現在、中華イヤホン市場は、まさに「戦国時代」の様相を呈しています。
数多のブランドが群雄割拠し、ドライバー数の多寡や新素材の採用競争が激化する中で、頭一つ抜けた存在感を放つブランドがあります。
それがZiiGaat(ジーガート)です。
長年にわたり、名だたる大手オーディオブランドのOEM/ODM(受託製造)として裏方で技術を磨き続けてきた彼らは、その蓄積されたノウハウを武器に自社ブランドを立ち上げました。
「Cinno」や「Doscinko」といったコストパフォーマンスに優れたヒット作を連発し、瞬く間にオーディオマニアの間で「信頼できるブランド」としての地位を確立しました。
そして今回、そのZiiGaatが満を持して市場に投入したフラグシップモデルこそが、「Arcanis(アルカニス)」です。
本機の仕様を聞いたとき、多くのオーディオファンが耳を疑ったことでしょう。
2基のダイナミックドライバー(DD)と5基のバランスド・アーマチュア(BA)を搭載し、さらにDDには高度な音響設計を要する「アイソバリック構成」を採用。
スペックだけを見れば、他社製品なら10万円〜15万円クラスのハイエンド機に匹敵する、まさに「怪物」のようなイヤホンです。
しかし、オーディオの世界において「スペックの高さ」は必ずしも「良い音」を保証しません。
多数のドライバーを積むことで音が濁る「多ドラの悪癖」に陥っている製品も少なくないからです。
果たしてArcanisは、スペック上の数値を音楽的な感動へと昇華できているのでしょうか?
本記事では、このZiiGaat Arcanisを自腹で購入し、100時間以上の念入りなエージング、複数のケーブルによるリケーブル検証、そして純粋なリスニングだけでなく、FPSなどのシビアなゲーミング用途まで徹底的に使い倒しました。
- 暴力的なまでの低音と、繊細な高音は本当に共存できているのか?
- 競合ひしめくミドル〜ハイエンド帯で、あえてArcanisを選ぶ理由は何か?
- 「iBasso DX180」などのDAPと組み合わせた時の真価とは?
カタログスペックや表面的なレビューだけでは見えてこない、実体験に基づいた「真実」を、一切の忖度なしに余すところなくお伝えします。
- ZiiGaat 「Arcanis」のスペックとデザイン
- ZiiGaat 「Arcanis」の音質レビュー:暴力的な低音と繊細な高音の融合
- ZiiGaat 「Arcanis」のライバル機種・同社製品との徹底比較
- ZiiGaat 「Arcanis」を使用した私の体験談・レビュー
- ZiiGaat 「Arcanis」に関するQ&A
- Arcanisはどのような音楽ジャンルに合いますか?
- スマホ直挿しでも十分な音量は出ますか?
- 装着感はどうですか?耳が小さくても大丈夫でしょうか?
- FPSなどのゲーム用途でも使えますか?
- リケーブルの効果はありますか?おすすめの線材は?
- エージング(慣らし運転)は必要ですか?
- 電車やカフェで使いたいのですが、音漏れや遮音性はどうですか?
- ホワイトノイズ(サーッという音)は気になりますか?
- イコライザー(EQ)での音質調整には向いていますか?
- 1~2万円台のイヤホン(EA500LMやエントリー機)からのステップアップですが、価格差分の感動はありますか?
- ノズル(軸)は太いですか? 市販のイヤーピースはハマりますか?
- 合わせるDAPやDACの「音の傾向」は、どんなものがおすすめですか?
