「イヤホンは、もはやガジェットではなく『楽器』である」
そんな哲学を体現するかのような製品が、音響機器の名門Victor(ビクター)から登場しました。同社が誇る「WOODシリーズ」の完全ワイヤレスイヤホン、待望のフラッグシップモデル**「Victor WOOD master」**です。
発売日は11月20日、価格は約4万1800円。 昨今のハイエンドイヤホン市場においても強気の価格設定ですが、発売前からオーディオファンの間で大きな話題を呼んでいます。その理由は、単にスペックが高いからではありません。「木」という有機的な素材を振動板に採用し、日本最高峰の録音スタジオ「ビクタースタジオ」が監修を務めるという、音質への並々ならぬこだわりが凝縮されているからです。
しかし、4万円を超えるイヤホンとなると、購入には慎重になるものです。 「SonyやTechnicsのフラッグシップ機と比べてどうなのか?」 「木の振動板は、本当に音質に違いをもたらすのか?」 「ノイズキャンセリング性能は実用レベルか?」
本記事では、これらの疑問に答えるべく、Victor WOOD masterを徹底的に深掘りします。スペックシートだけでは読み取れない「音の質感」や「使い勝手」、そしてライバル機種との詳細な比較を通じて、このイヤホンがあなたにとって「買い」なのかどうかを検証していきます。
音楽をただ聴くのではなく、「感じる」ためのデバイス。その全貌を一緒に見ていきましょう。
- Victor WOOD masterの製品特徴と技術仕様
- ビクタースタジオ監修によるVictor WOOD masterの独自のサウンド体験
- Victor WOOD masterのライバル機種(Sony・Technics)との性能比較
- Victor WOOD masterを使用した私の体験談・レビュー
- Victor WOOD masterに関するよくある質問(Q&A)
- iPhoneを使っていますが、高音質で聴けますか?(LDAC非対応ですが…)
- 「木の振動板」は湿気や汗に弱くないですか?
- ゲームや動画視聴時の「音ズレ」は気になりますか?
- 片耳だけで使用することはできますか?
- マルチポイント接続は何台まで対応していますか?
- ノイズキャンセリング使用時に「圧迫感」はありますか?
- 5つの「プロフェッショナルモード」以外に、自分でイコライザー調整はできますか?
- 傷が消える「自己修復塗装」は、どんな傷でも消えますか?
- 競合のSony WF-1000XM5と迷っています。決め手はどこですか?
- Androidスマホを持っていますが、ハイレゾで聴けますか?
- ワイヤレス充電(置くだけ充電)には対応していますか?
- イヤホン本体で「音量調整」はできますか?
- 最新規格の「Bluetooth 6.0」対応にはどんなメリットがありますか?
- 「空間オーディオ」は、専用の音源(Dolby Atmosなど)じゃないと効果がないですか?
- Victor WOOD masterレビューのまとめ
Victor WOOD masterの製品特徴と技術仕様

Victorが満を持して送り出したこのフラッグシップモデルには、他社製品には見られないユニークかつ高度な技術が多数投入されています。
なぜVictorは、加工が難しくコストもかかる「木」にこだわり続けるのか。
その技術的背景と、エンジニアの執念とも言える工夫を紐解きます。
新開発「ハイブリッドウッドドライバー」の音響効果
WOOD masterの最大の特徴であり、その存在意義とも言えるのが「ハイブリッドウッドドライバー」です。
【技術解説】なぜ、オーディオに「木」が最適解なのか?
