「ワイヤレスイヤホンに8万円?正気か?」
正直に申し上げます。
私も最初はそう思いました。
市場には1万円台で十分な性能を持つ製品が溢れ、3万円台を出せばハイエンドと呼ばれる名機が手に入る時代です。ソニー、ボーズ、テクニクス、ゼンハイザー……名だたるブランドがしのぎを削る激戦区でさえ、4〜5万円が上限です。
そんな中で、日本のオーディオブランドNUARL(ヌアール)が投じた一石、それが「Inovatör(イノベーター)」です。
82,500円。
この価格は、最新のスマートフォンや、ハイエンドなグラフィックボードに匹敵します。
イヤホン単体にこの金額を投じることに、躊躇しない人はいないでしょう。
しかし、実際にこのイヤホンを耳にし、その裏側に詰め込まれた技術の「狂気」とも言えるこだわりを知ったとき、その価格への疑念は「納得」へ、そして「興奮」へと変わりました。
- 世界初の「2×2 Sound」テクノロジーによる、物理法則への挑戦
- 有線ピュアオーディオの発想を持ち込んだ「バイアンプ駆動」
- 次世代ドライバー「xMEMS」がもたらす、未体験の音速
- そして、聴覚の常識を覆す「Audiodo」による脳レベルの個人最適化
これは単なる高級イヤホンではありません。
「無線で有線を超える」という、オーディオファンの長年の夢に対するNUARLからの回答であり、ポータブルオーディオの歴史における特異点です。
この記事では、数々のオーディオ機器に触れてきた筆者が、NUARL Inovatörの実機を徹底的に使い倒し、その音質、デザイン、そして実際の使い勝手を余すところなくレビューします。
スペックシートだけでは伝わらない、空気感、アーティストの息遣い、そして所有する悦びを、ありのままの言葉でお伝えします。
- 世界初の衝撃!Inovatörが搭載する「2×2 Sound」の正体
- 聴覚の個人最適化が生むInovatörの「究極のリアリティ」とは
- 4.8万円の価値を問う!NUARL 「Inovatör」の芸術品レベルのデザインと付属品
- NUARL 「Inovatör」を使用した私の体験談・レビュー
- NUARL 「Inovatör」に関するQ&A
- 8万円という価格は正直高すぎると思いますが、それだけの価値はありますか?
- 筐体が大きく見えますが、装着感や重さはどうですか?
- ノイズキャンセリングの性能は、SONYやBOSEと比べてどうですか?
- どんなジャンルの音楽に合いますか?
- 音の「個人最適化(パーソナライズ)」は必ずやるべきですか?
- バッテリー持ちは悪いですか?
- ゲームや動画視聴時の遅延は気になりますか?
- LDACなどの高音質コーデックで接続しても、音は途切れませんか?
- WEB会議やテレワークでの通話品質はどうですか?
- 8万円もするイヤホンですが、スポーツで汗をかいても大丈夫ですか?
- タッチ操作の感度はどうですか?誤操作しませんか?
- 正直、同じ価格帯の「有線イヤホン」と比べて音質はどうですか?
- iPhoneユーザーです。LDAC(ハイレゾ)が使えませんが、それでも買う価値はありますか?
- 「エージング(慣らし運転)」は必要ですか?
- 市販のイヤーピース(SpinFitやAZLAなど)に交換できますか?