- ZiiGaat 「Arcanis」レビューのまとめ
ZiiGaat 「Arcanis」のスペックとデザイン

まずは、Arcanisがなぜ「怪物」と呼ばれるのか、その心臓部と外観のクオリティを客観的なスペック、そして技術的な背景から紐解いていきます。
怪物級の心臓部:2DDアイソバリック+5BAの構成
Arcanisの最大の特徴にして最大の武器は、「2DD + 5BA」という贅沢極まりないドライバー構成にあります。
しかし、単にドライバーを詰め込んだだけではありません。
ここには、ZiiGaatのエンジニアたちが「理想のサウンド」を追求した明確な設計思想が見て取れます。
各ドライバーの役割と技術的詳細を深掘りしてみましょう。
| ドライバー種別 | 搭載数 | モデル/詳細 | 役割と技術的特徴 |
| ダイナミックドライバー (DD) | 2基 | 10mm径・アイソバリック構成 | 【サブウーファー担当】 通常のデュアルDDとは異なり、2つのドライバーを対向(あるいは並列)配置し、密閉された空気室を介して連動させる「アイソバリック方式」を採用。これによりドライバーの駆動力(リニアリティ)が倍増し、歪みを極限まで抑えつつ、サイズを超えた深く重いサブベースを生み出します。 |
| バランスド・アーマチュア (BA) | 2基 | Knowles RAF-32873 | 【中低域担当】 DDとのクロスオーバー帯域を担当。ダイナミック型の太い低音と、BA型の繊細な中高音を繋ぐ「架け橋」となる重要なユニットです。フルレンジとしても使える優秀なドライバーを贅沢に2基使い、音の厚みを確保しています。 |
| バランスド・アーマチュア (BA) | 2基 | Knowles ED-29689 | 【中高域担当】 Knowles社のド定番とも言えるフルレンジBA。癖のない素直な音色が特徴で、ボーカルの帯域を主に担当します。ここを奇をてらわない定番ユニットにしたことで、聴き疲れしないナチュラルな音色を実現しています。 |
| バランスド・アーマチュア (BA) | 1基 | Knowles RAD-33518 | 【超高域(ツィーター)担当】 可聴域の上限近く、あるいはそれを超える超高域を担当。シンバルの余韻や空気感、音場の広がりを演出します。非常に小型で高感度なユニットです。 |
【4Wayパッシブクロスオーバーの妙】
多ドライバー構成で最も難しいのが、各ドライバーの音が重なる帯域の処理(クロスオーバー)です。
調整が甘いと、音が混ざって濁ったり、位相がズレて不自然に聞こえたりします。
Arcanisは、独立した音響管(サウンドチューブ)と精密なネットワーク回路を用いた4Wayパッシブクロスオーバーを採用。
特に、低域の2DDを「サブウーファー」として完全に独立させ、中域以上をKnowles製BAに任せるという大胆な割り切りを行っています。
これにより、低音が中高域をマスク(邪魔)することなく、驚異的な分離感を実現しているのです。
医療グレードレジン採用の筐体デザインと装着感
音質だけでなく、ハードウェアとしての完成度もフラグシップに相応しいものです。
【美しさと堅牢性を兼ね備えたシェル】
筐体(シェル)には、医療現場でも使用される高品質なレジン素材を使用し、高精度3Dプリンターで一体成形されています。
実物を手に取ると、その透明度と充填率の高さに驚かされます。
フェイスプレートは一つひとつ手作業で塗装されており、深い海を思わせるブルーやエメラルドグリーンのグラデーションは、光の当たり方によって様々な表情を見せます。所有欲を強烈に満たしてくれる仕上がりです。
【装着感とエルゴノミクス】
2DD+5BAという物量を内包しているため、筐体の厚みはそれなりにあります。
しかし、人間工学に基づいたエルゴノミックデザインが秀逸です。
耳のくぼみ(コンチャ)にピタリとハマるように、シェルの内側にわずかな「ウィング(突起)」が設けられています。
この突起がアンカーの役割を果たし、大型の筐体でありながら、装着時の安定感は抜群です。
また、ノズルは金属製を採用。
やや太めで短めの設計ですが、先端にしっかりとした「返し」がついているため、イヤーピースが耳の中に残るようなトラブルも防げます。