オーディオの世界において、理想的な振動板の条件は「矛盾する2つの要素」を両立させることです。
- 音の伝搬速度が速いこと(軽くて硬い): 立ち上がりの鋭い、解像度の高い音を出すため。
- 内部損失が大きいこと(余計な響きを吸収する): 素材固有の響き(鳴き)を抑え、原音を濁らせないため。
既存の素材にはそれぞれ弱点がありました。
- アルミニウム・チタン(金属): 音は速いが、内部損失が小さく「キーン」という金属固有の響きが乗りやすい。
- 紙(パルプ): 内部損失は大きいが、剛性が低く、音のスピード感や微細な表現に限界がある。
- 樹脂(プラスチック): 安価だが、音質特性は中庸。
対して「木(ウッド)」は、自然素材でありながら音の伝搬速度が非常に速く、かつ適度な内部損失を持つという、奇跡的なバランスを持っています。
楽器(ギター、バイオリン、ピアノ)の多くが木で作られているのは、この音響特性が優れているからに他なりません。
業界初のハイブリッド構造と「不揃い」の美学
今回の新ドライバーは、極薄の木材加工技術を持つVictorだからこそ実現できた11mm径の大口径ドライバーです。
ベースとなるパルプ振動板に、楽器制作にも使用される高級木材「アフリカンローズウッド」を配合しています。
技術的な革新ポイントは、「あえて大小異なる大きさの木片(ウッドチップ)を混在させてコーティングしている」点です。
| 構造の違い | 音への影響 |
| 均一な素材 | 特定の周波数で強い「共振(ピーク)」が生まれ、それが「音のクセ」や「特定の帯域の強調」になる。 |
| 不均一な素材 (今回のウッドチップ) | 素材の大きさや重さがランダムであるため、共振点が分散される。 → 特定の帯域が強調されることを防ぎ、全帯域でフラットかつ豊かな響きを実現。 |
「インパルス応答性」の劇的な向上
この新ドライバーがもたらす最大のメリットは、「インパルス応答性(音の反応速度)」の改善です。
メーカー公開のデータでは、入力信号に対する追従性が飛躍的に向上しています。
- 立ち上がりの速さ:
信号が入った瞬間に振動板が動くため、ドラムのアタックやギターのカッティングが鈍らず、リズムのキレが生まれます。 - 立ち下がりの良さ(制動性):
信号が止まれば、振動板もスパッと止まる。これが非常に重要です。余計な振動が残ると、次の音と混ざって「音がボヤける」原因になります。WOOD masterは「静寂」の表現が巧みだと言われるのは、この立ち下がりの良さが物理的に優れているからです。
楽器の美学を感じるデザインと自己修復塗装
多くの完全ワイヤレスイヤホンが、機能性を重視したマットなプラスチック筐体を採用する中、WOOD masterは工芸品のような佇まいを持っています。
■ カラーバリエーションとモチーフ
| カラー | モチーフ | デザイン詳細 |
| サンバーストブラウン | アコースティックギター | 木目が美しく透けるグラデーション塗装。中心から外側へ濃くなる「サンバースト仕上げ」は、まさにヴィンテージギターそのもの。アクセントのゴールドパーツには、ギターのペグやブリッジに使われる真鍮のような輝きがあり、温かみのある高級感を演出します。 |
| ピアノブラック | グランドピアノ | 深みのある漆黒のグロス仕上げ。何層にも塗り重ねられたような艶は、コンサートホールのピアノを想起させます。光の当たり方で表情を変える美しい黒は、スーツスタイルにもマッチするフォーマルな印象です。 |
■ 充電ケースのこだわり
円形のケースには、楽器ケースをイメージしたレザー調のテクスチャーを採用しています。
指にしっとりと馴染むシボ感は、プラスチック製品のツルツルした感触とは一線を画します。
また、ケース中央のメタルバンドとロゴプレートがレトロモダンな雰囲気を醸し出し、「ガジェット」ではなく「愛用品」としての所有欲を満たします。
■ 驚きの機能:「自己修復塗装」
イヤホン本体のトップハウジング(外側)には、高級車のボディコーティング技術を応用した「自己修復塗装」が施されています。
- 機能: 塗膜自体に高い弾力性と柔軟性を持たせる特殊配合。
