完全ワイヤレスイヤホン(TWS)市場は今、かつてないほどの激動期を迎えています。
数千円でノイズキャンセリングが手に入る時代において、「数万円」という高価格帯のモデルに求められるハードルは極めて高くなっています。
単に「音が良い」「便利」なだけでは、ユーザーの財布の紐は緩みません。
そんな中、オーディオ業界に激震が走るモデルが登場しました。EDIFIER(エディファイア)の「STAX SPIRIT S10」です。
実売価格は約4万円。
SONYのWF-1000XM5やBose、Sennheiser、Technicsといった「絶対王者」たちがひしめくこの価格帯に、EDIFIERは「STAX」という伝説的なブランドの遺伝子を引っ提げて殴り込みをかけました。
この製品が単なる高級イヤホンと一線を画すのは、「平面磁界型(プラナーマグネティック)ドライバー」を完全ワイヤレスの極小筐体に搭載し、さらにアクティブノイズキャンセリング(ANC)まで実装してしまった点にあります。
「STAXの音がワイヤレスで聴けるなんて、夢のような話だが本当なのか?」
「平面磁界型ドライバーは駆動力が重要だが、バッテリー駆動のTWSで鳴らしきれるのか?」
「4万円という投資に見合う、圧倒的な体験はあるのか?」
この記事では、オーディオ機器に精通した筆者が、EDIFIER STAX SPIRIT S10を実際に長期間使用し、その実力を徹底的に解剖します。
スペックシートの数字だけでは見えてこない「音の質感」「空気感」、そして日常使いで感じる「細かなストレスや喜び」まで、余すことなくお伝えします。
- EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」の概要とスペック
- EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」の外観デザイン・付属品・装着感の検
- EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」の音質・ノイズキャンセリング・機能性の評価
- EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」を使用した私の体験談・レビュー
- EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」に関するQ&A
- 「平面磁界型ドライバー」とは、普通のイヤホンと何が違うのですか?
- iPhoneでも高音質で聴けますか?
- ワイヤレス充電(Qi)には対応していますか?
- 防水性能はありますか?スポーツで使えますか?
- ノイズキャンセリング(ANC)の効き具合はどうですか?
- 購入直後、音が少し硬い気がするのですが不良品ですか?
- ゲームや動画の遅延は気になりますか?
- マルチポイント接続の挙動はどうですか?
- ヘッドホンの「STAX SPIRIT S3 / S5」と比べてどうですか?
- SONY WF-1000XM5と迷っています。どちらが良いですか?
- どんな音楽ジャンルに合いますか?
- 推奨のイコライザー設定はありますか?
- 装着センサー(着脱検知)は搭載されていますか?
- 音漏れは気になりますか?
- EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」レビューのまとめ
EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」の概要とスペック

まずは、このイヤホンがなぜこれほどまでに注目され、そして「異端」とされるのか。
その背景にある技術とスペックを、オーディオマニアの視点も交えて深掘りします。
STAXのDNAを受け継ぐ「STAX SPIRIT」とは
「STAX(スタックス)」という名前を聞いて、背筋が伸びる思いをするオーディオファンは少なくありません。
1938年に創業されたこの日本の老舗メーカーは、静電型イヤースピーカー(彼らはヘッドホンとは呼びません)の分野で、世界最高峰の技術と評価を確立してきました。
その音は「原音に忠実」であり、究極の解像度を持つとされています。
2011年、EDIFIERがSTAXを傘下に収めた際、多くのファンがその行く末を案じました。