- NUARL 「Inovatör」レビューのまとめ
世界初の衝撃!Inovatörが搭載する「2×2 Sound」の正体

Inovatörが「革新者」と名付けられた最大の理由は、その内部構造にあります。
これまでの完全ワイヤレスイヤホン(TWS)の設計思想を根底から覆す、極めてマニアックかつ贅沢なアプローチが詰め込まれています。
ここでは、なぜこの構造が「革命」なのかを技術的な側面から深掘りします。
有線級のこだわり「バイアンプ駆動」とクロスオーバーレス設計
一般的なハイブリッドドライバー(異なる種類のスピーカーを複数搭載した)イヤホンは、ネットワーク回路(クロスオーバー)を使って、入力された電気信号を「低音用」と「高音用」に振り分けます。
しかし、この物理的な回路を通すことで、電気抵抗によるロスや、コンデンサやコイルによる位相(タイミング)の乱れが生じることが、オーディオ設計の宿命的な課題でした。
Inovatörが選んだ解決策は、コスト度外視のあまりにも贅沢なものでした。
- クロスオーバーレス(物理ネットワーク回路の撤廃)
- バイアンプ駆動(各ドライバーに専用のアンプを用意)
つまり、SoC(システム・オン・チップ)から出力されたデジタル信号を、DSP(デジタル信号処理)段階で劣化なく帯域分割し、高域用・低域用それぞれに用意された独立したDAC(デジタル・アナログ・コンバーター)とアンプへ送り込み、ダイレクトにドライバーを駆動させているのです。
| 項目 | 一般的なハイブリッドTWS | Inovatör (2×2 Sound) | 音質への影響 |
| 駆動方式 | 1つのDAC/アンプで全ドライバーを駆動 | 2つの独立したDAC/アンプで個別駆動 | 駆動力の向上、相互干渉の排除 |
| 帯域分割 | 物理回路(LCネットワーク)を使用 | **DSP(デジタル処理)**で分割 | 電気的ロスの極小化、位相乱れの解消 |
| 歪み率 | ネットワーク素子による歪みが発生しやすい | 素子を通さないため極めて低歪み | 原音の純度をそのまま鼓膜へ届ける |
これは、数十万円〜数百万円クラスの据え置きオーディオシステムでスピーカーを鳴らす際の「バイアンプ接続」や「マルチアンプ駆動」と同じ思想です。
限られたバッテリーと極小のスペースしかないTWSの中でこれをやってのける技術力には脱帽するしかありません。
これにより、音が濁る幕が一枚剥がれ落ちたような、鮮烈な鮮度を実現しています。
音がスピーカーから鳴っているというよりも、「何もない空間から音が湧き出てくる」ような感覚に近いでしょう。
次世代の響き「xMEMS」ドライバーがもたらす高域革命
Inovatörの高音域を担当するのは、今オーディオ界で最も注目されている米国xMEMS Labs社のMEMSスピーカーです。
従来のスピーカーは、ボイスコイルに電流を流し、磁石との反発力で振動板を揺らす「電磁誘導方式」でした。
しかしMEMSスピーカーは根本的に原理が異なります。
シリコンウエハー上に形成されたピエゾ素子(圧電素子)が、電圧をかけることで物理的に変形し音を出す、いわば「半導体スピーカー」です。
xMEMSドライバーがもたらす3つの革新:
- 圧倒的な過渡特性(トランジェント):
可動部が極めて軽量なシリコンであるため、立ち上がりが爆速です。
スネアドラムの打撃音や、アコースティックギターのピッキングの瞬間など、音の「アタック」が鈍らず、極めて正確に再生されます。 - 位相特性の優秀さ:
機械的な共振がほとんどないため、位相ズレ(音のタイミングの乱れ)が起きにくい特徴があります。
これにより、空間表現や音の定位(配置)が驚くほど正確になります。 - 超高域再生能力:
可聴帯域を遥かに超える40kHz以上の帯域まで、歪みなくスムーズに伸びます。
人間の耳には聴こえない帯域ですが、これが「空気感」や「倍音の豊かさ」として知覚されます。
従来のバランスド・アーマチュア(BA)型ドライバーも高精細と言われてきましたが、xMEMSの音はそれよりもさらに「硬質で、速く、緻密」です。
あえて言葉にするなら、BA型が「精密な機械時計」なら、xMEMSは「レーザー光線」のような鋭さと純度を持っています。
シンバルの余韻が粒子レベルで分解されて耳に届く感覚は、Inovatörでしか味わえない唯一無二の体験です。
低域を支える8mm径「NUARL DRIVER [N8]v4」の実力
超高速なxMEMSドライバーとペアを組むには、並大抵の低域用ドライバーではスピード感が追いつかず、音が分離して聴こえてしまいます。