遮音性も非常に高く、適切なイヤーピースを選べば、周囲の騒音を大幅にカットするパッシブノイズキャンセリング効果も期待できます。
付属品の品質とコストパフォーマンスの考察
ここで一つ、購入を検討されている方に対して正直な苦言を呈さなければなりません。
Arcanisは「音質全振り」のイヤホンであり、付属品は価格帯(約6万円前後)を考えると非常に簡素と言わざるを得ません。
【同梱物一覧】
- イヤホン本体
- 3.5mm シングルエンドケーブル(銀メッキ銅)
- シリコンイヤーピース(S/M/L 各1ペア)
- フォームイヤーピース(1ペア)
- キャリングケース(シンプルなジッパー式)
ケーブルは被膜が柔らかく取り回しこそ良いものの、線材のグレードやプラグの質感は、あくまで「おまけ」レベルです。
また、最近のトレンドである「プラグ交換式(3.5mm/4.4mm切り替え)」にも対応しておらず、3.5mm固定です。
競合他社が豪華なモジュラーケーブルや高級レザーケースを付属させる中で、このパッケージングはあまりにシンプルです。
しかし、これをポジティブに捉えるなら、「パッケージや付属品にかかるコストを極限まで削ぎ落とし、その全てをドライバーと音響設計に投資した」とも言えます。
開封時のワクワク感こそ少ないですが、音を聴けばその割り切りにも納得がいくはずです。
ユーザー側で好みのリケーブルやイヤーピースを組み合わせる楽しみが残されている、と考えるべきでしょう。
ZiiGaat 「Arcanis」の音質レビュー:暴力的な低音と繊細な高音の融合

ここからは、実際の試聴に基づいた音質レビューを行います。
試聴環境は、普段から愛用しているiBasso DX180(DAP)およびFiiO K9 AKM(据え置きHPA)を使用し、主に4.4mmバランス接続にて評価を行いました。
Arcanisのサウンドを一言で表現するなら、「理知的でありながら暴力的」。
相反するはずの「圧倒的な迫力」と「冷徹なまでの解像度」が高次元で融合した、極めて完成度の高いサウンドです。
低音域:地を這うようなサブベースと制動力
Arcanisの最大のアイデンティティは、間違いなくこの低音域にあります。
アイソバリック構成の2DDが生み出す低音は、単に「量が多い」だけのブーミーな低音とは次元が異なります。
- サブベースの深淵:
可聴域の下限、あるいはそれを超えるような超低域(サブベース)まで、一切の減衰なく沈み込みます。
EDMのドロップ部分や、映画音楽における地鳴りのようなSEを聴くと、鼓膜だけでなく「頭蓋骨が震える」ような物理的な圧力を感じます。 - 驚異的なスピードと制動力:
通常、これほどの量の低音を出すと音が膨らみ、スピード感が損なわれるものです。
しかしArcanisは違います。バスドラムの高速連打や、ベースのスラップ奏法において、音が団子にならず一音一音が明瞭に分離します。
「ドン!」と鳴った瞬間にピタリと止まる制動力があり、余計な付帯音が中高域をマスクすることがありません。
この「空間を埋め尽くす重厚感」と「ドライなまでのキレ」の両立こそが、アイソバリック構成の真骨頂であり、Arcanisを唯一無二の存在にしています。
中高音域:Knowles製BAが描く高解像度と艶感
強力な低音を持つイヤホンは、得てして「低音番長」になりがちで、ボーカルが奥に引っ込んでしまうことがあります。
しかし、Arcanisにその常識は通用しません。ここでKnowles製BA 5基の真価が発揮されます。
- ボーカルの表現力:
特に女性ボーカルの艶感は特筆ものです。
中域を担当する「ED-29689」と中低域の「RAF-32873」の連携により、ボーカルは近すぎず遠すぎない絶妙な位置に定位します。
ドライすぎずウェットすぎない、まさに「ニュートラル」な質感の中に、確かな肉声の厚みを感じます。
息遣いやリップノイズまで生々しく描写し、バラード曲では歌い手の感情がダイレクトに伝わってきます。 - 高域の煌めきと空気感:
ツィーターの「RAD-33518」が、シンバルやハイハットの金属音をカミソリのように鋭く、かつ繊細に描きます。