しかし、結果としてそれは幸福な出会いでした。EDIFIERの持つ潤沢な資本と最新のワイヤレス技術、そしてSTAXが80年以上かけて磨き上げた音響技術が融合し、新たなハイエンドブランド「STAX SPIRIT」が誕生したのです。
これまでは「S3」「S5」といったヘッドホン形状でのリリースでしたが、ついにその技術が、技術的な制約の多い「完全ワイヤレスイヤホン(S10)」へと凝縮されました。
これは単なるブランド名の貸し借りではなく、EDIFIERが本気で「TWSの音質的頂点」を取りに来た証拠と言えるでしょう。
世界初レベル?平面磁界型ドライバーとANCの融合
STAX SPIRIT S10の心臓部には、一般的なイヤホンとは全く異なる機構が採用されています。
それが「平面磁界型(プラナーマグネティック)ドライバー」です。
通常、イヤホンの9割以上は「ダイナミック型」を採用しています。
これはドーム状の振動板をボイスコイルでピストン運動させる方式で、低音の迫力が出しやすい反面、高速な音の動きに対して振動板がたわみ、微細な歪み(分割振動)が発生しやすいという弱点があります。
対してS10が採用した平面磁界型は、極薄のフィルム全体にコイルパターンを印刷し、強力な磁石で挟み込んでフィルム全体を均一に振動させる仕組みです。
- メリット: 振動板全体が同時に動くため、歪みが極限までゼロに近く、音の立ち上がり・立ち下がり(トランジェント)が爆速です。
- デメリット: 構造が複雑で大型化しやすく、また駆動に大きなパワーを必要とします。
S10の凄さは、独自技術「EqualMass™」配線技術を用いた12mm口径のドライバーを開発し、この「重くて・デカくて・鳴らしにくい」はずの平面磁界型をTWSサイズに収めたことです。
さらに、通常は開放型(オープンエアー)で使われるこのドライバーを密閉し、アクティブノイズキャンセリング(ANC)まで搭載しました。
これは技術的な矛盾を解決したブレイクスルーであり、他社が容易に真似できない領域に達しています。
Snapdragon Sound・LDACなど対応コーデックの全貌
最高のドライバーがあっても、送られてくるデータが劣化していては意味がありません。
S10は、音の入り口となる「転送技術(コーデック)」においても、現状のBluetoothオーディオの限界に挑戦しています。
心臓部にはQualcommの最新フラッグシップSoC「QCC5181」を搭載。これにより、以下の最新規格をフルサポートしています。
- Snapdragon Sound (aptX Lossless):
対応するAndroid端末(Xperia 1 VIや一部のハイエンド機)であれば、CD音質(44.1kHz/16bit)を「ロスレス(無劣化)」で転送可能です。
従来のBluetoothのようにデータを間引くことなく、CDそのままの情報を無線で飛ばせるため、音の密度が段違いです。 - LDAC:
日本で最も普及しているハイレゾワイヤレス規格。
最大990kbpsの帯域を持ち、96kHz/24bitのハイレゾ再生が可能です。
多くのAndroidユーザーにとって、最も恩恵が大きいのはこのLDAC対応でしょう。 - LHDC 5.0:
最大192kHz/24bitという、驚異的なスペックを誇る規格です。
対応スマホはまだ少ないですが、将来性まで見越したスペックと言えます。
もちろん、iPhoneユーザー(AAC接続)でもドライバー自体の素性が良いため高音質ですが、Androidユーザーであれば「有線イヤホンに匹敵する情報量」をワイヤレスで享受できる環境が整っています。
EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」の外観デザイン・付属品・装着感の検

4万円の製品には、性能だけでなく「持つ喜び」も求められます。
パッケージングから本体の質感、そして長時間使用における快適性まで、厳しくチェックしていきます。
開封体験:高級感を演出するパッケージと付属品
製品が届き、パッケージを手にした瞬間から「特別感」が漂います。
一般的なガジェットの箱とは異なり、厚みのある化粧箱はまるで高級時計のケースのようです。
外箱のスリーブをスライドさせ、しっかりとした内箱を開けると、そこにはベルベット調の素材に守られたイヤホン本体とケースが鎮座しています。
その下層には、驚くほど充実した付属品が整理されて収められています。
【付属品のリスト】
- イヤホン本体(保護フィルム付き)