そこでNUARLは、このモデルのために専用開発された8mm径ダイナミックドライバー「NUARL DRIVER [N8]v4」を搭載しました。
振動板にはLCP(液晶ポリマー)を採用しています。
LCPは、ソニーのハイエンド機などでも採用実績のある素材で、軽量かつ高剛性、そして内部損失(余計な振動を止める力)が高いのが特徴です。
実際に聴いて驚くのは、低音の「深さ」と「キレ」の矛盾する要素の両立です。
ボワつくような膨らみは一切なく、バスドラムのキック音は「ドン」という重い音ではなく、「ドッ!」という空気を圧縮したようなタイトな衝撃として伝わってきます。
それでいて、サブベースのような地を這う重低音もしっかりと底から支えてくれる。
また、このダイナミックドライバーとMEMSスピーカーを「同軸上」に配置している点も見逃せません。
高音と低音が同じ位置から発せられるため、音がバラバラにならず、一つの点から放射される「点音源」に近い理想的な鳴り方を実現しています。
この「最先端の半導体スピーカー」と「熟成されたダイナミックドライバー」のハイブリッド構成が、互いの長所を打ち消すことなく完全に調和している。
これがInovatörの音響設計の妙です。
聴覚の個人最適化が生むInovatörの「究極のリアリティ」とは

ハードウェアが「強靭な肉体」なら、ソフトウェアは「天才的な頭脳」です。
Inovatörのもう一つの核となるのが、スウェーデンのAudiodo(オーディオドゥ)社と提携したパーソナライズ機能です。
これが、Inovatörをただの「高音質イヤホン」から「あなた専用のモニター」へと進化させます。
従来のイコライザーとは別次元の「Audiodo」技術
「アプリで聴力を測定して音を調整する」機能(AnkerのHearIDなど)は、他社製品にも存在します。
しかし、Audiodoの技術は、単に「聴こえにくい周波数のボリュームを上げる」という単純なEQ(イコライザー)処理ではありません。
Audiodo Personal Soundの凄み:
- 時間軸の補正(タイムアライメント):
耳の形状や耳道の長さによって生じる「音の到達時間の微細なズレ」までも補正します。
これにより、音の輪郭が滲まず、クッキリと結像します。 - 左右独立かつ非対称な処理:
人間の耳は左右で聴こえ方が全く異なります。
Audiodoは右耳と左耳、それぞれの特性に合わせて全く異なる補正カーブを作成し、左右のバランスを脳の中心で完全に整えます。 - 音響心理学のアプローチ:
単に「耳(鼓膜)」の特性だけでなく、「脳」がどう音を知覚し処理しているかという音響心理学モデルに基づいた演算を行っています。
これにより、単に「周波数バランスが良い音」になるだけでなく、「ピントが極限まで合った音」になります。
カメラのレンズのフォーカスリングを回して、被写体にバチッとピントが合った瞬間のような、視界(聴覚)が一気にクリアになる快感が得られます。
アプリ測定で激変するサウンドステージと定位感
専用アプリ「NUARL Connect」での測定プロセスについて具体的に解説します。
測定は静かな部屋で行う必要があります。
アプリの指示に従い、「ピー、ピー」「プップッ」という様々な周波数のビープ音が流れます。
音が聴こえたら画面のボタンをタップし、聴こえなくなったら離す、という「健康診断の聴力検査」のような作業を片耳ずつ、数分間行います。
測定が終わり、パーソナライズをONにした瞬間、世界が激変します。
- OFFの状態: 「うん、解像度が高くて綺麗な音だね。でも少し音が遠いかな? 平面的かも。」
- ONの状態: 「!!? ボーカルが目の前に来た! 楽器の位置が前後左右に展開される! 霧が晴れた!」
決して大袈裟ではなく、これくらいの劇的な変化があります。
特に驚くのが定位感(音の位置関係)の向上です。
今まで頭の中で左右一直線上に並んでいた楽器が、急に立体的になり、ドラムは奥に、ボーカルは手前に、ギターは横に、といった奥行きや高さまでもが感じられるようになります。
これは、イヤホンの性能を限界まで引き出し、自分自身の聴覚の癖をキャンセルすることで初めて到達できる領域です。
空間オーディオとノイズキャンセリングの相乗効果
Inovatörには「空間オーディオ」機能も搭載されています。
これはいわゆる「ステレオ音源をアップミックスしてサラウンド化する」機能ですが、Audiodoで最適化された状態で使用すると、非常に自然な広がりを見せます。
- Musicモード:
不自然な残響過多にならず、適度な空気感を付加し、スタジオやライブハウスにいるような感覚。