解像度は極めて高いですが、耳に刺さる不快なピークは見事に抑えられています。
音が消え入る瞬間の微細なリバーブ(残響音)まで拾い上げるため、スタジオやホールといった録音環境の「空気」までも感じ取ることができます。
音場・定位感:濃密な情報量と立体的な空間表現
Arcanisの音場表現は、単に「広い」という言葉では片付けられません。
ホログラフィックな定位:
音の情報量が非常に多いため、オーケストラや複雑な構成の現代音楽を聴いても、すべての楽器の音が個別に識別できるほどの分離性能を持っています。
「右からギター、左からシンセサイザー」といった単純な定位ではなく、「右斜め後方のわずかに高い位置」といったピンポイントな定位を感じることができます。
立体的なレイヤー構造:
横方向への広さは標準的〜やや広めですが、特筆すべきは「奥行き」と「高さ」の表現です。
音が平面的に並ぶのではなく、ボーカルが中央手前に、ドラムがその奥に、ストリングスが全体を包み込むように……といった、立体的な配置が手に取るように分かります。
ZiiGaat 「Arcanis」のライバル機種・同社製品との徹底比較

ZiiGaat Arcanisの立ち位置をより明確にするため、同ブランドの兄弟機および、市場で競合となる同価格帯のライバル機と詳細に比較します。
ZiiGaat内での立ち位置(vs Doscinko / Estrella)
ZiiGaatには、すでに評価の高い兄弟機が存在します。
それらと比較することで、Arcanisのキャラクターが浮き彫りになります。
| モデル名 | ドライバー構成 | 価格帯 | 音の傾向・特徴 | Arcanisとの違い・進化点 |
| Doscinko | 2DD+3BA | ミドル | 低音特化型(ドンシャリ)。 ライブ会場のような熱量と迫力重視。楽しく聴かせることに特化。 | DoscinkoよりもArcanisの方が中高域の解像度と分離感が圧倒的に上です。低音の沈み込みは似ていますが、Arcanisの方がよりタイトで制御されています。「Doscinkoの楽しさに理性を加えた」のがArcanisです。 |
| Estrella | 2DD+4BA | ミドルハイ | 優等生的なバランス型。 全帯域がフラットで、どんなジャンルも無難にこなす万能機。 | Estrellaは万能ですが、Arcanisほどの**「音の厚み」と「没入感」**はありません。ArcanisはEstrellaの上位互換的な解像度を持ちつつ、よりドラマチックな音作りがされています。 |
| Arcanis | 2DD+5BA | ハイエンド | 超解像度リスニング型。 深い低音とクリアな高域を両立した完成形。 | 兄弟機の「良いとこ取り」をした完全体。コストやサイズを度外視して、ZiiGaatの理想とする音を追求したモデルと言えます。 |
同価格帯のハイブリッド機との比較
他社の人気モデル、例えば「Moondrop Blessing 3」や「THIEAUDIO Hype 4」といった機種と比較した場合、Arcanisの優位性はどこにあるのでしょうか。
- vs Moondrop Blessing 3:
Blessing 3は非常に美しい中高域を持ちますが、低域の量感は控えめでモニターライクです。
対してArcanisは、圧倒的に低域のパンチがあり、ロックやEDMを聴いた時の高揚感で勝ります。
「美しさのBlessing 3、迫力のArcanis」という住み分けになります。 - vs THIEAUDIO Hype 4:
構成も価格も非常に近い、最大のライバルです。
Hype 4は非常に優秀なモニターサウンドで、冷静かつ分析的です。
一方、Arcanisはより「情熱的」です。ボーカルの艶感や低音のグルーヴ感において、よりリスニング(音楽鑑賞)としての楽しさに振ったチューニングが施されています。
「仕事で使うならHype 4、家で音楽を楽しむならArcanis」と私は評価します。
Arcanisが真価を発揮するベストな音楽ジャンル
Arcanisは基本的にはオールラウンダーですが、その特性上、特に以下のジャンルでその真価を発揮します。
