプリでも機能します。
このイヤホンの空間オーディオ機能は、特定のコンテンツに依存するものではなく、イヤホン側のセンサーで頭の動きを検知して処理を行います。そのため、普段見ているYouTube動画や映画配信サービスでも、映画館のような立体的な臨場感を味わうことができます。
Xiaomi OpenWear Stereo Proレビューのまとめ

Xiaomi OpenWear Stereo Proは、オープンイヤー型イヤホン市場における「ゲームチェンジャー」です。
メリット:圧倒的な音質コスパ
- 変態的5ドライバー構成により、同価格帯はおろか上位機種をも凌駕する解像度を実現。
- Harman監修の音作りが秀逸で、音楽ジャンルを選ばない万能さがある。
- これだけの機能を詰め込んで1万円台(19,980円)という驚異的な価格設定。
メリット:ビジネスにも使える録音機能
- スマホを出さずに録音できるケース録音機能は、ビジネスマンや学生の強い味方。
- マルチポイント対応で、仕事とプライベートをシームレスに行き来できる。
デメリット:用途を選ぶホールド感
- 装着感が優しく快適な反面、激しいスポーツには不向き。
- ランニングメインならShokzなどを検討すべき。
デメリット:高音質コーデック使用時の再生時間
- LDAC使用時は実働4時間程度となるため、長時間の連続使用には充電管理が必要。
- ワイヤレス充電に非対応なのは、デスク環境によっては惜しいポイント。
このイヤホンがおすすめな人
- 「ながら聴き」でも音質には一切妥協したくない、オーディオへのこだわりが強い人。
- Androidスマートフォンユーザーで、LDAC環境を最大限に活かしたい人。
- テレワークや長時間作業で、耳への負担を極限まで減らしたい人。
- 人とは違う、最新技術が詰まった「語れるガジェット」が好きな人。
Xiaomi OpenWear Stereo Proレビューの総合評価と最終結論
Xiaomi OpenWear Stereo Proは、単なる「便利な耳を塞がないイヤホン」ではありません。
「オープンイヤー型でも、ここまで良い音が出せるんだ」という技術的なデモンストレーションであり、未来のスタンダードを提示した製品です。
もしあなたが、今使っているオープンイヤー型の音質に少しでも不満があるなら、あるいは「音質が悪いから」という理由でオープンイヤー型を敬遠していたなら、ぜひ一度このイヤホンを試してみてください。
その先入観は、最初の1音目が鳴った瞬間に、心地よく裏切られるはずです。