長時間聴取でも聴き疲れしません。 - Cinemaモード:
低域の迫力とセリフ(中音域)の明瞭度を上げ、映画館のようなダイナミックレンジの広さを演出します。
Netflixなどでアクション映画を見ると、爆発音の衝撃が頭の周りを駆け巡ります。
また、ノイズキャンセリング(ANC)も非常に優秀です。
「ハイブリッド・アクティブ・ノイズキャンセリング」を採用しており、圧迫感の少ない自然な効き味ながら、電車の走行音(ゴーという低周波)やエアコンのファンノイズなどは強力にカットします。
特筆すべきは、ANCをONにしても音質変化が極めて少ないこと。
これは、バイアンプ駆動による余裕のある駆動力と、DSP処理の精度の高さが成せる技でしょう。
多くのTWSではANCオン時に低域が痩せたり高域が曇ったりしますが、Inovatörはその純度を保ち続けます。
4.8万円の価値を問う!NUARL 「Inovatör」の芸術品レベルのデザインと付属品

音質にお金を払うのは当然ですが、8万円という価格ならば「所有する喜び」や「工芸品としての美しさ」も不可欠です。
Inovatörはその点においても、妥協のないアプローチをとっています。
医療用グレード樹脂とハンドメイドによる工芸的筐体
Inovatörの筐体(シェル)は、大量生産のプラスチック金型成形ではなく、3Dプリンティング技術を用いて作られています。
素材には、補聴器などにも使われる医療用グレードの樹脂を採用。
アレルギー反応が起きにくく、人肌のような滑らかな感触で、長時間つけていても不快感が少ないのが特徴です。
さらに驚くべきは、その仕上げ工程です。
3Dプリントされた素体を、熟練の職人が一つひとつ手作業で研磨し、幾層ものクリアコーティングを施しています。
そのため、表面にはプラスチック製品特有の「継ぎ目(パーティングライン)」が一切なく、濡れたような艶やかな光沢を放っています。
工業製品というよりは、ジュエリーや高級万年筆に近い質感を醸し出しています。
実用性と高級感を兼ね備えたケース・付属品の完成度
付属品に関しても手抜かりはありません。
- 充電ケース:
筐体と同じく美しい仕上げが施されています。
蓋の開閉機構もマグネットの吸着力が絶妙に調整されており、「カチッ」という小気味良い音とともに閉まります。
ワイヤレス充電にも対応しており、実用性も確保されています。 - イヤーピース: 2種類が同梱されており、好みに合わせて使い分けられます。
- 「Block Ear+7」(抗菌シリコン): 装着感と遮音性のバランスが良い標準タイプ。音のヌケが良く、Inovatörのクリアさを活かせます。
- 「Magic Ear+9」(フォームタイプ): 低反発素材で、より強力な遮音性と密閉感を得られます。低音の量感が増し、ANCの効果も高まります。
- ポーチ: 傷防止のための、質感の良いファブリックポーチが付属します。
特にイヤーピースの選択肢が最初から用意されているのは嬉しいポイントです。
xMEMSの性能を活かすにはフィット感が命となるため、これらを使い分けて自分に最適な装着感を探ることができます。
NUARL 「Inovatör」を使用した私の体験談・レビュー

ここからは、実際に私がInovatörをメイン機として数週間、通勤、デスクワーク、カフェでの作業など、あらゆるシーンで使用した忖度なしの体験談をお届けします。
開封の瞬間から始まる「特別感」と第一印象
パッケージを開けた瞬間、そのプレゼンテーションに圧倒されました。
重厚な箱の中央に鎮座するイヤホンは、緩衝材に守られ、まるで博物館の展示品のように輝いています。
手に取ると、意外なほどの軽さを感じます。
見た目は多ドライバー機らしくボリュームがありますが、中身が詰まった重さはなく、重量バランスは良好です。
ペアリングのためにケースを開けると、LEDインジケーターが呼吸するように柔らかく点滅します。
「これから特別な音楽体験が始まる」という期待を裏切らない、フラッグシップモデルに相応しい開封体験でした。
装着感の本音:大ぶりな筐体は耳にフィットするのか
ここは正直に書きます。
Inovatörの筐体は、一般的なTWSに比べて「大きい」です。
多ドライバー構成と独立アンプ、大容量バッテリーを内蔵しているため、物理的な厚みがあります。
私の耳は平均的なサイズですが、装着すると耳から少し飛び出すような見た目になります。
耳の小さい方、特に小柄な女性の方だと、耳のくぼみ(コンチャ)に収まりきらず、不安定になる可能性があります。
この点は、購入前に試着ができるなら強く推奨します。