映画サウンドトラック:
Hans Zimmerのような、重低音とオーケストラのダイナミクスが激しい楽曲での没入感は、まるで映画館(IMAXシアター)にいるかのようです。
EDM・トランス・ダブステップ:
アイソバリックDDの真骨頂です。
キックのアタック感と、ベースラインのうねりが最高に心地よく、脳汁が出るような体験ができます。
女性ボーカルのアニソン・POPS:
多数の電子音が鳴り響く中でもボーカルが埋もれず、キラキラとした高域が楽曲を華やかに彩ります。
YOASOBIやAdoのような、情報量の多い現代的な楽曲との相性は抜群です。
ZiiGaat 「Arcanis」を使用した私の体験談・レビュー

ここからは、カタログスペックや一般的なレビュー記事からは見えてこない、私が実際にArcanisを長期間使用して感じた「生の声」をお届けします。
開封からファーストインプレッションの衝撃
正直に申し上げます。
開封した瞬間は「あ、やっぱりZiiGaatだな」と少し苦笑いしました。
外箱は非常にシンプルで、内部の梱包もプラスチックのトレーに収められているだけ。
6万円クラスの製品とは思えないほど質素です。
「箱にお金をかけず、全てを音質に振った」という硬派なメッセージだと受け取りましたが、豪華な開封体験を重視する方には少し物足りないかもしれません。
しかし、一聴した瞬間にその不満は吹き飛びました。
「なんだこの音の密度は!?」 箱出し直後から、とてつもない情報量が脳内に流れ込んできます。
特に低域の深さは、今まで聴いてきた同価格帯のイヤホンの中でもトップクラスでした。
この時点で、「これは化け物かもしれない」という予感に震えました。
100時間のエージングによる音質変化の検証
「2DD + 5BA」という複雑なドライバー構成、かつダイナミックドライバーを使用しているため、エージング(慣らし運転)の効果は大きいと予想しました。
そこで、ピンクノイズと通常の音楽を織り交ぜながら、約100時間の連続再生を行いました。
- 箱出し直後:
高域(特にシンバル)に若干の硬さやザラつきがあり、低音も少し暴れ気味で、全体的に音が若い印象でした。 - 50時間後:
低音が引き締まり始め、ボワつきが解消されてきました。他の帯域との分離が良くなり、見通しがクリアになってきます。 - 100時間後:
激変しました。 高域の刺さりが完全に消え、角が取れてシルキーな質感に変化。BAドライバーとDDのつながりが驚くほど滑らかになり、全体的に有機的で艶のあるサウンドに落ち着きました。
結論として、Arcanisはエージング必須です。
箱出しの音だけで判断せず、じっくりと育てていく過程も楽しんでください。
リケーブルでの変化実験:銅線vs銀メッキ線
付属ケーブル(3.5mm)でも十分良い音ですが、Arcanisのポテンシャルはこんなものではありません。
手持ちのいくつかのケーブルでリケーブル検証を行いました。
- 純銅線:
相性抜群です。
もともと強い低域の質感がさらに向上し、中域の厚みが増します。
ウォームで濃厚なリスニングサウンドを求めるなら銅線がベストです。
全体的に重心が下がり、ドッシリとした安定感が生まれます。 - 純銀線・金銀合金線:
高域の伸びと解像度を極限まで高めたいならこちらです。
音場が一気に広がり、微細な音まで拾い上げるようになります。
ただし、曲によっては高域が少しきつく感じる場合があるため、組み合わせには注意が必要です。 - バランス接続(4.4mm)の恩恵:
ケーブルの材質以前に、バランス接続にすることで、左右のセパレーション(分離感)が劇的に向上します。
Arcanisの広い音場を活かすためにも、4.4mmバランスケーブルへのリケーブルは強く推奨します。
個人的な最適解は、「高品質なミックス線(銅+銀メッキ)」です。
低域の迫力を殺さず、高域のクリアさを付与できるため、Arcanisの特性をバランスよく底上げしてくれます。
DAPとポタアンでの駆動比較と駆動力の必要性
スペック上のインピーダンスは12Ω、感度は106dB/mWと、数値上は「鳴らしやすい」イヤホンに見えます。
しかし、実際はかなりの食わせ物です。