- 効果: 日常使用でついてしまう爪の擦り傷や、ポケットの中での摩擦傷程度であれば、時間が経つにつれて塗膜が弾性変形して復元し、傷が消えます。
- メリット: 光沢のある製品は傷が目立ちやすいのが欠点ですが、この技術により、長期間使用しても美しい工芸品のような輝きを維持できます。
新形状イヤーピース「スパイラルドットPro SF」
高音質と装着感を支えるため、イヤーピースも刷新されました。
Victorの「スパイラルドット」シリーズは、オーディオファンが他社製イヤホンに付け替えるほど人気のアイテムですが、今回は専用設計の「スパイラルドットPro SF」が同梱されます。
- SF(Spiral Fit)形状:
人間の耳穴は真円ではありません。従来の円形イヤーピースでは隙間ができたり、圧迫感が出たりしていました。「楕円形」を採用することで、耳穴の形状に自然に沿うようになり、密閉度と快適性が格段に向上しました。 - 浅めのフィット(ショートタイプ):
傘の部分を低く設計。耳の奥まで無理に押し込む「栓」のような装着感ではなく、耳穴の入り口付近で優しくシールする感覚です。 - 音質向上ギミック:
- 広い開口部: 音の出口が広いため、ドライバーから出た音が圧縮されず、ダイレクトに鼓膜に届きます。
- ドット配列: イヤーピース内壁に螺旋状に配置されたドットが、音の濁りの原因となる反射音を拡散・吸収し、クリアな音質を実現します。
ビクタースタジオ監修によるVictor WOOD masterの独自のサウンド体験

WOOD masterの価値を決定づけているのが、日本屈指の録音スタジオ「ビクタースタジオ」による徹底的なサウンドチューニングです。
アーティストの想いを一番知っているプロフェッショナルたちが、「このイヤホンでどう聴かせたいか」を突き詰めています。
プロの音を楽しめる5つの「プロフェッショナルモード」
通常のイコライザーとは別に、現役エンジニアが監修した5つのプリセットが用意されています。
これらは単なる周波数調整ではなく、「楽曲の魅力を引き出すための演出」が凝縮されています。
実際の試聴イメージと共に解説します。
| モード | サウンド傾向 | 試聴イメージ・おすすめシーン |
| Professional 1 | エネルギー・低域重視 中低域が豊かで、音圧を感じるパワフルな設定。 | 【Rock / Live】 ライブハウスの最前列にいるような感覚。ベースの弦のうねりや、ドラムのキックが胸に響くような迫力を楽しみたい時に。 |
| Professional 2 | 原音忠実・空間重視 フラットで正確な定位。色付けのないモニターサウンド。 | 【Classic / Jazz】 コンサートホールのS席。各楽器の位置関係が正確に見えるため、録音の良い音源を分析的に聴きたい時に最適。 |
| Professional 3 | ボーカル・感情重視 声の輪郭とブレス(息遣い)を際立たせる。 | 【Ballad / Pops / ASMR】 ボーカリストが目の前で歌っている距離感。リップノイズや、歌い終わりの消え入るような余韻まで鮮明に。 |
| Professional 4 | アンサンブル・レイヤー重視 楽器の重なり(層)を整理し、ハーモニーを美しく響かせる。 | 【Orchestra / Chorus / Anison】 音数の多い曲でもごちゃつかない。主旋律の裏で鳴っているストリングスやコーラスワークを発見できる。 |
| Professional 5 | 解像度・臨場感重視 全帯域の抜けが良く、アタック感を強調。粒立ちの良い現代的な音。 | 【Fusion / EDM / Tech】 超絶技巧の演奏や、打ち込みの細かい音が粒立って聞こえる。最も「高音質」だと感じやすいハイファイサウンド。 |
スタジオの響きを再現した「空間オーディオ」
Victorの空間オーディオは、DSPで無理やり音を広げるギミックではありません。
ビクタースタジオのミックスダウン専用ルーム「スタジオ202」の音響特性(ルームアコースティック)を完全シミュレートしています。