- 充電ケース
- 充電用USB-Cケーブル(EDIFIERロゴ入り)
- 専用キャリングポーチ(布製)
- イヤーピース(計7ペア):
- XS / S / M / L / XL の5サイズ展開。
- 特筆すべきは、M・L・XLサイズには予備が1ペアずつ同梱されている点です。
- 取扱説明書・保証書(日本語対応)
なぜこれほどイヤーピースが多いのか?それは、平面磁界型ドライバーが「密閉度(シール)」に非常に敏感だからです。
耳とイヤホンの間にわずかでも隙間があると、低音が逃げてスカスカの音になってしまいます。
ユーザーに「絶対に合うサイズを見つけてほしい」というメーカーの執念を感じる構成です。
ケースと本体デザイン:所有欲を満たす質感と注意点
【充電ケース】
手に取ると、プラスチック特有の安っぽい軽さはなく、適度な密度と重量感を感じます。
表面は多層塗装による「パール入りダークグレー」のような深みのある色合いで、光の当たり方によって黒にもガンメタルにも見えます。
天面には「STAX SPIRIT」のロゴプレートがゴールドに輝き、クラシカルな高級オーディオ機器の風格があります。
ヒンジのバネ圧も適切で、「パカン」と閉まる音が心地よいです。
【イヤホン本体】
本体デザインは、カナル型とスティック型を融合させた形状ですが、ドライバー格納部(ハウジング)が平たく、やや大ぶりに作られています。
黒いボディにゴールドのラインとロゴがアクセントになっており、耳元での存在感は抜群です。
注意点:美しさの代償
この美しい光沢仕上げですが、指紋や皮脂汚れは猛烈に目立ちます。
少し触っただけで指紋が残るため、神経質な方は付属のポーチに入れたり、マイクロファイバークロスを持ち歩く必要があるでしょう。
この点は「道具」としての美しさと「実用」のトレードオフと言えます。
装着感と安定性:大口径ドライバーでも疲れにくい理由
「平面磁界型=重い・大きい」というイメージを持っていたため、装着感には警戒していましたが、良い意味で裏切られました。
- 人間工学に基づいたシェル:
ハウジング部分は大きいものの、耳のコンチャ(窪み)に当たる内側の部分は滑らかな曲線を描いており、自然に耳に収まります。 - 重量バランス:
バッテリーやマグネットの重量が耳の奥側に集中するように設計されているため、歩行時や軽い運動時にイヤホンが外側に引っ張られるような遠心力を感じにくいです。 - 固定力:
ノズルは楕円形をしており、耳穴の形状に合わせて密着します。
適切なイヤーピースを選べば、頭を激しく振ってもズレないほどの安定感があります。
3時間ほどの連続使用テストを行いましたが、耳珠(耳の前の突起)や耳甲介艇が痛くなることはありませんでした。
ただし、本体の厚みがあるため、「寝ホン(寝ながら使用)」は不可能です。
枕に耳を押し付けると強く圧迫されます。
あくまで「起きて音楽と向き合う」ための形状です。
EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」の音質・ノイズキャンセリング・機能性の評価

ここからが本題です。
STAXの名を冠する音は本物か?そして、実用機能として搭載されたANCは使い物になるのか?
音質レビュー:平面磁界型特有の解像度と音場表現
一聴して感じるのは、これまでのダイナミック型TWSとは次元の違う「音の速さ」と「情報の濃密さ」です。
- 高音域:
これが平面磁界型の真骨頂です。
BA(バランスドアーマチュア)型のような「カチッとした硬い解像度」ではなく、「空気のように軽く、どこまでも伸びる解像度」です。
ハイハットの金属音、バイオリンの倍音、シンセサイザーの微細なエフェクト音が、一切の濁りなく、かつ耳に刺さることなく再生されます。
「クリアなのに聴き疲れしない」という、極めて高度なチューニングです。 - 中音域:
ボーカルの表現力が圧倒的です。
歌手の口元の動き、ブレス(息継ぎ)の音、声のかすれ具合までが、まるで目の前にあるかのようにリアルに伝わってきます。
特に女性ボーカルの艶やかさは特筆モノで、宇多田ヒカルやAimerのようなニュアンス豊かな歌声との相性は抜群です。 - 低音域:
ここが好みの分かれるポイントです。
ダイナミック型のような「空気を震わせてドスンと来る量感のある低音」ではありません。
S10の低音は、「極めてタイトで、スピード感があり、深いところまで正確に出る低音」です。