- スマホ直挿し:
音量は取れますが、低音がボワつき、全体的に平坦な音になります。
Arcanisの実力の30%も出せていません。宝の持ち腐れです。 - ドングルDAC(1万円クラス):
ある程度駆動できますが、多ドラ特有のクロスオーバーの複雑さを制御しきれていない印象を受けます。
爆音のパートで音が少し混濁する感覚があります。 - iBasso DX180(ミドルハイDAP):
ここで化けます。
ハイゲイン設定で鳴らすと、低域の制動力が劇的に向上し、ビシッと締まった音になります。
DDが本来の動きを取り戻し、サブベースの深みが一段階増します。 - 据え置きアンプ(FiiO K9 AKM):
さらに上の世界があります。
圧倒的なパワーで駆動することで、音場の広がりが限界突破します。
Arcanisは「上流(再生機器)の質を如実に反映する鏡」のようなイヤホンです。
できればDAPやポタアンなど、パワーのある環境を用意してあげてください。
ゲーミング用途(FPS)での定位と足音の聞こえ方
私は普段、ゲーミングデバイスのレビューも行っているため、FPSでもテストを行いました。
結論から言うと、「FPSでも反則級に強い」です。
- 足音の視認性:
Knowles製BAの高解像度のおかげで、乾いた足音やリロード音、回復キットを使用する音が非常にクリアに聞こえます。
環境音に埋もれることがありません。 - 定位の正確さ:
3Dプリンターで作られたシェルの密閉性と、正確な位相管理のおかげで、敵の位置(方向と距離)が手に取るように分かります。
Apex Legendsの最終リングのような乱戦状態でも、「右上の屋根上」と「左下の室内」の敵を音だけで描き分けることができます。 - 低音の迫力による没入感:
競技性だけでなく、迫力も凄まじいです。
グレネードの爆発音やアビリティの効果音がリアルで、タルコフ(EFT)のような没入感を重視するゲームにも最適です。
恐怖すら感じるほどの臨場感です。
「音楽鑑賞も妥協したくないけど、ゲームでも勝ちたい」という欲張りなゲーマーにとって、Arcanisは「チート級」の選択肢になり得ます。
体験談の総括:単なるリスニング機を超えたポテンシャル
Arcanisを使って感じたのは、これが単なる「音楽を聴くための道具」を超えた、「音の体験装置」であるということです。
音楽を聴けばライブ会場の最前列に連れて行かれ、ゲームをすれば戦場に放り込まれる。
それほどまでの没入感とリアリティを提供してくれます。
ZiiGaat 「Arcanis」に関するQ&A

ZiiGaat 「Arcanis」に関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
Arcanisはどのような音楽ジャンルに合いますか?
特にEDM、トランス、ロック、アニソンとの相性が抜群です。 アイソバリック構成による深く沈み込む低音と、Knowles製BAによるクリアな高音が特徴です。低音のビートを感じながら、ボーカルや電子音の細かいニュアンスも楽しみたい楽曲に最適です。一方で、落ち着いたジャズやクラシックで「フラットな音」を求める場合は、低音が強く感じられるかもしれません。
スマホ直挿しでも十分な音量は出ますか?
音量は取れますが、本来の実力は発揮できません。 インピーダンスは12Ωと低いですが、多ドラ構成かつアイソバリックDDを制御するためには、駆動力(パワー)のある再生環境が必要です。スマホ直挿しでは低音が膨らんで聞こえる場合があるため、ドングルDACやDAP(デジタルオーディオプレーヤー)との組み合わせを強く推奨します。
装着感はどうですか?耳が小さくても大丈夫でしょうか?
筐体はやや厚みがありますが、エルゴノミックデザインによりフィット感は良好です。 ただし、2DD+5BAを収めているため、一般的なイヤホンよりはサイズが大きめです。耳が極端に小さい方は、イヤーピース(Azla SednaEarfitやSpinFitなど)で調整することをおすすめします。付属のイヤーピースだけでなく、自分の耳に合うものを探すのも楽しみの一つです。
FPSなどのゲーム用途でも使えますか?