【Victor流・空間オーディオの凄み】
一般的な空間オーディオが「頭の外で鳴らす」ことに主眼を置くのに対し、Victorは「理想的なスタジオで、最高級のラージモニタースピーカーを聴いている状態」を再現しようとしています。
- 自然な定位感:
頭の中で音が鳴るヘッドホン的な聴こえ方ではなく、「目の前にスピーカーがある」という適切な距離感が生まれます。 - 映像作品との相性:
映画やライブ映像を視聴する際、セリフやボーカルは画面(前方)から、環境音や歓声は周囲から聴こえるため、ホームシアターにいるような没入感が得られます。 - 聴き疲れの軽減:
音が頭内に籠もらないため、長時間のリスニングでも閉塞感を感じにくく、リラックスして音楽を楽しめます。
個人の耳に合わせるパーソナライズとK2テクノロジー
専用アプリ「Victor Headphones」を使えば、さらに高度な音質調整が可能です。
■ パーソナライズサウンド機能
人の耳の形は指紋のように千差万別です。
同じイヤホンでも、人によって聴こえている音は微妙に異なります。
この機能では、テスト信号を流して独自のアルゴリズムで外耳道の音響特性を測定。
個人の耳の形状による音のピークやディップ(強調や減衰)を補正します。
これにより、アーティストやエンジニアが意図した「本来のWOOD masterの音」を、誰であっても再現可能にします。
■ K2テクノロジー(発売後アップデートで対応予定)
Victorが誇る、デジタル音源の高音質化技術です。
- 機能:
CD(44.1kHz/16bit)やストリーミング(Spotify/YouTube等)の圧縮音源を、ハイレゾ相当(最大96kHz/24bit)までアップスケーリングします。 - 特徴:
単に周波数帯域を広げるだけでなく、「失われた音楽信号を予測復元する」点が画期的です。波形を滑らかに補正することで、デジタル音源特有の「ギザギザした硬さ」を取り除き、アナログのような滑らかさと倍音成分を付与します。
Victor WOOD masterのライバル機種(Sony・Technics)との性能比較

4万円台の投資をする際、必ず比較対象となるのが、Sony「WF-1000XM5」とTechnics「EAH-AZ100」です。
これら3機種は、現在の完全ワイヤレスイヤホン市場における「御三家」とも言える存在。それぞれの強みを詳細に比較します。
音質比較:温かみのVictor対モニターのSony
| 特徴 | Victor WOOD master | Sony WF-1000XM5 | Technics (AZ100) |
| 音のキャラクター | 温かみ・音楽的・エモーショナル | フラット・優等生・バランス | 高解像度・美音系・分析的 |
| 低域の質感 | 深い。ウッドベースの胴鳴りや空気感まで再現する有機的な響き。 | タイト。無駄な響きを抑えた、正確でパンチのある低音。 | クリア。スピード感重視で、量感よりも輪郭を重視。 |
| 高域の質感 | 滑らか。刺さることなく、自然にスッと消えていく「引き際」の良さ。 | 素直。原音に忠実で、色付けが少ない。伸びやかさも十分。 | 煌びやか。粒子が細かく、ハイレゾ音源の情報を余さず拾う。 |
| ボーカル表現 | 近い・生々しい。体温や息遣いを感じる、情熱的な表現。 | ニュートラル。オケとのバランスが良く、聴き疲れしない。 | 艶やか。特に女性ボーカルの透明感や繊細さが際立つ。 |
【結論:あなたに合うのは?】
- Victor WOOD master:
「音楽を聴いて感動したい」人向け。
アコースティック楽器、ジャズ、クラシック、ボーカルものを好み、スペック上の数値よりも「音の雰囲気」や「質感」を大切にするなら、これ一択です。 - Sony WF-1000XM5:
「失敗したくない」人向け。
どんなジャンルも80点以上で鳴らす万能機。機能性も含めて隙がありません。 - Technics EAH-AZ80:
「音を分析したい」人向け。
微細な音までクッキリ聴き分けたい、高解像度サウンドが好みの人に。