しかし、装着感自体は「見た目ほど悪くない」というのが結論です。
カスタムIEM(インイヤーモニター)のノウハウを活かしたエルゴノミクスデザインが採用されており、耳の複雑なカーブにピタッと沿う形状になっています。
一度ベストな位置に収まってしまえば、首を振ったり、軽いジョギングをしたりしても落ちるような不安感はありませんでした。
ただし、寝転がって枕に頭を押し付けるような使い方は、ハウジングが干渉するため不向きです。
これは「最高の音質のために許容すべきサイズ」と割り切る必要があります。
音質検証:パーソナライズ前後の劇的な変化に驚愕
改めて音質の検証です。
検証には、ハイレゾ音源(LDAC接続)を使用し、AudiodoのパーソナライズをONにした状態で聴き込みました。
一言で言えば、「暴力的解像度」と「シルキーな滑らかさ」の同居です。
通常の高解像度イヤホンは、細かい音が聴こえる代わりに「聴き疲れ」しやすい傾向があります。
しかしInovatörは、どれだけ音数を詰め込んでも、一切耳に刺さらないのです。
xMEMSドライバーの歪みの少なさが、この「滑らかさ」を生んでいるのでしょう。
xMEMS特有の「スピード感」とジャンル別相性チェック
具体的な楽曲ジャンルとの相性をチェックしました。
- クラシック・ジャズ:評価【SS】(至高)
Inovatörの独壇場です。
ピアノトリオを聴くと、ウッドベースの指板を叩く音、ハイハットの微細な金属音、ピアノのペダルを踏む音まで、スタジオの空気そのものが再現されます。
ホールの残響音(リバーブ)が消え入る最後の瞬間まで粘り強く描写する表現力は、鳥肌モノです。 - EDM・現代ポップス・アニソン:評価【S】(極めて得意)
打ち込みのビートの速さに完璧に追従します。
音の立ち上がりと立ち下がり(ストップ&ゴー)が速いため、音数の多い曲でもダンゴにならず、一つ一つの音がクッキリと分離して聴こえます。
K-POPなどの激しいダンスナンバーでも、ボーカルが埋もれません。 - ロック・メタル:評価【A】(好みが分かれる)
分離感が良すぎるため、轟音ギターの「壁」のような塊感を求める人には、少し綺麗すぎると感じるかもしれません。
逆に、テクニカルなギターソロや、ツーバスの連打を分析的に聴きたい人には最高です。
ドラムのシンバルワークの鮮明さは、他のイヤホンでは味わえないレベルです。
総じて、「情報量の多い複雑な楽曲」や「アコースティックな生楽器」ほど、Inovatörの真価が発揮されると感じました。
日常使いでの勝手:接続安定性とバッテリー持ちの評価
音質以外の使い勝手についても検証しました。
- 接続安定性:
最新のBluetooth 5.3対応ということもあり、都内の満員電車や渋谷のスクランブル交差点でも、瞬断や音飛びはほぼ皆無でした。
帯域幅の広いLDAC接続時でも安定しており、ストレスフリーです。 - 通話品質とマルチポイント:
「Twin cVc」マイク技術により、通話時のノイズ除去も優秀です。
騒がしいカフェからWEB会議に参加しましたが、相手からは「声がクリアで聞き取りやすい」と好評でした。
iPhoneとMacBook、AndroidとiPadなど、2台同時接続の切り替えもスムーズで、仕事用としても十分に実用的です。 - バッテリーと遅延:
公称値通り、ANC ONで7時間強は持ちます。
これだけハイパワーなアンプを積んでいる割には、非常に優秀な省電力設計だと感じました。
また、「ゲーミングモード」をオンにすれば遅延も体感できないレベルまで短縮され、FPSゲームや動画視聴も違和感なく楽しめます。
体験談の総括:価格の壁を超えた先にある音響体験
Inovatörを使っていて最も感じたのは、「聴き慣れた曲から新しい発見がある」という喜びです。
「あ、ここのコーラス、こんな複雑なハモリ方をしていたんだ」「ベースの弦がフレットに当たる音が聴こえる」「この曲、背景にこんなシンセの音が鳴っていたのか」 そんな発見が次々と訪れるため、つい過去のライブラリを片っ端から聴き直してしまい、気がつけば数時間が経過していることもしばしばでした。
8万円という出費は確かに痛いです。
しかし、毎日数時間、通勤中や作業中にこの「至福の没入空間」が手に入ると考えれば、その投資対効果は決して低くないと断言できます。
高級なオーディオルームを持ち歩いているようなものですから。
NUARL 「Inovatör」に関するQ&A

NUARL 「Inovatör」に関して、よく聞かれそうな質問とその回答をまとめました。
8万円という価格は正直高すぎると思いますが、それだけの価値はありますか?