ベースラインの動きが見えるような解像度は素晴らしいですが、EDMなどで「脳を揺らすような圧」を求める人には、デフォルト設定では少し上品すぎると感じるかもしれません。 - 音場:
TWSとしては異例の広さです。
音が頭の中で鳴る「脳内定位」が少なく、おでこの前方、あるいは耳の外側にまでステージが広がる感覚があります。
ライブ音源を聴くと、各楽器の配置が手に取るように分かります。
ANC(ノイズキャンセリング)と外音取り込みの実力
多くのユーザーが懸念する「平面磁界型でANCは効くのか?」という点。
結論としては、「業界トップではないが、音楽鑑賞には十分なレベル」です。
- 低域ノイズ:
電車の走行音、航空機のエンジン音、エアコンのファンノイズなどは、かなり綺麗にカットされます。
音楽を流せばほぼ聞こえなくなります。 - 中高域ノイズ:
人の話し声、カフェの食器音、キーボードの打鍵音などは、SONYやBoseの最新機に比べると少し残ります。「静寂」を作るというよりは、「音楽の背景を整える」ためのANCという印象です。 - ホワイトノイズ:
ANCオン時の「サーッ」というノイズは皆無です。
特筆すべきは外音取り込み(アンビエントモード)の自然さです。
マイクで増幅したような機械的な音がせず、非常にクリアに周囲の音が聞こえます。
イヤホンを着けたままの会話もストレスなく行えます。
通話品質とマルチポイント・ゲームモードの使い勝手
ゲームモード:
アプリでオンにすると、遅延を0.08秒(80ms)まで短縮できます。
FPSガチ勢には向きませんが、動画視聴やRPG、タイミング判定の緩い音ゲー程度なら全く違和感なくプレイ可能です。
通話品質:
「aptX Voice」に対応しており、32kHzの超広帯域通話が可能です。
実際に強風の屋外でテストしましたが、トリプルマイクとAIアルゴリズムが風切り音をうまく抑制し、相手にはこちらの声がクリアに届いていました。
ビジネスのWeb会議でもメイン機として十分通用します。
マルチポイント:
2台のデバイス同時接続に対応。PCで動画を見ながらスマホの着信を受ける、といった動作もスムーズです。切り替えのタイムラグも1〜2秒程度と実用的です。
EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」を使用した私の体験談・レビュー

スペックや理論だけでは分からない、実際の生活の中で「STAX SPIRIT S10」と共に過ごした1週間のリアルな体験談をお届けします。
ファーストインプレッション:箱出し直後の音とエージングの必要性
正直に告白します。
開封直後、初めて音を鳴らした時の感想は「あれ?思ったより音が硬い?高音が詰まっている?」というものでした。
4万円もしたのに失敗したか、と一瞬不安になりました。
しかし、これは平面磁界型ドライバー特有の現象です。
新品の振動板はまだ張力が馴染んでおらず、本来の性能を発揮できないことが多いのです。
そこで、普段聴くプレイリストを中音量で流しっぱなしにし、いわゆる「エージング(慣らし運転)」を行いました。
変化が訪れたのは、使用時間が10時間を超えたあたりからです。
霧が晴れたように高音が伸びやかになり、硬かった低音にしなやかさと深みが出てきました。
もし購入直後に音に違和感を持っても、焦らず最低でも10時間〜20時間は鳴らし込んでみてください。
S10は、育てていく楽しさがあるイヤホンです。
通勤・外出時の使用感:人混みや電車内での接続安定性と遮音性
都内の満員電車や、世界一の乗降客数を誇る新宿駅、渋谷のスクランブル交差点といった過酷な電波環境で使用テストを行いました。
- 接続安定性:
最新チップ「QCC5181」の恩恵は凄まじいです。
LDACの最高音質設定(990kbps固定)にすると流石に瞬断することがありましたが、「ベストエフォート(自動)」や「aptX Adaptive」接続であれば、スマホをズボンの後ろポケットに入れていても、音が途切れることはほぼ皆無でした。
左右の通信も非常に安定しています。 - 遮音性と快適性:
電車内では、ANCをオンにすることで走行音の「ゴー」という轟音が「コー」という軽い音に変わります。
音楽を再生すれば、周囲のノイズはほとんど気になりません。
圧迫感の少ないANCなので、1時間の通勤時間中ずっと着けていても「耳が疲れる(ANC酔いする)」ことがありませんでした。
アプリ活用術:イコライザー(EQ)調整で化けるサウンド