はい、非常に優秀です。 爆発音の迫力はもちろん、高い解像度と正確な定位感(音の方向)により、足音や銃声の位置を特定しやすいです。「音楽鑑賞もガチで、ゲームも勝ちたい」というユーザーには、ゲーミングイヤホン以上の性能を発揮する強力な武器になります。
リケーブルの効果はありますか?おすすめの線材は?
効果は非常に大きいです。 付属ケーブルは3.5mmの標準的なものですが、4.4mmバランス接続対応のケーブルに変えるだけで、分離感と音場の広がりが劇的に向上します。
- 低音をより深めたい場合: 純銅線(OFCなど)
- 高域の伸びを強化したい場合: 銀メッキ線や純銀線 Arcanisは上流の変化に敏感なので、ケーブル選びの楽しさも味わえます。
エージング(慣らし運転)は必要ですか?
100時間程度のエージングを推奨します。 箱出し直後は高域に少し硬さを感じたり、低音のまとまりが悪い場合があります。使い込むことでBAドライバーとダイナミックドライバーの馴染みが良くなり、角が取れて滑らかな音質へと変化します。
電車やカフェで使いたいのですが、音漏れや遮音性はどうですか?
遮音性は非常に高く、音漏れも少ないです。 筐体が耳の形にフィットする樹脂製の充填タイプ(中身が詰まっている構造)であるため、耳栓のようなパッシブノイズキャンセリング効果が得られます。ドライバー駆動用のベント(通気孔)はありますが極小のため、常識的な音量であれば通勤通学の電車内でも周囲への迷惑を気にする必要はほとんどありません。
ホワイトノイズ(サーッという音)は気になりますか?
再生環境によっては聞こえる場合があります。 インピーダンスが12Ωと低く感度も高いため、出力インピーダンスが高い古いDAPや、ノイズ対策が甘いPCのイヤホンジャック直挿しでは、無音時や静かな曲間でホワイトノイズを拾うことがあります。この点でも、S/N比(信号対雑音比)の良い外部DACやDAPを通して聴くことを推奨します。
イコライザー(EQ)での音質調整には向いていますか?
非常に向いています。 搭載されている各ドライバーの基礎性能(耐入力や応答速度)が高いため、EQで低音を少し削ってスッキリさせたり、中域を持ち上げてボーカルを近づけたりしても、音が破綻(歪み)しにくいです。デフォルトの音が「濃すぎる」と感じた場合でも、EQで自分好みのバランスに追い込みやすい素直さを持っています。
1~2万円台のイヤホン(EA500LMやエントリー機)からのステップアップですが、価格差分の感動はありますか?
間違いなくあります。 エントリー機との決定的な違いは、「音の調和」ではなく「音の分離とレイヤー感(層)」に現れます。安いイヤホンでは団子になって聞こえていたサビの部分が、Arcanisでは「ボーカル、ギター、ベース、ドラムがそれぞれ別の場所で鳴っている」感覚にはっきりと変わります。一度この感覚を知ると、もう戻れなくなる可能性が高いです。
ノズル(軸)は太いですか? 市販のイヤーピースはハマりますか?
やや太め(約6mm前後)です。 多ドライバー機特有の太めのノズルを採用しているため、軸が極端に細いイヤーピース(Shure用など)は入りません。 一般的なソニーのハイブリッドイヤーピースや、SpinFit、Azlaなどは問題なく装着できますが、耳穴が小さい方は「傘が小さく、軸が柔らかい」タイプのイヤーピース(例:SpinFit OMNIのS/SSサイズなど)を用意すると、圧迫感を軽減できます。
合わせるDAPやDACの「音の傾向」は、どんなものがおすすめですか?