「唯一無二の音体験」を求めるなら、価格以上の価値があります。
一般的なイヤホンが高価になる理由は「ブランド料」や「広告費」も含まれますが、Inovatörの場合は「コストのかかる部材と製造工程」が理由です。 世界初の「xMEMSドライバー」と「バイアンプ駆動」の搭載、Audiodo社の高度なパーソナライズ技術、そして職人によるハンドメイド筐体など、本来なら数十万円クラスのカスタムIEM(有線イヤホン)でやるようなことをワイヤレスで実現しています。「無線で最高の音を聴く」という一点において、この価格は正当化されるスペックです。
筐体が大きく見えますが、装着感や重さはどうですか?
見た目よりも軽く、フィット感は良好ですが、耳が小さい方は注意が必要です。
多ドライバーとアンプを内蔵しているため、筐体の体積は一般的なTWSよりも大きめです。しかし、医療用樹脂を用いたカスタムIEM風の形状が耳の窪みにフィットするため、装着してしまえば重さをあまり感じません。 ただし、耳の穴や窪みが極端に小さい方の場合、筐体が耳からはみ出したり、うまく収まらない可能性があります。不安な場合は、販売店での試着をおすすめします。
ノイズキャンセリングの性能は、SONYやBOSEと比べてどうですか?
静寂性は「実用レベル」ですが、強力さでは大手メーカーに譲ります。
Inovatörのノイズキャンセリングは、電車内の走行音やエアコンの音などは十分にカットできますが、人の話し声などの不規則な音に対する消音性能は、SONYのWF-1000XM5やBOSEのQuietComfort Ultra Earbudsといった「ノイキャン特化機」の方が強力です。 Inovatörは「音質を劣化させない自然なノイキャン」を目指しているため、圧迫感の少ないマイルドな効き味が特徴です。
どんなジャンルの音楽に合いますか?
ジャズ、クラシック、アコースティック、複雑な電子音楽に最適です。
xMEMSドライバーの特性により、ピアノ、バイオリン、アコースティックギターなどの生楽器のリアリティは圧倒的です。また、音の立ち上がりが速いため、BPMの速いEDMや、音数の多いアニソンなどもダンゴにならず分離して聴こえます。 逆に、「ズシズシ響く重低音がすべて」というようなクラブミュージック特化の聴き方を好む場合は、少し上品すぎると感じるかもしれません。
音の「個人最適化(パーソナライズ)」は必ずやるべきですか?
はい、絶対にやってください。Inovatörの真価はそこから始まります。
工場出荷時の状態でも高音質ですが、専用アプリ「NUARL Connect」でAudiodoの測定を行うことで、音のピントが合い、定位感(音の位置)が劇的に向上します。測定は数分で終わる簡単なテストですので、開封したらまずはファームウェアアップデートとパーソナライズを行うことを強く推奨します。
バッテリー持ちは悪いですか?
意外にも「かなり持ちます」。
独立したアンプを動かしているため消費電力が激しそうに見えますが、ANC(ノイズキャンセリング)をONにした状態でもイヤホン単体で最大約7時間の再生が可能です。通勤・通学はもちろん、長時間のフライトや作業用としても十分なバッテリー性能を持っています。
ゲームや動画視聴時の遅延は気になりますか?