専用アプリ「EDIFIER ConneX」は、S10を使う上で必須のツールです。
特にイコライザー(EQ)の設定次第で、このイヤホンのキャラクターは激変します。
- デフォルト「クラシック」:
フラットで聴きやすいですが、少し迫力不足に感じることも。 - プリセット「ダイナミック」:
低音と高音が持ち上がり、ロックやポップスが楽しくなるドンシャリ傾向になります。
多くの人はこれが一番楽しく聴けるかもしれません。 - 筆者おすすめ「カスタマイズ設定」:
個人的におすすめなのが、4kHz〜8kHz(高域)を+2dBほど持ち上げ、100Hz付近(低域)を+1dBする設定です。
これにより、平面磁界型特有の「キラキラ感」がさらに際立ち、女性ボーカルの艶が増しつつ、ベースラインの厚みも確保できます。
ジャンル別試聴:女性ボーカル・クラシック・ロックの相性
様々なジャンルの楽曲を試聴し、S10との相性をチェックしました。
- 女性ボーカル(J-POP / アニソン): 【相性:SS(最高)】
YOASOBI、宇多田ヒカル、Aimerなどを聴くと、息遣いのリアルさに鳥肌が立ちます。
サ行の刺さりも抑えられており、いつまでも聴いていられます。 - クラシック・オーケストラ・ジャズ: 【相性:S(非常に良い)】
楽器の分離感が凄まじく、団子になりがちなトゥッティ(全奏)でも各楽器の位置が分かります。
ホールの残響音(リバーブ)の消え際が美しく再現されます。 - ハードロック・メタル: 【相性:A(良い)】
バスドラムのキックやギターのリフが速く、音が潰れません。
ただ、重厚感よりもスピード感が勝るため、ドロドロとした重さが欲しい場合はEQで低音を盛る必要があります。 - EDM・ヒップホップ: 【相性:B+(普通〜良い)】
キレは抜群ですが、脳を揺らすようなサブベースの量感は、ダイナミック型の大口径ドライバーに軍配が上がります。
上品なダンスミュージックになります。
気になった点:指紋汚れやタッチ操作のクセについて
忖度なしのレビューとして、使っていて気になった点も挙げておきます。
- 指紋汚れ:
前述の通り、ケースも本体もツルツルしているので、触るたびに指紋が付きます。
写真を撮る前には必ず拭きたくなるレベルです。 - タッチ操作の制限:
S10は誤操作防止のためか、操作系のカスタマイズに制限があります。
「1回タップ」の設定ができず、「2回タップ」「3回タップ」「長押し」のみ割り当て可能です。
「1回タップで再生/停止したい」という人には不満が残る仕様ですが、逆に言えば「髪をかき上げただけで音が止まる」というストレスは皆無です。 - ケースからの取り出し:
イヤホン本体がツルツルしており、マグネットも強力なので、指が乾燥しているとケースから取り出しにくい時がありました。
コツとしては、手前に引くのではなく、外側に倒すようにするとスムーズに取れます。
体験談の総括:有線ヘッドホンに近い「聴く喜び」
一週間使い倒して感じたのは、これは「移動時間を潰すための便利グッズ」ではなく、「音楽を楽しむためのオーディオ機器」だということです。
ただBGMとして流すのではなく、「今のギターのフレーズ、こんな音が重なっていたんだ」「このボーカル、ここでブレスを入れているんだ」という新しい発見をするために使いたくなる。
かつて有線ヘッドホンをアンプに繋いでじっくり音楽を聴いていた時の感覚を、完全ワイヤレスの手軽さで、しかも通勤電車の中で味わえる。
これこそが、S10が持つ最大の魅力であり、4万円という価格を正当化する理由だと感じました。
EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」に関するQ&A

EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」に関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
「平面磁界型ドライバー」とは、普通のイヤホンと何が違うのですか?
一般的なイヤホン(ダイナミック型)は「点」で振動板を押し出しますが、平面磁界型は「面」全体で均一に振動します。そのため、音の歪みが極端に少なく、音の立ち上がり・立ち下がりが非常に高速です。結果として、非常に解像度が高く、霧が晴れたようなクリアなサウンドを楽しめます。
iPhoneでも高音質で聴けますか?