ノイキャン性能:世界最高クラスの実力を検証
メーカーが「世界最高クラス」と謳うノイズキャンセリング(ANC)性能。
実際の環境ごとの効き具合を比較します。
| シチュエーション | Victor WOOD master | Sony WF-1000XM5 | Technics AZ100 |
| 電車・バス(重低音) | ★★★★★ 走行音の「ゴー」という音はほぼ消滅。Sonyと互角。 | ★★★★★ 圧倒的な静寂。この分野では最強。 | ★★★★☆ 十分強力だが、わずかに残る感覚がある。 |
| カフェ(人の声) | ★★★★☆ 音楽を流せば完全に気にならないレベル。 | ★★★★★ 人の声の帯域までカットする力が強い。 | ★★★★☆ 自然に減衰させるタイプ。 |
| 圧迫感(ツーンとする感じ) | 非常に少ない 長時間ONでも耳が疲れない。 | 少なめ 強力だが、少し感じる人もいる。 | 少ない 自然さを重視したチューニング。 |
絶対的な静寂(遮音量)ではSonyがわずかにリードしていますが、Victorは「圧迫感のなさ」と「効きの強さ」のバランスが絶妙です。
特に低域ノイズのキャンセル能力は驚異的で、通勤・通学のストレスを確実に消し去ります。
機能比較:バッテリー・通話品質・マルチポイント
| 項目 | Victor WOOD master | Sony WF-1000XM5 | Technics EAH-AZ100 |
| バッテリー (ANC ON単体) | 約7〜7.5時間 | 約8時間 | 約7時間 |
| マルチポイント | 対応(2台) | 対応(2台) | 対応(3台) |
| 通話品質 | 非常に高い (耐風性能◎) | 非常に高い (骨伝導センサー等) | 非常に高い (JustMyVoice) |
| Bluetooth | Ver 6.0 | Ver 5.3 | Ver 5.3 |
WOOD masterは、最新規格Bluetooth 6.0に対応している点が大きな強みです。
将来的に普及するLE Audioなどの新機能への対応も見据えられており、ハードウェアとしての寿命が長いと言えます。
また、通話品質においてはマイクの風切り音対策が優秀で、屋外の風が強い場所でもクリアな声を相手に届けることができます。
Victor WOOD masterを使用した私の体験談・レビュー

ここからは、実際にVictor WOOD masterを数日間、様々なシチュエーションで使用して感じた「数値には現れない感覚」をレポートします。
開封の儀:高級感あふれるレザー調ケースの手触り
パッケージを開けた瞬間、プラスチック製品特有の無機質さとは無縁の「温もり」を感じました。
私が手にしたのはサンバーストブラウン。
充電ケースを取り出すと、レザー調の加工が指先にしっとりと吸い付きます。
中央のメタルパーツは、光を受けると鈍く輝き、まるでアンティークのライターや高級時計のような風格。
蓋を開けると、美しい木目調のフェイスプレートが目に飛び込んできます。
この木目はプリントではなく、デザイン処理によるものですが、奥行き感があり非常にリアル。
「自分だけの相棒」を手に入れたという高揚感は、4万円という価格を正当化するのに十分でした。
装着感:楕円形イヤーピースがもたらす快適性
装着して驚いたのは、「圧迫感のなさ」と「安定感」の不思議な両立です。
- 従来のイヤホン: 遮音性を高めるために耳の奥までギチギチに詰め込む → 長時間だと痛い
- WOOD master: 楕円形イヤーピースが耳穴の入り口に「スッ」と蓋をする → 軽やか
本体内側の矢印マークに合わせて、軽くひねるように装着すると、吸盤のようにピタリと安定します。
試しに満員電車での乗り換えで小走りをしてみましたが、ズレる気配すらありません。
「耳に異物を入れている」感覚が希薄なのに、周囲の音はしっかり遮断されている。
この装着感の良さは、特筆すべきレベルです。
音質評価:低域の深みと音の立ち下がりの美しさ
ファーストインプレッションは、「音が深く、そして速い」でした。
【試聴曲:ジャズ・トリオ】