「ゲーミングモード」を使用すれば、ほぼ気になりません。
アプリからゲーミングモード(低遅延モード)をONにすることで、遅延を大幅に抑えることができます。FPSやリズムゲームをガチでプレイするには有線にかないませんが、動画視聴やRPGなどのゲームプレイであれば、違和感なく楽しむことができます。
LDACなどの高音質コーデックで接続しても、音は途切れませんか?
非常に安定していますが、人混みでの「音質優先」設定には注意が必要です。
Inovatörは電波強度の強いClass 1出力に対応しており、基本的には非常に安定しています。しかし、LDACの最大ビットレート(990kbps)はデータ量が膨大なため、満員電車や渋谷の交差点のような極端な混雑環境では、稀にノイズが入る可能性があります。 その場合は、アプリで接続モードを「Best Effort(自動可変)」にするか、スマートフォン側の設定でビットレートを少し下げることで、音質をほぼ損なわずに安定性を確保できます。
WEB会議やテレワークでの通話品質はどうですか?
相手に「良いマイク使ってる?」と聞かれるレベルで優秀です。
「Twin cVc(Clear Voice Capture)」技術を搭載しており、周囲の雑音をカットして声だけをクリアに抽出してくれます。特に、カフェなどで周囲が少し騒がしい環境でも、自分の声を明瞭に届けることができます。 また、マルチポイント接続に対応しているので、「PCで会議中にスマホに着信があってもすぐに出る」といった使い方ができ、ビジネスツールとしても最強クラスです。
8万円もするイヤホンですが、スポーツで汗をかいても大丈夫ですか?
IPX4の耐水性能があるので、ジムやランニング程度なら問題ありません。
「IPX4」は、あらゆる方向からの飛沫に対する保護を意味します。汗や小雨程度であれば故障の心配はありません。 ただし、完全防水(IPX7など)ではないため、水没や、シャワーを浴びながらの使用はNGです。また、使用後は充電端子の腐食を防ぐため、乾いた布で汗を拭き取るメンテナンスを推奨します。
タッチ操作の感度はどうですか?誤操作しませんか?
感度は良好ですが、アプリでのカスタマイズをおすすめします。
タッチセンサーの反応は良く、軽く触れるだけで操作できます。髪をかきあげた時などの誤操作が心配な方は、専用アプリ「NUARL Connect」でキー割り当てを変更したり、特定の操作(シングルタップなど)を無効化することも可能です。自分の使いやすいように細かく設定できるのもInovatörの魅力です。
正直、同じ価格帯の「有線イヤホン」と比べて音質はどうですか?
「解像度」と「定位感」に関しては、同価格帯の有線機と互角、あるいは環境によっては凌駕しています。
通常、ワイヤレスは有線に劣ると言われますが、Inovatörは「バイアンプ駆動」と「DSPによる理想的な帯域分割」を行っているため、有線イヤホンでありがちな「アンプやケーブルの相性問題」が発生しません。 8万円の有線イヤホンを買っても、それを鳴らし切るにはさらに高額なDAP(プレーヤー)やアンプが必要になります。Inovatörは「これ単体でゴールできる」という点で、トータルのコストパフォーマンスと音質の完成度は驚異的です。
iPhoneユーザーです。LDAC(ハイレゾ)が使えませんが、それでも買う価値はありますか?
間違いなくあります。コーデックの差以上に「ドライバーとアンプの性能差」が大きいからです。
確かにiPhoneはAAC接続となりますが、Inovatörの凄みは「xMEMSドライバーの超高速レスポンス」と「バイアンプ駆動による駆動力」にあります。これらはコーデックに関係なく機能するため、iPhoneで聴いても従来のイヤホンとは次元の違う解像度と立体感を感じられます。 また、Audiodoの個人最適化もiPhoneアプリで同様に機能するため、Inovatörの魅力の9割以上はiPhoneでも享受できます。「iPhoneだから」という理由で諦める必要は全くありません。
「エージング(慣らし運転)」は必要ですか?
低音域のダイナミックドライバーを馴染ませるために、20〜30時間ほど推奨します。
高音域のxMEMSドライバーは半導体技術のため、最初からスペック通りの音が出ますが、低音域を担当する「NUARL DRIVER [N8]v4」は物理的な振動板を使用しています。 開封直後は低音が少し硬く感じるかもしれませんが、数十時間鳴らし込むことで振動板が動きやすくなり、低音の深みと広がりが増して、xMEMSとの繋がりがより滑らかになります。育てていく過程も楽しみの一つです。
市販のイヤーピース(SpinFitやAZLAなど)に交換できますか?