「解像度重視・クール~ニュートラル系」の機種と相性が良いです。 Arcanis自体が濃厚でウォーム(暖色系)な要素を持っているため、再生機器側はカッチリとした解像度重視のモデル(FiiO系やiBassoのモニター寄りモデルなど)を合わせると、低域の膨らみが抑えられ、全体のバランスが整います。 逆に、真空管アンプのような極端にウォームな機器と合わせると、音が濃厚になりすぎて「暑苦しい」と感じるかもしれません(もちろん、それが好きならアリです)。
ZiiGaat 「Arcanis」レビューのまとめ

最後に、ZiiGaat Arcanisを購入すべきかどうか、そのメリット・デメリットを整理して総括します。
Arcanisを選ぶべき最大のメリット
- 唯一無二の「アイソバリック低音」と「Knowles高音」の融合体験: 他のイヤホンでは味わえない、深淵な低音と煌びやかな高音のコントラスト。
- 同価格帯を圧倒する解像度と情報量: 音楽の新たなディテールを発見できる楽しさ。
- カスタムIEMライクな美しいシェルと優れた装着感: 所有する喜びと、長時間使用できる快適性。
- 音楽鑑賞からFPSゲームまで対応できる汎用性の高さ: これ1本でエンタメの全てを高水準にこなせる。
購入前に知っておくべきデメリットと注意点
- 付属品が質素: リケーブルやケースは別途好みのものを用意する前提で考えるべき。これを「自分色に染める楽しみ」と捉えられるかどうかが鍵。
- 上流環境を選ぶ: スマホ直挿しでは真価を発揮できないため、DACやDAPへの投資が推奨される。
- 筐体がやや厚い: 耳の極端に小さい方は、イヤーピースでの調整が必要になる可能性がある。
このイヤホンが向いている人・向いていない人
【向いている人】
- 「低音の迫力」と「高音の解像度」を両方諦めたくない欲張りな人。
- すでにDAPやポタアンを所持しており、イヤホンの性能を限界まで引き出すのが好きなオーディオファン。
- アニソン、EDM、映画サントラをメインに聴く人。
- ゲームと音楽を1本のイヤホンで高レベルに両立させたいゲーマー。
【向いていない人】
- カマボコ型(中域重視)や、完全フラットで味付けのないモニターサウンドを好む人。
- スマホ直挿しで手軽にいい音を聴きたい人(この場合はエントリーモデルの方がコストパフォーマンスが良いでしょう)。
- パッケージの豪華さや付属品の充実度を重視する人。
潜在能力を引き出す推奨周辺機器(イヤーピース・ケーブル)
最後に、私がArcanisと組み合わせて「これは合う!」と感じたベストマッチなアイテムを紹介します。
- 推奨イヤーピース:
- Azla SednaEarfit XELASTEC II: 体温で変形して耳道に密着するため、重たい筐体をしっかり支え、低音の逃げを完璧に防ぎます。
- SpinFit W1: 装着感を高めつつ、中高域の抜けを良くしたい場合に最適。音場が少し広がります。
- 推奨ケーブル:
- NICEHCK DragonScale (龍鱗): 低域の深みと音場の広がりを強化。見た目のゴージャスさも相まって、Arcanisとの相性は抜群です。
- Effect Audio Ares S: 銅線らしい温かみと、キレのあるサウンドを両立。ロックやジャズ好きにおすすめです。
ZiiGaat 「Arcanis」レビューの総合評価と最終結論
ZiiGaat Arcanisは、新興ブランドの製品とは思えないほど完成されたイヤホンです。
「低音の迫力」と「高解像度」という、本来トレードオフになりがちな要素を見事に両立させています。
付属品の少なさという明確なウィークポイントはありますが、それを補って余りある「音質の暴力」がここにはあります。
この音を一度聴いてしまえば、付属品のことなど些細な問題に思えるはずです。 もしあなたが、5万〜10万円の予算で「聴いていて最高に楽しいイヤホン」を探しているなら、Arcanisは間違いなく「買い」の最有力候補です。
このイヤホンで聴くお気に入りの楽曲は、きっと今までとは違った景色を見せてくれるはずです。