ウッドベースの弦が弾かれた瞬間の「ボン」というアタック音だけでなく、その後に広がる「胴鳴りの重厚感」や「空気の震え」まで再現されます。
これは、従来のプラスチック振動板では出しにくい、木ならではの響きだと直感しました。
【試聴曲:ハイテンポなロック】
「Professional 5」モードで聴くと、驚いたことに「音の引き際(立ち下がり)」が抜群に良いのです。
バスドラムやスネアが「ドン!」と鳴った直後、スパッと音が消えます。
余韻がダラダラと残らないため、次の音が混ざらず、それぞれの楽器が分離してクリアに聞こえます。
「温かみのある音=ボヤけた音」という常識が覆されました。
「温かいのにキレがある」。これは未体験のサウンドでした。
実用性:アプリの操作感と「耳栓モード」の静寂
地味ながら「これは神機能」と感じたのが「耳栓モード」です。
アプリ操作、または本体タップ(設定が必要)で、スマホとのBluetooth接続を切断し、強力なノイズキャンセリング機能だけをONにするモードです。
【実際の活用シーン】
- カフェでの執筆作業: 音楽すら流したくない、無音で集中したい時に。
- 電車での移動中: 読書に没頭したい時に。
通常のイヤホンでも音楽を止めれば似た状態になりますが、スマホの通知音が割り込んだり、接続が切れるアナウンスが鳴ったりします。
このモードなら、それらに邪魔されず「純粋な静寂」だけを手に入れられます。
デジタルデトックスが必要な現代人にとって、最高の贅沢機能だと感じました。
総評:4万円という価格に見合う満足度はあるか
41,800円は決して安い買い物ではありません。
しかし、実際に使ってみて「この音と質感は、他の素材・他のメーカーでは代替できない」という確信を持ちました。
プラスチックや金属では出せない「有機的な温もり」。プロが調整した「音楽的な響き」。
そして所有欲を満たすデザイン。
これらに価値を感じるなら、価格以上の満足感が得られるはずです。
単なる「道具」としてではなく、長く付き合える「パートナー」としてのポテンシャルを秘めています。
Victor WOOD masterに関するよくある質問(Q&A)

Victor WOOD masterに関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
iPhoneを使っていますが、高音質で聴けますか?(LDAC非対応ですが…)
はい、iPhoneでも非常に高音質で楽しめます。 iPhoneは「AAC」コーデックでの接続になりますが、WOOD masterの最大の特徴である「ハイブリッドウッドドライバー」の音響性能自体が非常に高いため、コーデックの違いを超えた「音の厚み」や「温かみ」を十分に体感できます。 また、今後のアップデートで対応予定の「K2テクノロジー」を使用すれば、iPhoneからのAAC接続でもハイレゾ相当まで音質が拡張・補正されるため、さらに満足度は高まるでしょう。
「木の振動板」は湿気や汗に弱くないですか?
問題ありません。IP55相当の防水・防塵性能を持っています。 振動板には耐久性を高めるコーティングや加工が施されており、イヤホン本体もIP55(防塵・防水)に対応しています。日常の汗や雨、湿気程度で「木が腐る」「音が変わる」といった心配はありません。ジムでのワークアウトや小雨の中での使用も可能です。
ゲームや動画視聴時の「音ズレ」は気になりますか?
「低遅延モード」を搭載しており、快適に使用できます。 アプリや本体操作で「低遅延モード」をONにすることで、音声の遅延を大幅に低減できます。動画視聴やRPG、音ゲーなどのカジュアルなゲームプレイであれば、違和感なく楽しめるレベルです。 (※シビアな判定を求められるFPSなどの競技性の高いゲームでは、有線に比べるとわずかな遅延を感じる場合があります)
片耳だけで使用することはできますか?
はい、左右どちらか片耳だけでも使用可能です。 ケースから片方だけ取り出して使用できます。また、使用中に片方をケースに戻しても、もう片方で音楽再生や通話を継続できます。
マルチポイント接続は何台まで対応していますか?