ノズル形状は一般的ですが、ケースへの干渉には注意が必要です。
Inovatörのノズルは一般的な太さなので、多くの他社製イヤーピースが装着可能です。ただし、充電ケースの収納スペースがそこまで深く作られていないため、軸が長いタイプや傘が大きいタイプ(AZLA SednaEarfit XELASTECなど)だと、ケースの蓋が閉まらなくなったり、充電端子が接触しなくなる場合があります。 サードパーティ製を使う場合は、「TWS専用設計(軸が短いタイプ)」を選ぶのが無難です。
NUARL 「Inovatör」レビューのまとめ

最後に、NUARL Inovatörの良い点、気になる点をまとめ、どんな人にオススメできるかを整理します。
Inovatörを買うべき「音質探求者」の特徴
以下のような方には、Inovatörは間違いなく「買い」です。背中を押します。
- 現状のTWSの音質に限界を感じており、圧倒的なブレイクスルーを求めている人。
- 「解像度」「音場」「定位」「トランジェント」という言葉に弱いオーディオファン。
- 他人と被らない、工芸品のような美しいガジェットを所有したい人。
- 自分の耳に科学的に最適化された「オーダーメイド」のような音を体験したい人。
購入を見送るべき人と注意点(価格・筐体サイズ)
逆に、以下のような方には慎重な検討をおすすめします。
- 耳の穴が非常に小さい、または耳の形状が特殊な人(購入前の試着を強く推奨します)。
- 「重低音ズンドコ」のような、量感やアタックの強さだけを重視する人(InovatörはあくまでHi-Fi志向のバランス型です)。
- イヤホンにそこまでのコストを掛けたくない、コスパ最優先の人。
競合ハイエンド機との決定的な違い
市場にはSony WF-1000XM5やTechnics EAH-AZ80、Noble AudioのFALCON MAXなどの名機が存在しますが、Inovatörの立ち位置はそれらとは明確に異なります。
- 大手メーカー機: 強力なノイキャン、多機能さ、万人受けするチューニング、小型軽量さが魅力。
- Inovatör: ノイキャン等は必要十分にしつつ、「純粋な音質のリアリティ」と「個への最適化」に全リソースを振った一点突破型。
特に「xMEMS + バイアンプ + Audiodo + ハンドメイド筐体」という組み合わせは、現時点で世界中探してもInovatörしかありません。
この技術構成にロマンを感じるなら、Inovatör一択です。
ファームウェア更新で広がる将来性と期待値
NUARLはファームウェアアップデートに積極的なメーカーであり、ユーザーの声を製品に反映させる姿勢を持っています。
Inovatörも発売後、LDAC対応や機能改善などのアップデートが行われています。
ハードウェアのポテンシャル(FPGAやドライバー性能)が非常に高いため、今後のアップデートでさらなる機能追加や音質のブラッシュアップが期待できる点も、長く愛用する上での安心材料です。
ライター視点で見る「ロマン」の正当性
私は多くのガジェットをレビューしてきましたが、Inovatörほど「作り手の執念」を感じる製品は稀です。
効率を考えれば、汎用のSoCと汎用ドライバーを使えばもっと安く、もっと小さく作れます。
それをせず、あえて困難なバイアンプ駆動やハンドメイド筐体を選んだ。
その「非効率なロマン」こそが、音楽という感性の芸術を楽しむ道具には必要だと思うのです。
NUARL 「Inovatör」レビュー記事の締めくくり
NUARL Inovatörは、ワイヤレスイヤホンの歴史における一つの到達点であり、特異点です。
82,500円。この価格は、単なる「製品代」ではありません。
「最先端の技術」と、あなたの耳のためだけに調整された「あなただけの音」を手に入れるためのチケット代です。
もしあなたが、音楽を単なるBGMとしてではなく、心揺さぶる体験として楽しみたいと願うなら。
Inovatörは、その期待以上の答えを奏でてくれるはずです。
ぜひ一度、この革新的な音の世界に足を踏み入れてみてください。
あなたの「聴こえ方」の概念が、きっと覆るはずです。