はい、十分に高音質です。iPhone接続時はAACコーデックとなりますが、S10はドライバー自体の性能が非常に高いため、一般的なAAC接続のイヤホンとは一線を画す音質を楽しめます。ただし、LDACやSnapdragon Soundなどのハイレゾ転送はAndroid端末のみの対応となります。
ワイヤレス充電(Qi)には対応していますか?
いいえ、対応していません。充電は付属のUSB-Cケーブルで行う必要があります。ただし急速充電に対応しており、約15分の充電で2時間の再生が可能です。
防水性能はありますか?スポーツで使えますか?
IP54規格の防塵・防水性能を備えています。雨や汗程度であれば問題なく使用できるため、ランニングやジムでのトレーニングにも適しています。ただし、完全防水ではないため水没にはご注意ください。
ノイズキャンセリング(ANC)の効き具合はどうですか?
実用上十分なレベルですが、SONYやBoseの最上位モデルと比較すると「無音感」はやや劣ります。電車の走行音などの低音ノイズは強力にカットしますが、人の話し声や高音ノイズは少し残る傾向があります。その分、ANC特有の圧迫感が少なく、音質への悪影響も最小限に抑えられています。
購入直後、音が少し硬い気がするのですが不良品ですか?
不良品ではありません。平面磁界型ドライバーは振動板の張力が馴染むまで時間がかかる特性があります。10時間〜20時間ほど音楽を再生し続ける「エージング(慣らし運転)」を行うことで、高音が伸びやかになり、低音の深みが増します。ぜひ育ててみてください。
ゲームや動画の遅延は気になりますか?
専用アプリで「ゲームモード」をONにすると、遅延を0.08秒(80ms)まで短縮できます。YouTubeやNetflixの視聴、RPGなどのゲームでは遅延はほぼ気になりません。ただし、シビアなタイミング判定が求められる音ゲーや競技性の高いFPSでは、わずかなズレを感じる場合があります。
マルチポイント接続の挙動はどうですか?
非常にスムーズです。例えばPCで動画を見ている最中にスマホに着信があると、自動的にスマホへ音声が切り替わります。通話終了後はPCの音声に戻ります。ただし、LDACなどの高ビットレート接続時は、帯域の都合上、切り替えに一瞬の間が生じることがあります。
ヘッドホンの「STAX SPIRIT S3 / S5」と比べてどうですか?
音のスケール感や余裕という点では、物理的にドライバーが大きいヘッドホン(S3/S5)に軍配が上がります。しかし、S10は「持ち運びやすさ」と、ヘッドホンモデルにはない「ノイズキャンセリング機能」を持っています。自宅でじっくり聴くならS3/S5、通勤・通学で高音質を楽しみたいならS10がおすすめです。
SONY WF-1000XM5と迷っています。どちらが良いですか?
求める要素によります。
- SONY WF-1000XM5: 「最強のノイズキャンセリング」や「コンパクトさ」「多機能さ」を重視する方におすすめ。
- EDIFIER STAX SPIRIT S10: 「音の解像度」「中高域の透明感」「人とは違うこだわり」を重視する方におすすめ。
どんな音楽ジャンルに合いますか?
特に相性が良いのは「女性ボーカル」「クラシック」「ジャズ」「アコースティック」です。繊細な表現力が活きます。逆に、脳を揺らすような重低音が欲しい「EDM」や「ハードなヒップホップ」をメインに聴く場合は、イコライザーでの調整が必要になるかもしれません。
推奨のイコライザー設定はありますか?
好みによりますが、平面磁界型の特徴を活かすならアプリのカスタマイズEQで「4kHz〜8kHz」を少し持ち上げると女性ボーカルの艶が増します。迫力が欲しい場合は「ダイナミック」プリセットがおすすめです。
装着センサー(着脱検知)は搭載されていますか?
はい、搭載されています。イヤホンを耳から外すと自動で音楽が一時停止し、再び装着すると再生が再開されます。アプリの設定でこの機能をOFFにすることも可能です。
音漏れは気になりますか?