同時に2台までの機器と接続可能です。 例えば「個人のiPhone」と「会社のPC」を同時に接続しておき、PCでWeb会議をしつつ、iPhoneへの着信を待つといった使い方が可能です。 (※Technics EAH-A100のような「3台同時接続」には非対応です)
ノイズキャンセリング使用時に「圧迫感」はありますか?
非常に少なく、自然な効き心地です。 強力なノイズキャンセリング特有の「耳が詰まるようなツーンとする感覚」が極力抑えられています。「世界最高クラス」の消音性能を持ちながらも、長時間着けていても疲れにくい、音楽的なチューニングが施されています。
5つの「プロフェッショナルモード」以外に、自分でイコライザー調整はできますか?
はい、可能です。 専用アプリ内には、5つのプロフェッショナルモード(プリセット)に加え、ユーザーが自由に周波数を調整できるカスタムイコライザー機能も備わっています。自分好みの音質を作り込んで保存することも可能です。
傷が消える「自己修復塗装」は、どんな傷でも消えますか?
浅い擦り傷や摩擦傷には有効ですが、深い傷は消えません。 日常使用でつく爪のひっかき傷や、鞄の中での擦れなどの「微細な傷」に対して復元効果を発揮します。落下による衝撃傷や、鋭利なもので深くえぐれたような傷までは修復できませんのでご注意ください。
競合のSony WF-1000XM5と迷っています。決め手はどこですか?
「静寂と機能性」ならSony、「音楽の感動と質感」ならVictorです。
- Sony WF-1000XM5: とにかく周りの音を消したい、小型軽量が良い、誰が聴いてもバランスの良い音が好き。
- Victor WOOD master: 楽器の音色やボーカルの生々しさを楽しみたい、木のデザインや質感に惹かれる、少し大きくても装着感の良さを重視する。
このように重視するポイントで選ぶと失敗が少ないでしょう。
Androidスマホを持っていますが、ハイレゾで聴けますか?
はい、「LDAC」コーデックに対応しているため可能です。 WOOD masterは高音質コーデックの「LDAC」に対応しています。対応するAndroidスマートフォンと接続すれば、最大96kHz/24bitのハイレゾ音質で、ハイブリッドウッドドライバーの真価を余すところなく体感できます。
ワイヤレス充電(置くだけ充電)には対応していますか?
はい、Qi規格のワイヤレス充電に対応しています。 市販のワイヤレス充電器にケースを置くだけで充電が可能です。もちろん、付属のUSB Type-Cケーブルを使った有線充電も可能で、こちらは急速充電(15分充電で約100分再生)に対応しています。
イヤホン本体で「音量調整」はできますか?
はい、可能です。 初期設定では、イヤホンのタッチセンサー操作で音量の上げ下げ、再生/一時停止、ノイズキャンセリングの切り替えなどが可能です。また、専用アプリを使えば、左右のタップ操作(1回、2回、3回、長押し)に割り当てる機能を自分好みにカスタマイズすることもできます。
最新規格の「Bluetooth 6.0」対応にはどんなメリットがありますか?
主に「接続安定性」と「将来性」です。 現時点ではBluetooth 6.0対応のスマホは少ないですが、最新規格に対応していることで通信の安定性が高く、人混みでも途切れにくい設計になっています。また、次世代オーディオ規格「LE Audio」への対応も見据えており、長く使い続けられるスペックを持っています。
「空間オーディオ」は、専用の音源(Dolby Atmosなど)じゃないと効果がないですか?
いいえ、YouTubeやいつものストリーミング音源でも効果があります。 Victorの空間オーディオ技術は、入力されたステレオ音源(2ch)をリアルタイムで解析し、スタジオのような音場に変換する仕組みです。そのため、Dolby Atmosなどの特殊なフォーマットでなくても、普段聴いているSpotifyの曲や過去のCD音源、YouTubeの動画など、あらゆるコンテンツで立体的な音を楽しめます。
Victor WOOD masterレビューのまとめ

最後に、Victor WOOD masterの魅力を整理し、どんな人におすすめかをご提案します。
WOOD masterを選ぶ最大のメリット
- 唯一無二の「木の音色」ハイブリッドウッドドライバーによる、温かみと高解像度、抜群の応答速度の両立。
- プロ監修の「5つの正解」ビクタースタジオ監修のサウンドモードで、楽曲のジャンルごとに新たな魅力を発見できる。
- 所有欲を満たす「工芸品デザイン」楽器モチーフの外観と、傷を防ぐ自己修復塗装による永続的な美しさ。
- ストレスフリーな「快適性」圧迫感の少ない新開発イヤーピースと、強力かつ自然なノイズキャンセリング。
購入前に知っておきたいデメリットや注意点
- 価格: 約4万円強と高額であり、予算確保が必要。
- 音の個性: 完全なフラット(無味乾燥なモニターサウンド)を好む人には、音のキャラクター(温かみ)が個性的すぎると感じる可能性がある。
- モード名称: 「Professional 1〜5」という名前はシンプルすぎて、慣れるまで特徴を覚えにくい(アプリ内に説明があるので参照しましょう)。
音質重視のユーザーにとっての価値
スペック上の数値(Hzやbit)ではなく、「音楽を聴いた時の感動」や「没入感」を重視するユーザーにとって、WOOD masterは最適解です。
特に以下のようなジャンルを好む方には強くおすすめします。
- アコースティック楽器(ギター、ピアノ、弦楽器)
- ボーカルもの(J-POP、バラード)
- ジャズ、クラシック
- ライブ音源
デザインや所有欲を重視する人への推奨度
「みんなと同じ白いイヤホンや、黒いプラスチックの塊はつまらない」と感じている方へ。
レザー調ケースや木目調のデザインは、ファッションアイテムとしての感度も高く、カフェのテーブルに置くだけで絵になります。「持っているだけで気分が上がる」、大人のためのガジェットです。
競合他社製品と迷っている人へのアドバイス
最後に、究極の選択肢を提示します。
- Sony WF-1000XM5を選ぶべき人:
- 「完璧な静寂」を最優先する。
- 機能の万能さ、優等生ぶりを求める。
- 失敗したくない、無難な選択をしたい。
- Technics EAH-AZ80を選ぶべき人:
- 「高域のキラキラ感」が好き。
- 音を分析的に聴きたい。
- PCとスマホ2台など、3台マルチポイントが必須。
- Victor WOOD masterを選ぶべき人:
- 「音の温もり」や「音楽的な楽しさ」を優先する。
- 「木」の質感やデザインに惹かれる。
- スペックよりも、感性に響くものが欲しい。
Victor WOOD masterレビューの総括
Victor WOOD masterという製品を深く知るにつれ、これが単なる工業製品の枠を超えた、一つの「楽器」であることを強く実感させられます。
市場には利便性やノイズキャンセリング性能などのスペックを極めた優秀なイヤホンが数多く存在しますが、木という有機的な素材を用い、ここまで徹底して「音楽の体温」や「演奏の気配」を再現しようと試みた製品は他に類を見ません。
4万1800円という価格は、ワイヤレスイヤホンとしては確かに高額な部類に入ります。
しかし、新開発のハイブリッドウッドドライバーがもたらす静寂と響きのコントラスト、ビクタースタジオのエンジニアが魂を込めたサウンドチューニング、そして時を経ても美しさを保つ工芸品のようなデザインは、その価格以上の価値を雄弁に物語っています。
もしあなたが、音楽を単なるBGMとして聞き流すのではなく、アーティストが込めた情熱やスタジオの空気感まで深く味わいたいと願うのであれば、このイヤホンは間違いなく最良の選択肢となるはずです。
機能的な「正解」を選ぶなら他社のフラッグシップ機も素晴らしい選択ですが、理屈抜きに感性を震わせる「感動」を選びたいのであれば、Victor WOOD masterこそが、あなたの音楽生活を豊かに彩る生涯のパートナーとなるでしょう。