平面磁界型は構造上、音漏れしやすい傾向がありますが、S10は密閉型として設計されているため、一般的なカナル型イヤホンと同等の遮音性があります。電車内で常識的な音量で聴く分には、音漏れの心配はほとんどありません。
EDIFIER 「STAX SPIRIT S10」レビューのまとめ

最後に、EDIFIER STAX SPIRIT S10の良い点・悪い点、競合製品との比較を行い、最終的な結論をまとめます。
STAX SPIRIT S10のメリット(良かった点)
- 圧倒的な解像度: 平面磁界型ドライバーならではの、緻密で繊細なサウンド。
- 広い音場: TWSとは思えない、開放的で立体的な空間表現。
- 全方位のコーデック対応: LDAC, LHDC, aptX Losslessなど、Androidユーザーには夢のようなスペック。
- 所有欲を満たすデザイン: 高級感のあるビルドクオリティとパッケージ。
- 安定した装着感: 見た目以上にフィット感が良く、長時間でも快適。
- 実用的なANC: 音楽の邪魔をしない、自然で十分なノイズキャンセリング。
STAX SPIRIT S10のデメリット(気になった点)
- 指紋が目立つ: ケース・本体ともに汚れやすく、手入れが必要。
- ANCは最強ではない: SONYやBoseのような「圧倒的な無音」を求める人には物足りない。
- ワイヤレス充電非対応: この価格帯なら対応してほしかったポイント。
- 低音の量感: 重低音(バスヘッド)好きには、デフォルトだと少し上品すぎる。
- 価格: 約4万円はやはり高価。
おすすめできる人(音質重視・ロマン派)
- 何よりも「音質」を優先したい人: ワイヤレスでも有線並みのディテールを求めたい方。
- 中高域の美しさを重視する人: 女性ボーカル、クラシック、ジャズ、アコースティックな音楽を愛する方。
- Androidスマホユーザー: ハイレゾコーデックの恩恵を最大限に受けられる方。
- 人とは違うモノを持ちたい人: こだわりのあるガジェットとして、所有欲を満たしたい方。
おすすめできない人(最強ANC・コンパクト重視)
- 「無音」を買いたい人: ノイズキャンセリング性能最優先なら、SONY WF-1000XM5やBose QuietComfort Ultra Earbudsの方が満足度は高いです。
- 重低音至上主義の人: 脳を揺らすような低音が欲しいなら、SennheiserやJBLの方が向いています。
- ミニマリスト: ケースや本体が少し大きめなので、コンパクトさを最優先する人には不向きです。
競合モデル(S3/S5・他社フラッグシップ)との比較感
- vs STAX SPIRIT S3/S5 (ヘッドホン):
音の余裕、スケール感はやはり物理的に大きいヘッドホン(S3/S5)に軍配が上がります。
しかし、S10は「ポケットに入るSTAX」という唯一無二の携帯性と、S3/S5にはない「ノイズキャンセリング」を持っています。
日常使いの最強解はS10です。 - vs SONY WF-1000XM5:
機能性(スピーク・トゥ・チャットなど)、ANC性能、コンパクトさではSONYが勝ります。
しかし、純粋な「音のクリアさ」「高域の伸び」「音場の広さ」ではS10が勝ると感じます。 - vs Technics EAH-AZ80:
AZ80はバランスの良い優等生で、3台マルチポイントなどの利便性が強みです。
対してS10は、より「特徴的で鮮烈な音」を楽しめる、趣味性の高いモデルと言えます。
総評:4万円の価値はあるか?
結論として、EDIFIER STAX SPIRIT S10には4万円を支払う価値が十分にあります。
特に、「最近のワイヤレスイヤホンはどれも似たり寄ったりで、面白みがない」と感じているオーディオファンにこそ、聴いてほしい一台です。
平面磁界型ドライバーが奏でるサウンドは、これまでのTWSの常識を覆すポテンシャルを秘めています。
もしあなたが、通勤や通学、カフェでの作業中に、「ただのBGMではなく、心震える音楽体験」を求めているなら、S10は最高のアパートナーになるはずです。
毎日の何気ない移動時間が、至高のリスニングタイムへと変わる体験を、ぜひあなたも味わってみてください。


